サステナビリティやSDGsという言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
未来へと暮らしを繋ぐため、色々な国と地域が試行錯誤をしている現代。国際社会の一員として「ゼロカーボンシティかごしま」に取り組む鹿児島市では、現代の暮らしに合わせた形に文化をアップデートすることで、古き良き文化を繋ぐことにも成功している。
今回、鹿児島市の斬新な取り組みの数々について、鹿児島市役所交通局総合企画課の中木屋亮さん、総務局市長室広報戦略室の有満弓恵さんと岩城詩織さんに話を聞いた。
変わらないために変わり続ける「鹿児島市電」
── 早速ですが、鹿児島市電について教えてください。
中木屋さん「実は、鹿児島市電は初めから市電だったわけではないんです。大正元年に鹿児島電気軌道株式会社という民間会社から誕生した路面電車で、昭和3年に鹿児島市が買収したことで市電になりました。
中心市街地を南北に結ぶ比較的小規模でゆったりとした電車ですが、運行頻度の高さによって定時性が守られていることもあり、都心部と副都心を結ぶ公共交通軸として活躍しています。年間100万人以上が通学や買い物、観光などのために使っているんですよ」
── 大正元年から!長きにわたって愛されてきた電車なんですね。
中木屋さん「はい。市民の方々が愛着と誇りを感じる鹿児島の原風景として、また街の観光資源としても愛されている電車です。しかし、モータリゼーションが進んだ昭和40年代から50年代にかけては経営や評価が厳しい時期もありました。今も変わらずに鹿児島市電が活躍しているのは、鹿児島市電が時代に合わせて変化をしてきたからでもあるんです。
例えば平成3年には、道路の両側から吊っていた電線を道路中央の柱にまとめる「市電センターポール事業」が行われました。それまでは空を見上げると縦横無尽に電線が張り巡らされているような状況だったので、これにより美しい街路空間が実現されました。
また、現在は地域ICのラピカやクレジットカードのタッチ決済にも対応しています。70歳以上の方を対象にした敬老パスも導入しており、高齢の利用者もたくさんいるんですよ。定時性が守られている安全な電車を安価で利用できることから、高齢者が外出をする上での気持ちのハードルを下げてくれる側面もあると思います」
身近な存在だからこそ、時代を先導できる。3万5000平方メートルに渡る「緑の軌道敷」
── 近年、CO2を排出しない市電は、環境意識の観点からも注目されていますね。
中木屋さん「はい。鹿児島市は国際社会の一員として、2050年までにCO2排出量を実質ゼロの都市の実現を目指す『ゼロカーボンシティかごしま』に挑戦しています。鹿児島市電も、脱炭素化・持続可能性を促進するピースとして、存在価値を高めています。
今でこそ『サステナブル』や『SDGs』という言葉と共に語られることの増えた環境問題ですが、鹿児島市電ではf2006年から2012年にかけて軌道敷を緑化しました。3万5000平方メートルの緑の絨毯はとても美しく、市民や観光客からも高い評価を得ています。また、これを受けて他県でも市電の軌道敷の緑化がされるなど、先導的な試みだったと思います」
── 市電が暮らしに身近な存在だからこそ、その軌道敷を緑化することで市民の環境意識が高まっていそうですね。「ゼロカーボンシティかごしま」では、他にどのような取り組みがされているのでしょうか?
岩城さん「公共施設に再生可能エネルギーを導入したり、市の公用車として EV(電気自動 車)を導入するほか、市民が EV 等を購入する際の助成やデコ活(脱炭素につ ながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)の普及啓発などを行っています。 その他にも、一般廃棄物を活用した再生可能エネルギーによる創エネ(ゴミを処理しながら効率的に発電やバイオガスを精製できる施設の運営)にも力を注いでいます。
モビリティ関連では、シェアサイクル『かごりん』もぜひチェックしてほしいですね。30分165円で借りられる電動アシスト付自転車で、気軽に利用できます。より小回りの効く移動手段として観光でも大活躍しています。『かごりん』でのゆったりとした観光も、とても楽しいですよ」
マグマのよう?な市民と共に、歴史を守り、文化を繋ぎ、サステナブルな未来を目指す
── 2月10日(土)から開催される「マグマやきいも電車」について教えてください。
岩城さん「鹿児島市では『あなたとわくわく マグマシティ』を合言葉にシティプロモーションを行っています。鹿児島市の魅力を掛け合わせた発信事業のひとつが『マグマやきいも電車』です。鹿児島の特産品として知られるサツマイモを市電に乗って楽しめるイベントで、好評につき今回で第3回目の開催になります。滑らかなシルクスイートやホクホク感が魅力の種子島ゴールドなどの4種類のサツマイモと、味変を楽しめる2種類のソースをご用意しています。
交通局と鹿児島駅前を折り返すルートになっていて、車窓からの景色や、中心市街地の賑わいや活気も楽しめます。焼き芋電車は赤と青のマグマカラーで電飾されていて、暗くなるとビルに反射してとても綺麗なんです」
── マグマシティカラーの赤は鹿児島市民、青は外部の人たちを意味しているそうですね。
岩城さん「はい。『マグマやきいも電車』が始まったのは令和2年で、コロナ禍に遠方への旅行が自粛されている頃でした。しかし、そんな状況下だからこそ、市民の方々にこのイベントを楽しんでいただくことができ、「普段使いしてると実感しづらいけど、やっぱり市電って特別なんだ」「鹿児島のサツマイモはやっぱり美味しいね」と、共に鹿児島の魅力を再確認することができました。
移動が自由化した今、県外から来てくださる方々にもこの『マグマやきいも電車』を楽しんでいただき、共に鹿児島市を盛り上げていきたいという願いが、マグマカラーには込められているんです」
有満さん「鹿児島は桜島という火山の恩恵も受けた土地ですが、観光客やアンケートや市民の方々へのアンケートでも『あったかいのはマグマだけじゃない』『鹿児島の人ってあったかい』という声が多く寄せられています。『ここに行ってみて、これを食べてみて』といったな温かい“おせっかいさ”があるのは、市民の方々がそれぞれに自分の好きなものを分かっていて、それを大事にしてる証拠でもありますよね。
活火山による温泉、大自然の恩恵を受けて育った作物、明治維新をはじめとした歴史など、鹿児島市にはたくさんの魅力が詰まっています。市街地のコンパクトさや充実した交通機関もあり、観光のしやすさにも優れています。歴史を守り、文化を繋ぎ、サステナブルな未来を目指す鹿児島市に、『マグマやきいも電車』を機に遊びにきてくださいね」
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今回の取材はオンラインで行われたが、画面越しでも3人の「あったかさ」が伝わってきた。
筆者が質問を投げかけると、一つひとつに丁寧で的確な回答をしてくれたが、そんな中にも「あ、実はこんなものもあってですね」と、まるで3人と立ち話をしているような気持ちになる瞬間が多々あったのだ。
そして何より、親しみやすさの中に、強くまっすぐな鹿児島への情熱を感じた。有満さんが「何かに挑戦したくなるような元気をくれる街」と語るように、古くて新しい市電の車窓からの景色を眺めながら自慢の焼き芋を食べる「マグマやきいも電車」も、きっと心身を温めてくれる体験になるのではないだろうか。
<マグマやきいも電車>
運行区間:鹿児島市内、交通局〜鹿児島駅前(往復)
運行日:2024年2月10日(土)〜12日(月・祝)、2月14日(水)、2月22日(木)〜24日(土)
発車時刻:16:00、17:30、19:00
※乗車時間は往復で1時間程度となります
参加費:大人(中学生以上)2000円、子供(3歳〜小学生以下)1000円
※参加費には乗車券と焼き芋4種類、オリジナルグッズが含まれます。
参加人数:各回 20名まで
※安全管理上、参加年齢は3歳以上とさせて頂いています。
申し込みは公式ページから。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
変わらないために変わり続ける。鹿児島市電が繋ぐ「青と赤の未来」