双子を死産し、福岡高裁で死体遺棄罪の有罪判決を受けた元技能実習生のベトナム人女性が4月11日、最高裁判所に無罪判決を求めて上告趣意書を提出した。
女性は同日、弁護人とともに東京都内で記者会見を開き、「私は絶対に遺体を傷つけたり、捨てたり、隠したりせず、(亡くなった)子どもたちにできる限りのことをしようとしました」と無罪を訴えた。
死体遺棄罪で有罪判決、これまでの経緯
会見で訴えたのは、2018年に来日し、熊本県芦北町のみかん農園で働いていたべトナム人の元技能実習生、レー・ティ・トゥイ・リンさん(23)。実習期間中の20年11月15日、自室で双子の男児を出産し、死産となった。強制帰国を恐れて、妊娠や出産を周囲に明かすことができなかったという。
リンさんは翌日、監理団体の関係者に連れて行かれた病院の医師に死産や経緯を打ち明けた後、死体遺棄事件として逮捕、起訴された。リンさん側は公判で、埋葬する意思があり、遺体を放置したのではなく「安置」だとして無罪を主張したが、一審・熊本地裁は執行猶予付きの有罪判決に。
二審の福岡高裁でも有罪判決(懲役3か月・執行猶予2年)が言い渡され、最高裁に上告していた。
亡くなった子どもに手紙
「私は絶対に(亡くなった)双子の子どもたちの体を傷つけたり、捨てたり、隠したりしていません」。上告趣意書の提出後、都内で記者会見を開いたリンさんは、そう強調した。
「(死産した当日は)精神的にも肉体的にも非常に苦しかったですが、子どもたちのためにできる限りのことをしようとしました。血まみれの布団の上で子どもたちを冷たくさせることはできませんでした」
リンさんは子どもの遺体をタオルでくるんで段ボール箱に入れ、その上に別のタオルを掛けた。2人には「コイ(かっこいい)」「クォン(強くたくましく)」と名付け、お詫びの言葉と「天国で安らかに眠ってください」と書いた手紙を段ボールに添えた。
「寒くないように」と、2人を入れた段ボール箱をさらに大きな白い箱の中にしまい、セロハンテープで封をし、自室の扉の近くにある棚の最上段に安置した。ベトナムでは棺桶をドアの近くに置き、人々が遺体を訪問する習慣がある」とリンさんはいう。
上告趣意書は、「死体を隠す意思や他者が発見することを困難にする行為があった」などとして死体遺棄罪の成立を認めた高裁判決について「被告人の死者への感情を一顧だにせず、『死者の葬祭はかくあるべきだ』とのマジョリティの価値の押し付け」と指摘。
「わが子に強い悲しみや謝罪の気持ちを持ち、衷心をもって行われた行為は、強い嫌悪感や冒涜感を喚起するものでもなく、目的・態様いずれも『遺棄』とは評価できない」として、無罪を主張した。
妊娠後の実習継続困難、再開は2%
誰にも妊娠を打ち明けられず、孤立して出産し、2人の子どもを失い、罪に問われたリンさん。一体なぜ、誰にも相談しなかったのか。
背景にあったのは、「妊娠を知られると帰国させられる」という大きな不安だった。
厚生労働省によると、2017〜20年の3年間で妊娠を理由に技能実習を継続困難になった事例は637件に上り、実習を再開できたのはわずか2%の11件だった。
法務省や厚労省は2019年以降、「婚姻、妊娠、出産等を理由として技能実習生を解雇その他不利益な取扱いをすることや、技能実習生の私生活の自由を不当に制限することは、法に基づき認められない」と注意喚起している。だが「環境の改善は道半ばだ」(石黒大貴主任弁護人)。
リンさんは来日するため手数料など150万円もの費用を工面し、来日後はベトナムの家族に毎月10万円程度、仕送りをしていた。仕事を失って帰国することをおそれ、誰にも相談できずに大きなお腹を抱えながらみかん農園で働いた。
当然、仕事を軽くしてもらうことはできなかった。20年11月14日、みかんの収穫のために登っていた木の上でバランスを崩し、転落しないように踏ん張ったという。同日夜から腹痛に襲われ、翌15日朝に死産した。
11月末にもベトナムに帰国して出産するという計画は叶わなかった。リンさんは「(雇用主や監理団体には)技能実習生に日本での妊娠・出産についてちゃんと説明し、実習生が妊娠したらガイダンスをしたり、仕事を軽くしたりしてほしい」と語った。
外国人技能実習生だから?
記者会見でリンさんは「私が外国人の(元)技能実習生だから、私の行動は有罪とされたのではないですか。もし私が日本人だったら、おそらく起訴されず、裁判にかけられなかったと思います。裁判所は外国人を差別していることになりませんか」とも問いかけた。
リンさんが起訴される3日前、東京都内では自宅で死産し、遺体を黒いビニール袋に入れていたという女性が死体遺棄容疑で逮捕されたが、この女性は不起訴となった。
この例を引き合いに、石黒主任弁護士は「外国人の女性を起訴しても誰も反論しないからといって、警察はリンさんの行為を『外国人の公安事件』として扱った。『外国人の犯罪を抑止する』という価値観で警察が動き、司法がそれを追認している。私たちはこの事件を、差別として認識している」と話した。
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「有罪判決はマジョリティの価値の押し付け」。双子を死産したベトナム人の元技能実習生、無罪を求める最高裁への上告趣意書の内容とは?