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経済制裁や事業撤退の痛みを引き受けるのは誰か。ユニクロの一転「ロシア休業」に考える

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ドイツで3月13日に行われた、ロシアによるウクライナ軍事侵攻に抗議するデモ

2月24日にロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始して以来、ロシアを取り巻く世界の経済包囲網は日増しに強くなり、ロシア側も反発を強めています。

この間、2015年に国連加盟国による全会一致で採択されたSDGsが謳う『誰一人取り残さない』という理念が、上滑りする感覚を日に日に強く抱えています。

日本を含むG7もSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除など、ロシアへの厳しい経済・金融制裁を実施。3月8日には、アメリカとイギリスがロシア経済の屋台骨でもある原油や天然ガスの輸入を禁止すると発表しました。

多くのグローバル企業も、ロシアでの取引停止や事業の縮小を表明しています。

アメリカのイェール大学の調査によると、3月9日時点でその数は300超に上り、もちろんトヨタや日産、日立、任天堂などの日本企業も名前を連ねています。

そんな中で、一際注目が集まったのが、日本を代表するグローバル企業の一つ、ユニクロなどを展開するファーストリテイリング社の動向です。

柳井正・ファーストリテイリング社会長兼社長

「衣服は生活の必需品」から一転、事業中断を決定

「戦争は絶対にいけない。あらゆる国が反対すべきだ」とロシアの軍事侵攻を非難する一方、「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」としてロシア国内での営業を継続するーー。

柳井正会長兼社長のコメントが掲載されたのは、3月7日付の日本経済新聞社の記事

ウクライナのコルスンスキー駐日大使はTwitterでWhat a shame!(残念だ!)と強い表現で苦言を呈し、国内外からはボイコットを呼びかける声が上がるなど厳しい批判が寄せられました。

同じアパレルブランドでは、ZARAなどを展開するインディテックスやH&Mをはじめ、スポーツウエアのナイキやアディダス、LVMHなどのハイブランドも事業の停止を表明していたこともあり、国際世論に耐えきれなくなったのか、3月10日夜には一転して、ロシアでの事業を一時停止を発表しました。

「ロシアにおいても、私たちの使命の一環として、これまでユニクロの日常着を一般の人々に提供してきました。しかしながら、現在の紛争を取り巻く状況の変化や営業を継続する上でのさまざまな困難から、事業を一時停止する判断にいたった」とコメントしました。

ファーストリテイリング社の動向についてコメントする駐日ウクライナ大使と駐日アメリカ大使のツイート

この判断に、アメリカのラーム・エマニュエル駐日大使は「さすがファーストリテイリングとユニクロ、ロシアに対して英断を下しました」とツイート。

国連や国家が主体となって行われる経済制裁と、企業の撤退は少なからず分けて考えるべきですし、そもそも一企業の経営判断にこれほど政治的圧迫がかかることに疑問もわきます。

ただ、それでも朝令暮改のこの騒ぎに拍子抜けした消費者は、私も含めて少なくなかったのではないでしょうか。

「事業停止」の理由は、何か?

「ユニクロ」のロゴ

ユニクロのロシアを含む欧州での売上高は832億3400万円で、構成比は13.3%。ロシアの店舗数は48店舗(2021年11月末時点)で、欧州では最多となっています。

ファストリ社にとってロシアが経営的に無視できない存在であることは間違いありません。同時にそれはロシアの店舗で働くスタッフや関連企業の従業員など、現地のステークホルダーが多いということでもあります。

ちなみにファストリ社はウクライナに対して、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて約11億5000万円という多額の寄付と計約20万点の毛布や防寒着などの人道支援も行っています

企業にとって難しい判断を迫られる中で、ファストリ社がウクライナに対して実施した支援には敬意を表しつつ、ロシアにおける業務の一時停止を伝える声明にはもう少し工夫があってもよかった気がします。

事業停止の理由に挙げた「営業を継続する上でのさまざまな困難」とは何なのか。

「衣類は生活必需品」という柳井氏の信念から当初は事業継続という判断を下したのであれば、今回の事業停止にあたって「ロシア国民の生活の権利」についてはどう考えたのか。

最も直接的な影響を受ける現地の従業員の雇用や給与の補償はどうするのか。

公式声明からは、いずれもファストリ社の考えやフォローの取り組みは読み取れません。

単にレピュテーションリスク(マイナスの評判が広がることによるリスク)を回避するための事業停止であるように受け取れられても仕方ありません。

「誰一人取り残さない」に少しでも近づくための努力が今こそ必要だ

日に日に強化される経済制裁で、インフレと不景気が同時進行するスタグフレーションのリスクも指摘されているロシア経済。

経済制裁や相次ぐ事業撤退で、真っ先に困るのは誰なのか。

正解は見えませんが、一つのアンサーになるかもしれない事例をご紹介します。

マクドナルド、ペプシコ、IKEAのロゴ

まず、ユニクロ同様、当初は事業継続の是非について姿勢を明らかにしなかったことで批判を浴びていたマクドナルド。

ロシア国内847店舗の休業を発表した同社は、ステートメントの中で、6万2000人の従業員の給与は継続して支給することを表明しました。

マクドナルドよりも前、3月3日にロシアでの店舗休業を決めたスウェーデンの家具大手IKEAも、当面は1万5000人の従業員の雇用と給与支給は継続するとしています。

また、アメリカの飲料大手ペプシコは、ロシアでの飲料販売を停止する一方で、牛乳などの乳製品や粉ミルク、ベビーフードなど生活必需品の販売は継続しています。

マクドナルドのステートメントでは「私たちは、私たちのメニューに使用される食品を生産する地元ロシアの何百ものサプライヤーやパートナーと協力しています」と、6万2000人の従業員以外にもたくさんのステークホルダーがロシアに残っていることを示しています。

戦争や紛争といった局面においては、「誰一人取り残さない」という言葉がより上滑りする感覚もあります。

それでも、少しでもそこに近づくため、企業がそれぞれ知恵を絞って取り組んでいる点については、希望を見出したいなと感じています。

【ハフポスト日本版コンテンツデザインチーム:中村かさね

この記事は、2021年2月13日配信のニュースレターを一部編集して転載したものです。

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経済制裁や事業撤退の痛みを引き受けるのは誰か。ユニクロの一転「ロシア休業」に考える

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