川崎市の出版社が全国の被差別部落の地名リストの書籍を出版すると告知し、地名リストをネットに掲載した問題で、東京地裁は9月27日、出版社側に、千葉や富山など6県をのぞく部落地名リストの出版やネット掲載の差し止めと、原告に数百万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
裁判は、部落解放同盟と同盟員ら248人が「差別を助長する」として、出版社と経営者を相手取り、出版差し止めや2億数千万円(1人110万円)の損害賠償を請求。2016年4月に提訴していた。
判決では、部落出身を告白するなどした原告については、出版によるプライバシー権の侵害を認めず、彼らの出身の6県が差し止めの対象から外れた。原告側の弁護士は「我々が主張してきた『差別されない権利』も認められず、司法の限界を認識させられた」と語った。原告側は控訴する方針。
部落出身告白の原告、プライバシー侵害認めず
原告側の弁護士の説明によると、部落地名の出版差し止めの対象から外れたのは、千葉、富山、三重、山口、佐賀、長崎の6県。
差し止めの対象となったのは、栃木、群馬、埼玉、新潟、東京、神奈川、長野、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、愛媛、香川、高知、福岡、熊本、大分、宮崎、鹿児島の25都府県。
原告のいなかった、上記以外の地域は判断されなかった。
出版社「示現舎」は2016年2月、全国の被差別部落の地名を載せた書籍の出版を計画し、通販サイト「アマゾン」で予約受付を開始した。この書籍は、1935(昭和10)年に作成され全国5367カ所の被差別部落の地名などが掲載された「全国部落調査」の復刻版。示現舎はネット上にも、地名や解放同盟幹部らの名簿を掲載した。
16年3~4月、横浜地裁などは解放同盟側の申し立てを受け、出版の禁止やネット上のリスト削除を命じる仮処分を決定。出版は差し止められ、地名リストはネット上で一部削除されたが、データが移管されて別のサイトで閲覧できるものもある。
今回の判決で、一部地域の地名リストは出版などが認められたが、判決が確定するまでは仮処分により差し止められるという。
判決を受け、原告側は会見で「自分が部落出身とカミングアウトした原告に対し、プライバシーの侵害がないから、その県全体の部落地名リストを差し止めない、という判断は絶対におかしい。リスト全体が差別を助長するものだ」と不満をあらわにした。
一方、被告の「示現舎」は、動画サイトYouTubeで「詳しい判決内容を見ていない」としながら、控訴する考えを示唆した。
1970年代には企業が「部落地名総鑑」を購入
被差別部落の地名をめぐっては、1975年に地名を収録した「部落地名総鑑」を全国の企業などが購入していた問題が発覚。採用選考の際に部落出身者を排除するのが目的だったとされている。
部落差別は就職や結婚、土地購入などの際に顕在化しやすく、法務省が2019年度に全国を対象に行った意識調査では、「部落差別はいまだにある」という回答が全有効回収数の49%にのぼった。
このうちの2割は、実際に「差別の被害または加害経験がある」と答えており、内容は「結婚や交際」「悪口」「就職や職場」の順に多かった。
16年には部落差別解消推進法が制定され、「部落差別のない社会を実現する」と初めて明記された。しかし、ネット社会の拡大で人々の差別意識は表面化しやすくなっており、その規制も難しい状況が続いている。
Source: ハフィントンポスト
被差別部落の地名リスト出版差し止め、千葉、富山など6県を除外する判決。出版社に数百万円の賠償命令、東京地裁