ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して4月24日で2カ月。
今も激しい攻撃が続けられており、その情勢に高い関心が寄せられている。
この間、ウクライナの首都の日本語表記を「キエフ」から「キーウ」へと変更する動きが起きた。
海外では英語表記をロシア語発音に基づいた「Kiev」ではなく、ウクライナ現地の発音に基づいた「Kyiv」とするメディアが多いことも注目される中、日本政府は3月31日、ウクライナの首都の地名表記を「キエフ」から「キーウ」に変更することを発表した。
「キエフ」はロシア語の発音を元にした表記で、「ウクライナとの一層の連帯を示すため」(外務省)、現地の公用語であるウクライナ語の発音を元にした「キーウ」とすることに。首都以外も、ウクライナ語による読み方に基づく表記に変更するとしている。
これを受け、NHKや民放、新聞社など多くの日本メディアも一斉に「キーウ」表記へと変更した。政府の変更からおよそ1ヶ月。「キーウ」は定着したのか、Twitterでの投稿から調べてみた。
Yahoo!JAPANが提供している「リアルタイム検索」で過去30日間の「キエフ」と「キーウ」のツイート数を比べると、4月12日正午時点では、総ツイート数では「キエフ」が「キーウ」の2倍近い11万3031件となっていた。
一方で、「キーウ」のツイート数は日本政府が表記を変更した3月31日に5944件まで増え、4月4日には8308件にまで上った。
4月5日からの7日間に絞ってみると、「キーウ」のツイート数は2万3525件で、「キエフ」の1万1451件を上回っていた。
4月23日午後5時45時時点では、過去30日間のツイート数でも「キーウ」が7万5499件で、「キエフ」の6万6675件を上回っていた。Twitter上では、「キーウ」が定着しつつあるようにうかがえる。
一方、検索ツールではどうなのか。
Googleが提供しているキーワードごとの検索ボリュームの推移を把握できるツール「Googleトレンド」をみてみると、軍事侵攻の始まった翌日の2月25日に日本国内で「キエフ」の検索ボリュームが100ポイントに。一方、「キーウ」は1ポイント未満だった。
「キーウ」の検索ボリュームが増え始めたのは3月24日。4ポイントまで上昇した。この日には、他社に先駆けて日本テレビが首都キエフの表記を「キーウ」に改めると発表している。
日本政府が「キーウ」へと変更すると発表した3月31日には、8ポイントまで上昇。4月4日には、「キーウ」の検索ボリュームが「キエフ」を上回った。
しかし、その後は「キエフ」と「キーウ」の検索ボリュームは拮抗した状態が続いている。
Twitterでは「キーウ」が定着しつつあるように見えるが、一体なぜなのか。
Twitterには、イベントや話題のトピックに関するツイートをまとめて紹介する「モーメント」という機能があるが、Twitter Japanでは日本政府が表記変更を発表する前から、「キーウ(キエフ)」などと表記していた。
当時の経緯などについて、モーメントを作成する「キュレーションチーム」のメンバーに話を聞いた。
キュレーションチームの日本のコンテンツ担当、大坂千夏さんによると、ウクライナの都市の名前についてロシア語表記からウクライナ語表記に変更するというガイドライン「スタイルガイド」の変更について、Twitterのアメリカ本社のキュレーションチームからメールが来たのは1月29日だったという。
当時は軍事侵攻前だったが、ウクライナ情勢をめぐるニュースは世界の関心事になりつつあった。変更したのは、「当該政府の表記に従う」との理由からだったという。
大坂さんは「ウクライナに限らないことですが、1月29日のメールではウクライナが対象でした」としつつ、こうも語った。「決してTwitterが先陣を切って変更したわけではなく、アメリカでもロイター通信やAP通信などかなり早くから変更していました。そうしたメディアの動きや政府の対応を見ながら変えていったものです」
一方で、この時点ではすぐに日本語表記を「キーウ」のみにはしなかった。「ユーザーがわからなければ意味がない」(大坂さん)として、当面の間は「キーウ(キエフ)」という表記とし、日本政府の表記変更を受け、他のメディアと歩調を合わせる形で「キーウ」のみの表記に変更したという。
キュレーションチームとしては、「キエフ」と「キーウ」のツイート数の変化については分析していなかったという。大坂さんは「『キエフ』のツイートが多いから『キエフ』と表記しよう、などということではなく、メディアや政府の動きを見ながら、ジャーナリズムの倫理に基づいて事実を伝える。そう心がけています」と話した。
また、検索ツールよりも早くTwitter上で「キーウ」が広まっている状況について、キュレーションチームの日本・アジア太平洋地区コンテンツ統括、ディビッド・コービンさんは「あいにくそういう分析はしていませんが」としつつ、「私たちがメディアを中心に見ながら表記変更してきたように、おそらくユーザーの方々の投稿もメディアの表記の変化によって変わったのではないでしょうか」と語った。
SNS上のデータの定量分析をしている東京大学大学院の鳥海不二夫教授(計算社会科学)は「キエフ」「キーウ」を含むツイートについて、「4月3日以降は『キーウ』の方が多くなっている」とした上で、「同様の傾向は2021年初頭に、『変異種』と『変異株』という呼び方でも起きていた」と指摘。
「当初『変異種』と呼ばれていたものについて、マスメディアやGoogleトレンドよりもはやくTwitter上では『変異株』という呼び方が過半数を超えていた」と話す。
Twitter上で「キエフ」から「キーウ」へと変化した理由については「確かなことは言えない」としつつ、「ツイートで他者に情報を伝えるという能動的な行動を取るユーザーには、関連する情報に敏感なユーザーが多いのではないか」との見方を示した。
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