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コンビニのお惣菜で済ませるのは「手抜き」じゃない。『お母さん食堂』をやめたファミマが目指す「コンビニの未来」

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ファミリーマートCMOの足立光さん

「コンビニの食事は健康に悪い」
「コンビニのお惣菜で済ませるのは手抜きだ」

こうした“普通”が変わりつつある。その消費者の変化の「ちょっとだけ先」を走っていきたい。そう語るのは、今年創立40周年を迎えたファミリーマートの最高マーケティング責任者(CMO)、足立光氏だ。

性別役割分業についての偏見を助長するなどとして撤回を求める署名活動が行われた『お母さん食堂』などのプライベートブランド(PB)商品を、10月19日に一新。どんな人にもわかりやすく手に取りやすいユニバーサルデザイン(UD)を意識した新PB『ファミマル』がスタートした。

リニューアルにはどんな経緯や背景があったのか?
コンビニのもつ公共性についてどのように考えているのか?

足立氏に独占インタビューした。

「お客様が細分化」。だからめざした「ユニバーサルデザイン」

ーー『ファミマル』の基本方針の一つには「老若男女あらゆる世代の人が理解できること」を掲げています

今回のPBは、UDにすると最初から決めていました。

これまでも色覚に困難がある方が見てもわかるような色使いをするなどしていましたが、どんな方にもわかりやすく、理解しやすくて、選びやすい。そして、店舗で店員が陳列しやすいということも含めて、UDという方針で進めてきました。

インタビューに応じた足立光さん

ーー例えばどんな工夫をしましたか
日本は現在、人口のおよそ3割が65歳以上の高齢者です。

高齢の方だけでありません。障がいを持つ方など、様々な方がいらっしゃるので、UDの発想が大事になります。皆さんに一目で商品の情報をわかっていただけるように、(使用している素材や、袋のまま電子レンジで使用可能かなどを示す)アイコンとアイキャッチを設けました。

ーー1日に1000万人以上が全国のファミリーマートに訪れるそうですね。UDという言葉には、そうした公共性が求められる企業だという自覚もあるのでしょうか
今、地方に行くと、パン屋がどんどんなくなっているんです。

人口減少と高齢化で、いろんなものがどんどんなくなっていくという状況にあります。でも、コンビニには美味しいパンがある。

我々は全国に店舗を持っています。これからもいろんな方の「生活インフラ」になっていくと思っていますし、だからこそもっと美味しさと安全性を高めていかないといけない。

ファミリーマート独自の役割というよりは、コンビニは郵便局のようにインフラとして各地で頑張っていくということではないかと思います。

ーー「誰かにやさしくないもの」が受け入れられにくくなっているという消費者の意識の変化もあるのでしょうか

意識というよりも、明らかにお客様は細分化しています。

アメリカほどではないかもしれませんが、日本でも細分化されて特徴のあるグループが生まれてきていると思います。

例えば、60代と20代の方では、見ているものも違うし、食べているものも違う。同じ世界に生きていますが、異星人に近いのではないかと思います。お客様の嗜好が分散してきました。

分散している中でも皆さんに受けられるものをめざして、UDという考え方でやっています。

ーー「消費者が分散化していく」中で、『ファミマル』が受け入れられるかどうかはどのように分析してきたのでしょうか

PBリニューアルにあたって、意識したのは東京だけではなく、青森や、(長崎県の)島原です。

「あくまで例えば」のイメージですが、青森に住んでいる一人暮らしの女性や、島原に住んでいるトラックの運転手の皆さんを想像しながら、書き方、言葉、ビジュアル、中身を常に意識していました。

ただ、こうした「さまざまなお客様を理解する」ことも大事ですが、「消費者としての自分を理解する」という観点もあると思っています。我々も、いち消費者です。

自分がいち消費者としてどう考え、どう見るのかということを意識しながら、消費者としての視点で改善をしていくということをしていました。

 

『お母さん食堂』をめぐる署名は「参考にした」

インタビューに応じた足立光さん

ーー今回、『ファミリーマートコレクション』『お母さん食堂』などを一つにまとめました

『ファミリーマートコレクション』は、「ファミリーマートを集めたもの」。製品の品質や美味しさ、こだわりが伝わりにくかったと思っています。

『お母さん食堂』に関しては、『お母さん食堂』という名前を知っていても、「ファミリーマートのPB」だということが伝わりにくかったんです。

例えば広告を出すときも、「ファミリーマートのお母さん食堂の〇〇(商品名)」と言わないと伝わらない。それもあり、PBを統合しようということは2020年春頃から始まっていました。お客様にとっては、1つのブランドの方がわかりやすいですよね。

ーー『お母さん食堂』には「お母さんが食事をつくるのが当たり前という偏見を助長しかねない」などの指摘があり、名前を変えるよう求める署名活動も起きていました

署名活動が起きる前には、『お母さん食堂』がなくなることは決まっていました。

ーー一方でそうした声をどう受け止めていましたか

ネーミングについて賛成も反対も、どちらの意見もあると思っています。(PBの一新という)我々のしたことをどう捉えていただくかは、結局お客様次第なんだと思っています。新デザインはUDを目指して作りましたが、お客様によって受け止めは様々あっていいと思っています。

ーー署名活動が起きた時はすでになくなることが決まっていたということですが、『ファミマル』を拝見すると、性別役割分担を助長しかねないものとは違ってニュートラルな印象があります。署名に立ち上がった高校生たちの声を参考にしたのではないかと感じます

もちろん、参考にしました。我々としては署名もいただいておりますし、真摯に受け止めています。

あらゆる社会の構成員に対して意味のある、気に入っていただける、喜んでいただけるブランドにしようという議論はずっとしていました。

性別や年代に偏りがあるようなパッケージやネーミングではなく、老若男女にちゃんと同じように伝わるというのがUDだと思っています。

ーーそう考えて作ったものを、それぞれの消費者が自分たちの受け止めで解釈していくものだと

そういうものだと思っていますし、それでいいと思っています。

ーー現代の企業には消費者に判断を委ねるだけではなく、一歩踏み込んで社会的責任を果たすことも求められると感じます

コンビニはインフラだと言いましたが、もう一つ大きな役割は、老若男女の数少ない「共通の話題」だと思ってるんです。

今、同じテレビ番組を見ている人が減りつつあるように、嗜好が細分化、多様化される中で、コンビニの話って多くの人がしやすい。

そういう意味では、コンビニは“日本全国共通の話題”だと思っています。それを提供できればなと思っています。

 

「手料理信仰」がなくなるように、お客様に合わせて変化していくコンビニを

インタビューに応じた足立光さん

ーーパッケージやデザインの話を伺ってきましたが、「味」にもこだわったとのことです。健康被害につながらないということも消費者の人権を守ることにつながります。どのような工夫をしているのでしょうか

20、30年ぐらい前は、「健康ではないものの代名詞がコンビニ」というイメージがありました。でも、今は全く逆です。ちゃんとしてないものは出せないんです。

『お母さん食堂』では、合成着色料、保存料、甘味料は使っていませんでした。そうしたこともあまり伝わっていなかったので、『ファミマル』ではアイコンなどで伝えるようにしました。

味の素さんが、冷凍餃子は「手抜き」ではなく「手間抜き」とツイートしたことが話題になりましたが、料理を作る時間を節約して、美味しくて安心なものを食べるというのは、手抜きじゃなくて、「手間抜き」だと僕も思っています。

そういう意味では、「手料理信仰」みたいなものはありましたけれど、時代とともにだんだんと減っているのかなと思います。

女性の就労率は上がり、共働き世帯も増えています。そうすると外食や中食も増える傾向にあります。そういう社会に向かうのはわかっていることなので、我々は常に美味しくて安心なものを提供しなくちゃいけないということはもう自明のことです。

お客様は変わり続けています。なので、我々も一緒に変わっていかなくちゃいけない。できれば、“少し先”に変わっていきたい。

今回『ファミマル』に大きく変わりましたが、これで終わりではなく、今後もお客様に合わせて変えていくことになると思います。

ーー足立さんはファミリーマートに入社された後、実際に店舗での研修を受けたそうですが、コンビニのこれからにつながる気づきはありましたか

僕からお願いして、店舗で1週間働かせてもらいました。

1週間ほどで店舗のことがわかるとは全く思ってないのですが、店舗が今どういう状況か、店員はどういう状況で、何ができて、何ができなくて、何に困っているのか、ということを知るために参加しました。 

店舗研修中の足立光さん=2020年10月

コンビニのオペレーションはものすごく複雑です。なので、店舗の仕事は簡略化、または簡素化する方向にしかいけないなと確信しました。

例えば、「黒い服を着てる方には何円割引をしましょう」というような提案をする方がいますが、できるわけがないんです。店員が覚えないといけないことを1つ増やします。それは絶対無理です。

ほかにも、定番商品が新商品に追いやられてしまうこともあったので、定番商品をちゃんと売るための売り方を考えなくちゃいけないということや、商品の発注ももっとデータを活用するなど自動化できるのではないかということにも気づきました。

また、重いものを持ち上げることも多く、重いものを持たなくてもいい職種を作れば、シニアの方にももっと働いていただけるのではないかと思います。消費者に対してもUDを徹底しつつ、働き手に対してもいろんな方に働いてもらえる職場である方がよいと思います。

コンビニで働く方は今でもかなり多様性に富んでいますが、いっそうそれを進めるという意味では、改善の余地がまだまだあるなと感じています。

足立光(あだち・ひかる)

P&Gジャパン、 シュワルツコフ ヘンケル社長・会長、 ワールド執行役員、 日本マクドナルド上級執行役員・マーケティング本部長、 ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング(APAC)などを経て、 2020年10月よりファミリーマートCMO。

 

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コンビニのお惣菜で済ませるのは「手抜き」じゃない。『お母さん食堂』をやめたファミマが目指す「コンビニの未来」

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