今回の症例では、ブースター接種を挟んでの22日間で癌が劇的に進行して大きくなっています。このような急速な進行は、通常のAITLの自然経過では見られません。mRNAワクチン接種がリンパ節の腫大と代謝亢進を誘発する事、TFH細胞はコロナワクチンの主要な標的の1つである事から、コロナワクチンが癌の急速な進行のトリガーとなったと考えられます。実際、癌のサイズと代謝活性の増加は、ワクチン注射部位と同じ側の腋窩リンパ節でより高かったのですが、注射部位から離れた場所にもリンパ腫と思われる新たな代謝亢進病変が現れました。悪性TFH細胞が、我々の症例に見られたRHOA G17V変異を保有している場合、mRNAワクチンに対して特に感受性が高い可能性があります。
エプスタイン-バーウィルス (EBV) はヘルペスウィルスですが、多くのAITLの症例でも観察されます。コロナワクチンの副反応に一時的な免疫低下があります。その結果、ヘルペスウィルスが再活性化する事があり、帯状疱疹を引き起こします。EBVの再活性化はAITL患者の免疫不全状態に伴う二次的なものであり、癌の急激な進行の背景にはやはり免疫低下があると考えられます。EBVは腫瘍ウィルスとしても知られており、ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫の原因となります。また、EBVが自己免疫疾患を起こす作用機序も研究されています。これは機会があれば別途紹介したいと思います。
コロナワクチンの副反応にリンパ節の膨張が知られています。リンパ節は局所的な免疫応答の場です。抗体を産生するために一時的にリンパ節が腫れる事はよくありますが、リンパ節の腫瘍が疑われる場合もあります。コロナワクチンの別の副反応として、ワクチン接種後の最初の数日間にリンパ球数の低下が見られる事があり、免疫の低下に繋がります。この2つの副反応は一見反対に見えますが、個人差もあるでしょうし、タイミングの違いもあるでしょう。また、免疫不全になるにはリンパ球全体の細胞数の低下が必要でもなく、免疫を構成する特定の細胞種がワクチン接種を繰り返す事により減少しているのかもしれません。
今回のケースではコロナワクチンが直接活性化する細胞に起源を持つ癌細胞がワクチン接種によって急激な増殖を開始したと考えられます。しかし、そうした特殊なケース以外にも、コロナワクチンには癌の進行をもたらす複数の作用機序があります。免疫低下は感染症を招きますし、癌の悪性化につながる可能性もあります。スパイクタンパクはBRCA1、53BP1などの癌抑制遺伝子の働きを抑える事が報告されており、これらのタンパクの機能低下はDNA修復の機能不全につながり、癌細胞の発生や悪性化の両方に繋がります。
癌は増殖制御の仕組みを受けつけずに勝手に増殖を行うようになった細胞集団であり、一旦増殖した癌細胞は免疫系で対処する事は難しいのです。すでに癌を患っている人はコロナワクチンによる癌の悪性化を警戒する必要があるでしょう。
https://note.com/hiroshi_arakawa/n/nfaab7f18da54
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