「気候変動対策のさらなる強化を」ーー。
脱炭素の実現に向け、日本とオーストラリアの環境団体が、三井住友フィナンシャルグループ(FG)、三菱商事、東京電力ホールディングス(HD)、中部電力の計4社に対して株主提案を提出した。
気候危機は待ったなしの地球規模課題だが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、原油や天然ガスなどの価格が高騰。世界ではエネルギーの安定供給を優先し、化石燃料に投資する動きも出ている。
こうした中、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出した環境団体が4月13日に記者会見を開き、その理由を語った。
なぜ今、株主提案を提出したのか?
株主提案を出したのは、オーストラリアの環境NGO「マーケット・フォース」、国内の環境NGO「気候ネットワーク」と、国際環境NGO「350 Japan」や「FoE Japan」のメンバーの個人株主ら。
株主提案を提出した背景にあるのは、温暖化を食い止めるための温室効果ガスの削減目標の達成にほど遠い現状だ。
世界の科学者でつくる国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が4月4日に公表した報告書は、現在各国が表明している2030年の削減目標では、パリ協定で明記された世界の平均気温上昇を1.5℃以下に抑えるという目標を達成できない可能性が高いと指摘。「1.5℃」に抑えるには、2025年までに温室効果ガスの排出量を減少に転じさせる必要がある、としている。現状のままでは、世界の気温は今世紀中に3.2℃上昇するとも指摘した。
「350 Japan」の横山隆美代表は記者会見でこうした背景に触れ、「地球の気候環境をかろうじて守ることができる1.5℃以下の上昇に抑える目標の達成には、ほど遠い状況だ」と指摘。
「温室効果ガスの排出は、コロナ禍で2020年に一旦減少したあと、昨年は経済のリバウンドにより排出は過去最高になっており、リスクを高める方向に進んでいる」とも言及し、「温室効果ガスの排出に直接・間接に大きな影響を与えている4企業に気候変動対策を強化する提案を提出した」と語った。
今こそ気候危機に取り組む意義とは?
今こそ企業が気候危機に注力すべき理由について、横山氏は記者会見でこう訴えた。
「今、新型コロナ感染やロシアのウクライナへの軍事侵攻といった国際的な危機に焦点が当たっていますが、長期的には気候危機は、全人類が抱えるさらに大きな課題です。この危機を前に、欧州のグリーンディールやアメリカのグリーンニューディールに見られるように、脱炭素社会へのパラダイムシフトが起こっています。企業として、従来の事業戦略にこだわり、このような世界のシステム変革の流れに乗り遅れることは、成長の機会を逃すのみならず、化石燃料ビジネスからの座礁資産の増加という、財務上の問題につながり、株主の価値を毀損することにつながります」
気候ネットワークの平田仁子理事も記者会見で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で一変したエネルギー情勢について言及し、脱炭素に向けて「今」取り組む重要性について強調した。
「エネルギー価格の高騰やエネルギー供給問題が日本にものしかかってきているというのはもちろん承知していますが、この株主提案は、今日、明日全てガスを止めろと言っているものではありません。これから先のインフラで10年、20年先にも影響を及ぼすような投資や事業方針を今、見直してほしいということ。その必要性はこのウクライナ情勢で揺らぐものでは全くなく、むしろこの化石燃料のリスクがこんなに大きくなった今だからこそ、今決断することが必要であり、その背中を押す株主提案であると思います」
IPCC第6次評価報告書の執筆者の一人である、森林総合研究所の森⽥⾹菜⼦主任研究員はハフポスト日本版の取材に対し、「気候変動対策の目標達成に向けた準備は今すぐ進めなければならず、脱炭素に向けた社会システムの変革を急がなくては間に合いません」と指摘する。
「新型コロナの感染拡大があり、そしてウクライナ危機などでエネルギーと安全保障の問題も浮き彫りになっています。様々な危機はありますが、再生可能エネルギーの普及など、日本を含めて国際社会は気候変動を食い止める歩みを緩めるべきではありません」と語った。
何を提案した?
三井住友FG、三菱商事、東京電力HD、中部電力に対する株主提案の内容と、環境団体のメンバーが語った理由は以下の通り。
三井住友FG
株主提案の内容:
・パリ協定で掲げた目標と整合する短期(2025年まで)、中期(2030年まで)の温室効果ガス削減目標を含む事業計画を策定し、開示すること。
・国際エネルギー機関(IEA)によるネットゼロ排出シナリオに従い、新規の化⽯燃料供給、関連インフラ設備の拡⼤に貸付および引受による調達資⾦が⽤いられないことを確実にするため積極的な措置を策定し、開⽰すること。
理由:
「銀行は、それ自体の直接の排出量は大きくないが、投融資を通じ、多くの企業の温室効果ガスの排出に関与している。三井住友FGは、最近の調査では化石燃料に対し、2016年から昨年まで、1000億ドルを超える資金提供をしたと指摘されている」
三菱商事
株主提案の内容:
・パリ協定で掲げた目標と整合する短期(2025年まで)、中期(2030年まで)の温室効果ガス削減目標を含む事業計画を策定し、開示すること。
・新規の重要な資本的支出と2050年温室効果ガス排出実質ゼロの達成目標との整合性評価を開示すること。
理由:
「商社は、化石燃料関連のプロジェクト開発に携わっている。三菱商事は国内外で再生可能エネルギーの開発に積極的ではあるが、他方、海外、例えばベトナムのブンアン2や第1クアンチャック石炭火力発電所の建設に関わっている。また、各国企業が撤退する中、温室効果ガスの排出のみならず、人権侵害でも問題視されている、ロシアのサハリン2にも関与し続けているが、ロシアの戦争を支援することにもなり、同社の国際的な評判リスクを高めることになる」
東京電力HD・中部電力
・日本政府などが掲げる2050年の温室効果ガス排出ゼロをめざすシナリオにおける、火力発電所などのエネルギー関連資産の耐性の評価報告を開示すること。
理由:
「電力会社は化石燃料を使用した発電により、温室効果ガスを排出している。中部電力と東京電力は、日本の電力の約30%を発電しているJERAの株主。東日本に27ヶ所の火力発電所を持ち、1.5℃目標達成のためには2030年までに最も排出が多い石炭火力の全廃が求められている中、横須賀では新たに石炭火力発電所を建設している。2050年ネットゼロの阻害要因となる新たなガス田の開発にも、オーストラリアのバロッサで関与している。これらは長期にわたり、温室効果ガスの排出を固定することになり、再生可能エネルギーへの転換と逆行している」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「モノ言う株主」が日本企業に気候変動対策の強化を求める理由。脱炭素の必要性「ウクライナ情勢で揺らがない」