国際トランスジェンダー可視化の日にあわせた3月30、31日の2日間、映画『I Am Here〜私たちはともに生きている〜』と舞台動画『イッショウガイ』が無料配信される。
『I Am Here』は浅沼智也さんが監督・脚本、『イッショウガイ』は若林佑麻さんが企画・脚本を務めた作品だ。
2人はともにトランスジェンダーで、「国際トランスジェンダー可視化の日に当事者が見える企画をやりたい」という思いで作品の無料公開を決めた。
作品でトランスジェンダーを知ってほしい
3月31日の国際トランスジェンダー可視化の日は、トランスジェンダーやジェンダーノンコンフォーミングの人たちの功績を祝うと同時に、彼らが直面している暴力や差別に光を当て、安心に暮らせるために今何をやるべきかを考える日だ。
浅沼さんは『I Am Here〜私たちはともに生きている〜』で、さまざまなトランスジェンダーの人たちとの対話し、彼らの歩んできた道や、困難、時代の移り変わりを描いた。その1人には、自分自身も含まれている。
同作を無料公開する理由を「同じ社会で生きるトランスジェンダーの想いや日常生活での困難、法制度の問題などを多くの人達に知ってほしかった」と話す。
浅沼さんが当事者の現状やリアルな声を届けたいと強く願うのは、SNSなどを中心に、トランスジェンダーの人達に対する偏見や不安を煽る言動がやまないからだ。
「トランスジェンダーに対し嫌悪感を抱いている人の多くは、実際にトランスジェンダーの人と関わったことがなく、想像で嫌悪感を抱いている印象があります」
「そして、その心無い言葉や悪意ある言動にひどく傷つき、生きる希望を失いそうになったり、メンタルヘルスが悪化したりする当事者が増えています」
浅沼さんはこれまで各地で『I Am Here』を公開しており、寄せられた様々な感想の中には「トランスジェンダーの人達が置かれている状況がこんなにひどいと思わなかった」という声もあった。
もっと多くの人たちに『I Am Here』を見てもらい、トランスジェンダーの人達が直面する問題を知って、自分にできることはないかを考えるきっかけになってほしい、と話す。
「トランスジェンダーという言葉は結構認知されるようになっているので、次は彼らが直面している問題とその解決に目を向け、行動するステップだと思っています」
知らない人たちにこそ見てほしい
『イッショウガイ』は、若林さん自身の半生をベースにした作品だ。
若林さんが高校生の時、母親がくも膜下出血で倒れ、高次脳機能障害を抱えるようになった。
若林さんは自身の性別違和とも向き合う中で、ヤングケアラーとして母親の介護もするように。
性別違和はかつては性同一性障害と呼ばれていたことから、若林さんは「僕の障がいと母の障がいをかけわせて、イッショウガイという作品にしました」と話す。
『イッショウガイ』には、異なる価値観や考え方を持った4人のトランスジェンダーが登場し、彼らのやり取りを通して、差別や偏見とは何なのかを考える。
登場人物の会話は、若林さんが実際に友人と交わしたやり取りなどをベースにしており、「今生きているトランスジェンダーの人たちが感じていることを、そのまま伝えている部分もある」と話す。
若林さんも、SNSなどでのトランスジェンダーへの差別や偏見は「知らないからこそくる」と感じていて、「そういう人たちにこそ、当事者を映した作品を見てほしい」と強調する。
可視化でできること
社会で見えていない、知られていないことを、きちんと目に入れ認識するという意味を持つ「可視化」。
浅沼さんは、トランスジェンダーの「可視化」の必要性について、「可視化すれば攻撃対象にもなるけれど、しなければ問題の解決や緩和はされない」と話す。
「可視化をしなければ、問題の緩和や解決には至らず、“いないもの”とされてしまいます。社会を変えていくには多くの人達に伝えていく必要があると思っています」
一方、若林さんはトランスジェンダーのことを「自分ごと」として捉えてほしい、と語る。
「イッショウガイを見て、『自分はトランスジェンダーじゃないけれど、同じような感情になったことがある』とか『同じようにつらい思いをしたことがある』と感じる部分もあるかもしれません。そうやって共感することで、当事者、非当事者とわけずに、トランスジェンダーの人を1人の人間として身近に感じてもらえるかもしれません」
国際トランスジェンダー可視化の日に伝えたいメッセージ
浅沼さんと若林さんに共通するのは、作品を通して明日への希望を感じてほしいという願いだ。
浅沼さんは「SNSのバッシングなどで心を病んでしまう人たちもすごく多いので、そういう人たちを少しでもエンパワーメントするためにも『I Am Here』を見てほしいです」と話す。
浅沼さんは、性別移行の理想と現実が違ったことや、性自認を家族や周囲に認めてもらえなかったこと、見た目で性別を判断されることなどに苦しみ、3回自殺未遂をした。
同じように苦しみ、死を考えるトランスジェンダー当事者に「しばらくの間、未来が見えず霧しかない道を手探りに歩んでいましたが、こんな僕でも生き延びてきました。生きていると良いこともあります。どんなに険しい道でも時間が解決してくれます。コロナ禍で大変な状況下ではありますが生きることを諦めないでほしいです」と語りかける。
さらに、性別を見た目で判断したり、他者から性別を問われたりすることがトランスジェンダー当事者を追い詰める、と指摘。
そういった現状を変えるため、当事者以外の人たちに「今日から自分にできることを考えることから始めませんか?トランスジェンダーの人達が生きやすい社会は誰もが生きやすくなる社会の一歩です」と呼びかける。
若林さんは『イッショウガイ』を、「誰かにとって明日を生きるほんの少しの力になることを願って、この物語は終わる」というメッセージで締めくくった。
これには「イッショウガイに関わった人全員に、そうなって欲しい」という願いが込められている。
「明日を頑張ってみようでも何でもいいんです。この作品が、誰かが明日を生きるためのほんの少しの力になることを願っています」
2作品はそれぞれ、下記のリンクで無料公開される。
I Am Here 〜私たちはともに生きている〜
https://iamhere-trans.jp/
イッショウガイ
http://youtu.be/1GDMpExJ3L
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「明日への希望を感じてほしい」国際トランスジェンダー可視化の日に、当事者の2作品を無料公開