ウクライナにロシアが軍事侵攻。プーチン大統領の方針転換に専門家も驚く「全く合理性がない決断」

ロシアのプーチン大統領は2月24日、テレビ演説でウクライナ東部への軍事作戦を実行すると発表した。ロシアの複数の国営通信社は「ロシア軍は、ウクライナの軍の施設や飛行場を高性能の兵器によって無力化している」と攻撃開始を明らかにした

■2月22日にウクライナ東部へのロシア軍派遣を指示していた

プーチン大統領は「ウクライナ領土の占領については計画にない」と述べた一方で、ウクライナのクレバ外相は「プーチンがウクライナへの全面的な侵攻を開始した。平和なウクライナの都市が攻撃を受けている」とツイート。ウクライナへの全面的な侵攻の可能性もある。

2021年末から大規模なロシア軍がウクライナと国境地帯に集結していたが、ロシア政府は軍事侵攻の意図を否定していた。ウクライナ東部のドンバス地域で親ロシア派勢力が自称する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」に「特別な地位」を与える2015年のミンスク合意を守るようにウクライナに訴えていた。

しかし、22日に態度を一転。プーチン大統領は「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認し、これらの地域に「平和維持」を目的としてロシア軍を派遣することを指示。今回の軍事侵攻に繋がった格好だ。

■廣瀬教授「論理的な説明はできません。全く合理性がない決断です」

一体、この方針転換はどういうことなのか。『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』などの著書があり、ロシア政治に詳しい慶應義塾大学・廣瀬陽子教授に2月22日時点での動きについて話を聞いた。

廣瀬教授は当初、ロシアの軍事侵攻は「まず、ないだろう」という見方をしていたこともあり、プーチン大統領の方針転換に驚きを隠さなかった。「論理的な説明はできません。全く合理性がない決断です」とコメントした。

その上で、辛うじて理由を考えるなら「バイデン政権の時代を狙った」「NATO不拡大の要求が聞き入れられなかったから」「欧米寄りのウクライナ政府に激怒した」の3つが考えられると分析した。

ロシアが承認した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」という2つの自称国家に関しては、ロシアが併合するか未承認国家として存続するかは「 完全に5分5分」とした。

■廣瀬教授との一問一答

―― これまでプーチン大統領はこの2つの地域の独立を認めず、「相当高いレベルの自治を与える」ミンスク合意を遵守するようにウクライナに求めてきました。それが軍事侵攻へと方針転換した理由をどう考えますか?

論理的な説明はできません。全く合理性がない決断です。かろうじて理由を考えるのならば、以下の3つが挙げられます。

(1)7月にプーチンがウクライナに関する論文を書いていたように、その頃から既定路線だった。ここ数日の動きを見れば、極めて用意周到に思え、この可能性はかなり高いと思われる。アメリカのトランプ前大統領は「プーチンはウクライナが欲しいと強調していた」としています。トランプ時代に実力行使をしても国際社会がトランプ大統領の行為を認めない可能性もあり、国際社会から見放されていないバイデン政権の「米国」にしっかりと「ロシアのウクライナ」という認識を持たせる狙いがあった可能性があります。

(2)欧米がNATO拡大を止めるというロシアの要望を一向に聞き入れないので、軍事技術的措置をとった(NATOがロシアに接近してくるので、ロシアも軍(軍事基地&軍事協力)をウクライナ東部を使ってNATOに接近させた)。ロシアはガルージン駐日大使も含めて、軍事技術的措置という言葉を最近多用していた。

(3)ウクライナ政府に対する怒りが頂点に。西側がウクライナをロシアの侵攻から救うという態度をとるので、ロシアは(ウクライナ東部の)ドンバスをウクライナの侵略から救ったという論理か。

―― この2つの地域はジョージアの支配権が及ばない「アブハジア共和国」「南オセチア共和国」のようにロシアは承認するけど、世界各国は承認しない「未承認国家」として存続するのでしょうか。それとも、将来的にはクリミアのようにロシアに併合されるのでしょうか?

完全に5分5分という印象です。今後のロシア軍の展開、軍事衝突の有無などによっても変わってくるでしょう。また、欧米との交渉の余地が少しでも残っているのであれば、ジョージアのシナリオの方が可能性は高いと思われます。

特に、クリミアとドンバスの「価値」の違いは大きいことにも注目すべきでしょう。クリミアは1954年にロシアからウクライナに割譲された経緯があっただけでなく、黒海艦隊の存在も極めて地政学的に重要な意味があり、ドンバス(しかも両州の4割くらい)とは比較にならないほどロシアにとって重要だったことも考慮すべきでしょう。

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