気候変動による被害を強く受けるアフリカで、原油を運ぶためのパイプラインの建設計画が進んでいる。
ウガンダとタンザニアを結ぶ1443kmの「東アフリカ原油パイプライン(EACOP)」で、CO2の排出源となるだけでなく、地域住民の強制的な移住などの人権侵害や、生態系の破壊を懸念する声が上がっている。
環境団体などは『炭素の爆弾』だとして、建設に強く抗議。一部の機関投資家は、この計画を進めるエネルギー企業からのダイベストメント(投資撤退)も決めた。
アフリカでは11月6日から、地球温暖化対策を話し合う「国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)」がエジプトで始まる。アフリカで今、何が起きているのか。
環境NGOなど抗議「アフリカは気候変動に最も脆弱」
「EACOP」プロジェクトは、フランスのエネルギー企業「トタルエナジーズ」が主導し、パートナーとして中国の国有石油企業である中国海洋石油(CNOOC)やウガンダ、タンザニアの事業者も参画している。トタルエナジーズは2022年2月、総額100億ドルの投資を最終決定したと発表した。
すでに土地取得のプロセスは始まっており、2023年までに終え、その後着工を予定している。
この計画に対し、環境団体などからは強い抗議の声が上がっており、国際環境NGO「350Japan」が10月12日に開いたオンライン会見には、アフリカでこの問題に取り組んでいるアフリカ・エネルギーガバナンス研究所(AFIEGO)のダイアナ・ナビルマさんが出席。ナビルマさんは「アフリカの温室効果ガスの排出量は世界全体の3%にもかかわらず、気候変動の影響で干ばつや洪水、穀物の不作、飢餓などに苦しんでいます」と語り、「アフリカは気候変動に最も脆弱にもかかわらず、建設されようとしているEACOPは“炭素の爆弾”です」と述べ、EACOPの問題点を訴えた。
「タンザニアでは人々が移住させられ、ウガンダでは土地利用の制限も起きているのに、補償は遅れている上、不十分です」
「ウガンダのマーチソンフォールズ国立公園でも原油が採掘される見込みで、サバンナや森林、湿地などが破壊され、生物多様性に影響します」
トタルエナジーズから“投資撤退”
この日の会見には、EACOPを主導するトタルエナジーズからダイベストメント(投資撤退)を決めたオランダの資産運用会社「アクティアム(ACTIAM)」のグレタ・フィアマンさんにも出席した。
フィアマンさんは、ダイベストメントを決めた経緯についてこう説明した。
「2021年初め、このEACOPのプロジェクトは生物多様性など、地域の共同体に非常に大きな影響を与える可能性があると考え、トタルエナジーズと話をしました。プロジェクトの見直しはできないのかと質問しましたが、彼らの回答は『変更をするとコストがあまりにも高くなってしまう』というもので、ダイベストメントを決定しました」
アクティアムは2022年4月、トタルエナジーズへの投資を全て引き上げたという。
The Guardianは、アクティアムだけではなく、少なくとも5つの保険会社が支援を断念し、「これまでトタルエナジーズに融資してきた銀行の半分以上がこのプロジェクトの支援に否定的だ」と伝えている。
EU議会「プロジェクトの1年延期を」決議
EACOPには、欧州連合(EU)も懸念を示している。
EU議会は9月、EACOPプロジェクトを進めるトタルエナジーズ対し、パイプラインの開発を1年延期し、代替ルートの調査や、代替再生可能エネルギーによるプロジェクトを検討するよう求める決議を採択した。
決議では、開発によって地域の豊かな自然資源に依存する農民、漁民、観光事業者の生計に取り返しのつかない損害を与えることなどのリスクや影響を指摘し、 約11万8000人がプロジェクトの影響を受けているとし、建設のために家を破壊されたり、土地を接収されたりし、支払われた補償金はあまりに低い──などと人権の観点からも懸念を示している。
これに対し、ウガンダ政府は反発。ムセベニ大統領は自身のTwitterに、「もしトタルエナジーズがEU議会の言うことを聞くことを選ぶなら、私たちは一緒に仕事をするほかの誰かを見つけるだろう」とつづり、プロジェクトを続ける意思を示した。
We should remember that Total Energies convinced me about the Pipeline idea; if they choose to listen to the EU Parliament, we shall find someone else to work with.
— Yoweri K Museveni (@KagutaMuseveni) September 16, 2022
一方、トタルエナジーズは10月7日付で、EU議会への回答を公表。決議について「事実の不正確さを含む、根拠のない疑惑に基づく」などと非難し、「トタルエナジーズは、すべてのパートナーが最も厳しい国際基準(IFC)に従い、環境と生物多様性の問題、関係するコミュニティの権利をプロジェクトの中心に据えることを約束している」と主張している。
日本の金融機関との関わりは…
国際環境法センター(CIEL)などがまとめた資料によると、日本の金融機関もEACOPに関わっているという。
三井住友銀行(SMBC)は、トタルエナジーズの財務アドバイザーであり、EACOPプロジェクトへの投融資の大半を占める30億ドルのプロジェクト・ファイナンスの共同幹事行を務めていると指摘されている。
一方で、みずほフィナンシャルグループは「現在進行中の環境・社会的課題が解決されない限り」、EACOPに融資する可能性はないとし、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は投融資計画について沈黙を守っている──としている。
その上で、「銀行は、EACOPの環境・社会的影響に関してトタル社に異議を唱え、最終的にはEACOP事業への投融資を避けるべきだ」と指摘している。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
『炭素の爆弾』建設やめて。東アフリカの原油パイプライン計画、機関投資家による“投資撤退”も