京王線で10月31日夜、東京都調布市内を走行中の電車内で男が刃物で乗客を刺し、車内に火をつけた事件。国領駅に緊急停車した車両の窓から乗客が逃げ惑う姿は、事件下の混乱を表していた。
乗客が窓から脱出した背景には、車両ドアを“開けられなかった”という京王電鉄の判断があった。車内で何が起きていたのか。京王電鉄への取材などから追っていく。
車内で何が起きていたのか
事件が起きたのは10月31日午後7時56分ごろ。電車が布田駅を通過中に乗客が非常通知装置を押した。
非常通知装置はその場で通話できるタイプだったが、押した乗客はその場を去った様子で、京王電鉄側の呼びかけに応答はなかった。その時点では、車内で何が起きているのか把握できていなかったという。
京王電鉄では、非常通知装置が押された際、状況が把握できていない場合は、次の最寄り駅まで走行し緊急停車するという対応を取っている。
車両が国領駅に向かっていると、車掌のいる車両まで逃げてきた別の乗客が「刃物を持った人がいる」と報告。車掌はそこで状況を把握したという。
車両はその後、国領駅に緊急停車。その際に、停車位置が本来よりも1メートル手前にずれた。位置を修正しようとしたが、乗客が非常用のドア開放装置「ドアコック」を使用したため、前進できない状態になったという。勾配でさらに1メートル後退し、停車位置が本来よりも2メートルずれたという。
車両のドアとホームドアの位置が離れているため、車両のドアを開けると、一部の車両で乗客が線路に転落しけがをする恐れがある。車内はパニック状態で、乗客が窓からホームに脱出し始めており、ホームドアに足をかけて脱出する人の姿もあった。
車掌ら京王電鉄側はこうした状況を踏まえて、車両のドアを“開けられない状態”であると判断したと説明。窓から脱出する乗客の安全を確保する方向で対応したという。
京王電鉄は緊急停車までの一連の対応について「社の規定に照らして、間違っていなかった」とハフポスト日本版の取材に説明。停車位置がズレたことについては「本来は止まるはずのない国領駅への停車という事情もあった」と釈明した。
非常用ドアコックは使用すべきか?
今回の事件では、車外に逃げようとした乗客がドアコックを使用した影響で、車両全体のドアが“開けられない”という事態が起きた。
国土交通省鉄道局が作成した「鉄道の安全利用に関する手引き」(2010年)に、非常用ドアコックの扱いについて書かれている。
「列車内で火災が発生したとき、係員から指示のあったときなどは、非常用ドアコックを使用しましょう」とある。一方で「列車内で不審者や不審物の発見、急病人、けんかなどを見つけたとき、荷物がドアに挟まったときなどは、非常用ドアコックを使ってはいけません」とされている。
その上で、車外に脱出する際は「他の列車や高電圧の設備などがあり、大変危険ですので、十分に注意しましょう」と書かれている。
今回は車内で火災が発生しており、手引きが示す使用条件に当てはまる。
京王電鉄の立場はどうか。
担当者は、ドアコックについて「これを使って外に出てください、と案内しているものではありません」と説明する。
理由については「ドアコックを使って降りてしまうと、転落や走行中の別の車両にひかれてしまう危険があるからです」と述べた。
今回のケースについて尋ねると、京王電鉄は「それで助かった(脱出できた)人もいたと思いますので」と答え、使用を控えるよう呼びかけることまではしないという。
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京王線刺傷事件で「窓からの脱出」が起きるまで。ドアを“開けられなかった”京王電鉄の判断