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米保険会社CEO殺害事件で、「容疑者」のヒーロー視が加速。なぜ?背景には国民の「保険への怒り」があった

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マンジョーネ被告=2024年12月10日、米ペンシルベニア州マンジョーネ被告=2024年12月10日、米ペンシルベニア州

米大手保険会社ユナイテッドヘルスケアのCEOブライアン・トンプソン氏がアメリカ・ニューヨークで射殺された事件で、ルイジ・マンジョーネ被告(26)が殺人などの罪で起訴された。

特筆すべきは、マンジョーネ被告は逮捕される以前から「CEO射殺犯」としてすでにカルト的な人気を得ていたことだ。

「犯人が特定されず、何百年もアメリカの伝説のヒーローになることを願う」というSNS投稿には、約14万の「いいね!」。

捜査当局が監視カメラによる被告の粗い画像を公開すると、その整ったルックスから「彼女はいるのかな?」など好意を向ける投稿も多く見られた。

ニューヨークでは、彼のそっくりさんコンテストまで開催された。

【画像】逮捕前に警察が公開したマンジョーネ被告の写真

狙撃犯にこれほどの“サポーター”がついたことは、アメリカでいかに、医療保険会社への不信感が広まっているかを物語っている。

不正と闘う「不法者ヒーロー」とは?

マンジョーネ被告は26歳で、ペンシルバニア大学を卒業し、テック企業に勤めていた。12月16日に逮捕されると、彼を支援するクラウドファンディングのキャンペーンも立ち上がった。

これらのキャンペーンは後に、暴力犯罪で告発された人のために資金を集めることを禁じる規約に違反するとしてサイトから削除。

だがキャンペーンの説明には「ルイジはアメリカ人の生活を破壊させる企業に立ち向かうため、すべての危険を冒した」「彼のストーリーが語られ、それがなぜ私たちや家族にとって重要なのかを伝えるために、彼を支援するのは私たちの義務です。我々国民のために!」となどと書かれていた。

マンジョーネが民衆のヒーロー、あるいは保険会社に対する改革者として語り継がれたとしても、アメリカの歴史から紐解くと、驚くことではない。

犯罪は決して許されることではないが、アメリカにはこれまでも、庶民が広く感じている不正と「闘った」不法者を讃えてきた歴史がある。銀行強盗を繰り返す中で何千もの住宅ローン記録を破棄したジョン・デリンジャー氏らもその1人だ。

プリンストン大学の歴史学者のブレント・ショー教授は、「圧倒的な権力への抵抗で、ある人物がなんらかの形で民衆と心が繋がった時、大きな盛り上がりを見せることが多い」と分析する。

しかし、こうした犯罪者に対する反応は皆が同じわけではない。彼らを悪党、人殺し、ろくでもない犯罪者だと非難する人もいる。

マクニーズ州立大学の教授でルイジアナの無法者に詳しいキーガン・ルジューン氏は、「総体として、この種の犯罪者を支持する人々は、必ずしも暴力を信じているわけでも称賛しているわけでもない。代わりに、自分たちが試してきた他の全ての対応が、結果的に変化をもたらすことができなかったことで、追い詰められ、苦しんでいる」と話す。

「それが無法者ヒーローの重要な点なのでしょう。社会的な問題を現実のものとし、議論を具体的なものにする方法なのです」

マンジョーネ被告はなぜ人気を得たのか

大手保険会社CEOが射殺されたこの事件の場合、根底にあるのは、治療を定期的に拒否する医療保険会社に対するアメリカ国民の怒りだ。

警察によると、現場で回収された薬きょうには「deny(否認)」「defend(防御)」「depose(追放する)」という言葉が刻まれていたことがわかっている。保険会社が請求を拒否する際に使う言葉を示唆している可能性がある。

被告が書いたと思われる犯行声明は短いが、「アメリカ国民がそれを許したがために、(保険会社が)莫大な利益を得るために、我が国を乱用し続けている」という鋭い批判が含まれていた。

複数の報道機関によると、マンジョーネ被告は2024年初め、慢性的な背中の痛みを治療するための手術を受けた後、友人や家族と連絡が取れなくなったという。

しかしこうした詳細が明らかになる前から、銃撃事件の犯人が誰であれ、保険会社との間に個人的な辛い過去、例えば愛する人が治療を拒否された、といったことがあっただろうとは、容易に想像ができた。

被告の背景や動機について、ネットではさまざまな憶測が飛び交ったが、アメリカの医療制度がいかに高価で複雑で、機能不全に陥っているかを考えれば、ほとんどの人が保険会社から不当な扱いを受けた経験、もしくはそういった親族がいるだろう。

マンジョーネ被告については、警察が起訴した殺人罪の判決の行方も含め、まだわからないことがたくさんある。しかし彼が慢性的な痛みを抱え、保険会社が「医学的に必要ではない」とみなした治療を受けたという過去があれば、それは多くのアメリカ人に親近感を抱かせるはずだ。

批判的意見も

民衆のヒーローと見るか、冷酷な犯罪者と見るか、それは見る人によって異なる。

マンジョーネ被告を反資本主義的な左翼とレッテルを貼る人もいる一方、彼とリンクしているSNSアカウントからは、自由主義者で右翼のIT系男性という傾向が見られる。

ネット上の脅威を追跡しているNetwork Contagion Research Instituteのアレックス・ゴールデンバーグ氏は、トンプソン氏の殺害についての国民の議論や、狙撃犯を英雄扱いする状況に、専門家の間では動揺が走っているとNew York Times紙に述べた。

銃乱射事件の後、4chanや8chanのような匿名掲示板サイトの投稿者が容疑者を支持し集結することは珍しくないが、今回の場合、その流れがFacebookやXのようなメインストリームの場で行われている。

ゴールデンバーグ氏はNew York Times紙に「この事件は、より広い階級間の争いの幕開けとして扱われている。同様の暴力事件が起こりうる気運を高める危険性もあり、非常に懸念される」と語った。

テキサスの伝承に詳しいクリスティン・ダウンズ准教授は、「結果的に、人が1人殺されたのです。被害者についてよく知りませんが、家族がいたことは知っています。家族がネットを見ず過ごしていることを願います」と懸念を示した。

詳細が明らかになるにつれ、ネット上ではこの事件をもっと冷静に語ろうとする動きもある。誰も殺人を称賛しているわけではないが、アメリカ人が医療制度によってどれほど不遇な状況に置かれているかを考えれば、この議論は遅すぎるという意見だ。

あるZ世代の活動家はSNSにこう書いた。「犯人は救世主ではないが、無料国民皆保険制度の緊急の必要性という重要な話題に火をつけた」

マンジョーネ被告を称賛する動きに対し、トランプ次期米大統領は16日の記者会見で「ただ冷血で恐ろしい殺人だ」「なぜ人々はこの男を称賛するのか。狂っている。最悪だ」と批判した。

ニューヨーク市警察委員長は17日、マンジョーネを起訴したことを発表した記者会見で、トンプソンCEOの死を祝福する多くのアメリカ人を叱咤し、批判した

「はっきり言います。マンジョーネのやったことにヒロイズムはない。これは非常識な暴力行為です。命を奪い、ニューヨークの人々を危険に晒した、冷酷で計算された犯罪です。私たちは殺人犯や殺人を称賛しません」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集・加筆しました。

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米保険会社CEO殺害事件で、「容疑者」のヒーロー視が加速。なぜ?背景には国民の「保険への怒り」があった

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