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日本初のカラー怪獣映画が、66年前の鮮やかな色彩でよみがえる。1956年公開の『空の大怪獣ラドン』(以下『ラドン』)の4Kデジタルリマスター版が、12月16日から全国の映画館で上映が始まる。
『ラドン』のオリジナルネガフィルムは色素の劣化が進んでおり、正確な色が分からなくなっていた。しかし、今回のリバイバル上映ではオリジナルネガだけでなく、これまで手つかずだった「秘蔵フィルム」を合わせてデジタル化することで、上映当時の色彩の再現に成功したという。
これまで『ラドン』は黄色がかった色合いで知られていたが、今回のリバイバル上映では鮮やかな青が特徴的だ。デジタル化を担当した東京現像所の担当者は、ハフポスト日本版の取材時に「やっときれいなラドンを見れた」と喜びを隠さなかった。
■色彩が再現困難になっていた『ラドン』
『ラドン』は『ゴジラ』『モスラ』と並ぶ東宝の怪獣映画の代表作。『ゴジラ』の2年後に公開された。
太古の翼竜プテラノドンが謎の突然変異を遂げて、九州・阿蘇山に出現。火口から飛び立ち、自衛隊戦闘機と空中戦を繰り広げた後、福岡市に襲来するという内容だ。本編を本多猪四郎監督、特撮を円谷英二氏が手がけており『ゴジラ』と同じコンビによる大作だった。この映画に登場する怪獣ラドンは人気キャラとなり、『ゴジラ』シリーズにも何度か客演している。
今回、特集上映『午前十時の映画祭』に向けて4Kデジタルリマスター化されることになったが、課題があった。『ラドン』はカラー映画の黎明期に撮影されたこともあり、オリジナルネガフィルムは青い色素の劣化が進み、全体的に黄色っぽい色彩になっていた。
66年前の作品ということで撮影時のスタッフの多くが鬼籍に入っているため聞き取り調査もできない。正確な色の再現は困難な状態だった。デジタル化を指揮した東京現像所の清水俊文さんは一計を案じた。データベース上には存在する3本の「秘蔵フィルム」を合わせてデジタル化することにしたのだ。
■テクニカラー方式でプリントされた「秘蔵フィルム」を元に色を再現へ
『ラドン』はイーストマン・コダック社のカラーネガフィルムで撮影されているが、それとは別に、赤・緑・青の3原色に分解したモノクロポジフィルムが東宝の倉庫に保存されていた。これは当時、テクニカラー社が採用していた方式。3種類のモノクロフィルムの映像を、あとで合成することで1本のカラー映像をつくるという手間のかかる方法だった。清水さんは次のように話す。
「なぜわざわざ3原色に分解したのかは不明ですが、カラーのポジフィルムを作るのが技術的に難しかったか、もしくは輸出用に敢えてテクニカラー方式でプリントした可能性があります。実際、海外版のポスターにはprint by TECHNICOLORと書かれているんですよ」
このテクニカラー方式だと、3原色がそれぞれモノクロフィルムで保存されているため、色彩の劣化がないのが特徴だという。今回、東京現像所のスタッフは計4本のフィルムをデジタル化した。
オリジナルネガをデジタル化した上で、3原色フィルムから合成したカラー映像を元に色彩を補正したという。DVDやBlu-rayと比べても、青色が強く出たことでとても鮮やかな映像になっている。真っ青な空を悠々と飛ぶラドンが印象的だ。
清水さんは「やっときれいなラドンが見れた」と喜びを隠さない。
「オリジナルネガの劣化が進んだことで、これを元にしたDVDやBlu-rayでは黄色が強くなっていて、自分も『ラドン』は黄色っぽい色合いなんだとこれまでは思っていたほどです。個人的には『やっときれいなラドンが見れた』と感じています。今回、上映当時の色合いで多くの人に見せることができる上に、フィルムがこれ以上劣化する前にデジタル化して後世に伝えることができて良かったと思っています」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「やっときれいなラドンを見れた」66年前のカラー映像を再現。鍵を握った秘蔵フィルムとは?