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「いい大学を出てるのにこんなこともできないの?」高学歴の発達障害者が抱える苦悩

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ちょうどコロナ禍中、約2年半かけて取材を行いようやくまとまった1冊、『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)。発達障害に関してはこれまでもさまざまな媒体の記事や書籍で執筆してきたが、「高学歴で発達障害のある人」にスポットを当てたきっかけは、とあるweb記事が目に止まったことにある。その記事では高学歴であるにもかかわらず、うまく就労できない当事者の苦悩が記されていた。  

そしてその記事を読んだ数日後、複数の出版社から「高学歴×発達障害をテーマに書籍を書いてほしい」という依頼をいただき、最初に依頼をいただいた版元から出版をすることに決めた。

いい大学出てるのにこんなこともできないの?

ここ数年で発達障害の認知度は上がったよう感じているが、その中には高学歴の人もいる。実際、発達障害当事者を100名近く取材してきたが、目を見張るような学歴を持っている人もいた。

そんな高学歴の人が社会に出た際、どんなことが待っているのか詳しく知りたくなり、まずは偏差値70以上の大学を卒業している当事者の取材を始めた。

それと並行し、よく「発達障害の人は研究職が向いている」と言われがちなことから京都府立大学文学部准教授の横道誠さん、専門家の立場としての意見をうかがいたく精神科医の熊代亨さん、発達障害の学生への支援を行っている筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局の佐々木銀河さん、発達障害者への就労支援を行っているKaienさんにも取材を行った。

高学歴発達障害当事者は十数名取材し、その中からバランスを考え10名を掲載することにした。当事者の多くは学生時代まではうまくやっていけていたが、就活や社会に出た途端つまずいた人が多かった。面接で予期せぬ質問が来た際にうまく話せなかったり、ASD(自閉スペクトラム症)特有の遠回しな質問が理解できなかったりしたというのだ。

実は私自身も同じような経験がある。私は超高学歴ではないが、就活当時偏差値60ほどあった日本女子大に所属していた。日本女子大は人事ウケが良いことが有名で、一つ上の先輩たちからは「エントリーシートや履歴書に『日本女子大』って書けば内定出るよ」と言われていたほどだった。

しかし、私が就活した時期はちょうどリーマン・ショックが起こった年で、同期の友人たちもなかなか内定が出ていなかった。そのため私も内定が出ないのはリーマン・ショックのせいだと思い込んでいたのだが、当事者たちの取材を進めるうち、実はそれ以上に面接で頓珍漢な受け答えをしていたせいだと気づいた。

例えば、「なぜ弊社を志望したのですか?」と面接官に聞かれた際、通常なら「御社の理念に感銘を受け〜」などと答えるところを馬鹿正直に「福利厚生が良かったからです」と答えてしまったり、「最後に何か質問はありませんか?」と聞かれた際、企業にとってはあまり答えたくない「残業はどのくらいありますか?」と質問したりしていた。これらは発達障害の特性の本音と建前がわからないことから起こった失敗だといえる。

なんとか卒業式2週間前に内定をもらった会社は中小企業の建設会社だった。無事内定をもらったものの、入社してから地獄が待っていた。当時は受かればどんな仕事でもいいと思っていたのと趣味のバンドのライブに行きたいがため、定時で上がれる事務職を志望していた。

ところがADHD(注意欠如・多動性障害)と算数障害をもつ私にとって事務職は苦行そのものだった。ADHDで注意が散漫なため会議資料作成のミスに気づけない、経理を担当していたのだが電卓を使っても経費の計算ができないなどさまざまな困難が待ち受けていた。

取材した高学歴発達障害の当事者の中にも、パワーポイントで会議資料を作ってミスがあった際、一つ修正したらその先に続く点も修正しないといけないのに修正できていない、電話対応で想定外の連絡がくるとパニックになって思わず電話を切ってしまったというエピソードを多く聞いた。

その上、高学歴というだけで社内からの期待値が上がって「なんであなたは良い大学を出ているのにこんなこともできないの?」と言われたり、学歴コンプレックスがある上司から小言を言われてつらい思いをしたりしている人が多かった。高学歴というだけで社会人としての合格ラインが上がってしまうのだ。

高学歴というアイデンティティとどう折り合いをつけるか

このように苦労して働いている人もいたが、自分の凸の部分をうまく活かして自分に合った職に就いて毎年昇給している当事者や、引っ越して環境を変えてうまく適応している当事者もいたので、高学歴発達障害者の全員が全員悩みを抱えているとは言い切れなかった。しかしそれでも、やはり定型発達の人と比べると働きづらい傾向にあるのだ。

先述した大学准教授の横道誠さんも、大学教授もサラリーマンの類いに入るとのことだった。研究職は自分の凸の部分を極めればいいと思っていたが、研究に必要な資料や実験器具を購入する際、高額な場合は大学側に申請を出さなければいけないのにうっかりしていて無申請のまま高額なものを買ってしまい、始末書を書かされたという。発達障害のある人は研究職に向いているというのはあくまで定説なのだ。

精神科医の熊代亨さんは、高学歴というアイデンティティとどう折り合いをつけるかについて話してくださった。私も日本女子大学を卒業したことが一種の自信とアイデンティティになっている部分があるので、講演会などでプロフィールを求められた場合、大学名を記している。高学歴発達障害の当事者は高偏差値の大学を卒業したことがアイデンティティになっている部分が大きいのではないだろうか。しかし、高学歴であるがゆえに社会に出た際の周囲の期待値が高く、そのギャップに苦しみ大学名を隠している当事者もいた。このあたりのプライドの折り合いをつけるのが難しいのだ。 

「まるでこれは自分のことのようだ」

この本は高学歴発達障害の当事者だけでなく、身近にそうした人がいる方にもぜひ読んでもらいたい。高学歴=人生勝ち組ではないこと、高学歴ゆえの悩みがあることを知ってもらいたい。

また、エゴサの鬼の私はこの本が出てから主にSNSでいろんな人の感想を読んでいた。その中には「まるでこれは自分のことのようだ」といった声が多かった。支援側にも「どうすればうまく働けるのかを」を取材しているので、ぜひ参考にしてもらいたい。発達障害者の就労支援を行っているKaienさんからは、高学歴ということで就労への道は低学歴の人より開けているという希望のある言葉もいただいた。発達障害があるからといって、高学歴であることがマイナスにならない世の中になることを願っている。

(取材・文:姫野桂 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)

姫野桂『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)姫野桂『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)

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