秋にある衆院選や今後の選挙に向けて、若者や現役世代の投票率を「75%以上」にすることを目指すプロジェクトが始まった。
NPO代表や大学生らでつくる実行委員会が8月26日、記者会見して発表した。企画を中心になって進めているのが、子どもの貧困支援に取り組むNPO法人「キッズドア」理事長の渡辺由美子さんだ。
これまで取り組んできた低所得世帯の子どもの学習支援に加えて、コロナ禍では困窮する家庭の食料支援にも力を注いできた。現場の状況を踏まえ、政府に要望を重ねてきて感じたのが、子どもや子育て世代の声が「政治に届かない」というもどかしさだった。
「政治家にとって無視できない存在となり、政治を国民の手に取り戻したい」。そう語る渡辺さんに、プロジェクト立ち上げの経緯や思いを聞いた。
声がなかなか届かなった
「政治に声が届かない」。渡辺さんがそう強く考えたのは、昨年2月に突然要請された、全国一斉休校がきっかけだ。
親が仕事を休まざるを得なくなり、収入が減ったり途絶えたりする家庭が続出した。給食がなくなったことで、十分に栄養が取れない子どももいた。そもそもギリギリの状況で家計をやりくりしていた家庭は困窮を極めた。
政府はその後、児童手当を受給する子ども一人当たりに1万円を給付するなどした。だが、長期休暇が来れば再び同じ状況に陥りかねないと、渡辺さんは他の子育て支援団体とも連携し、追加の「現金給付」を訴え続けた。
キッズドアは昨年5月、企業の協力を得て困窮家庭に文房具とギフトカードを送った。決して特別なものではなく、日常的に子どもたちが使う市販の文房具だった。それでも「こんな高級なノートをありがとうございます」「定規が壊れていたけど、親に買って欲しいと言えなかったから、嬉しい」と感想が次々届いた。新学期に揃えられなかった体操服や辞書を買うことができた、という声もあった。
実態を調査し、与野党問わず議員を訪ねた。親身に話を聞き、動いてくれた議員もいたが、政策にはなかなか反映されなかった。一方で、同時期に「GoToキャンペーン」事業に多大な事務経費がかかっていることが報道されていた。
そんな日々を過ごすうちに思い始めた。
コロナ禍でみんなが大変なことはわかる。それでも、なぜ子どもの命や食事に関わることにもっと予算がかけられないのか。なぜ政策の優先順位が上がらないのかーー。
コロナ禍で2度目の夏休み「本当に危機的」
感染の増加が止まらず、各地で夏休みの延長も議論されている現状を、渡辺さんは「本当に危機的」と危惧する。
昨夏は、全国民一律10万円の特別定額給付金が支給されたおかげで、「なんとか夏休みを乗り切った」という家庭も多かったという。しかし今夏は、より深刻な状況だ。
キッズドアが6月〜7月にかけて、高校生までの子どもがいる困窮世帯に調査したところ(1469世帯から回答)、昨年1年間の収入が「200万円未満」と答えたのは65%にのぼった。調査からは、「給食が支えていたぎりぎりの食生活が夏休みに崩壊する可能性がある」という状況が見えた。
「水道代がかかるからと、水を飲むのを躊躇することがある」「生理用品が買えず、試供品を使っていたが、無くなってしまったから送って欲しい」。渡辺さんの元には各地からそんな声が寄せられている。
中学生の子を育てているある女性は、経済的な理由で携帯電話を使えず、友人の携帯電話を借りて「食料を送って欲しい」とメッセージを送ってきた。渡辺さんが事情を聞いてみると、昨年納められなかった光熱費を支払ったために生活費が底をつきつつあったという。「自転車操業でなんとか生活している人がたくさんいる。一つ歯車が狂うと、食べ物が買えない状況になってしまうのです」
先行きが見えない中、精神的な疲れが増していることも気がかりだ。夜眠れなくなった、疲れが取れない、という声もあるという。
苦しいのは「自分のせいじゃない」
「自分が働けないから」
「自分が至らないから」
渡辺さんが接する親たちの中には、苦しい生活が続く理由を、自分のせいだと考える人もいるという。だが、変化の兆しも感じている。
「自分が悪いんじゃなくて、政治がおかしいんじゃないか。自分たちが求める政策がなかなか実現しないのは、自分たちが選挙に行かないからじゃないか。そう気づき始めている人も増えていると感じます。それは、困窮家庭の親だけでなく、飲食業界などコロナ禍で苦しい思いをする人たちも、同じではないかと思います」
プロジェクトが目指す「投票率75%」の目標は、決して簡単なものではない。
前回(2017年)の衆院選の投票率は全体で54%。10代の投票率は40%とやや高かったものの、20代(34%)と30代(45%)は5割を切り、40代も54%とわずかに5割を上回るという結果だった。若者や子育て世代の投票率は低い一方で、60代は72%にのぼり、各世代の中で最も多かった。
プロジェクトでは、若者や現役世代の意思を政治に反映させるため、前回衆院選の60代の投票率(72%)を上回り、10代、20代、30代、40代の投票率を75%以上にすることを目指す。そのためにまず、若者・現役世代が重視している政策は何かを明らかにするアンケートを実施し、結果を踏まえて争点を公表し、政党・候補者に考えを聞く計画だ。
「政治を国民の手に取り戻したい。争点は自分たちで決めたい。国民主権をもう一度取り戻す大きなうねりを作りたいと思っています」
Source: ハフィントンポスト
投票率を上げ「政治に声を届ける」。子どもの貧困に取り組むNPO代表が、コロナ禍で感じた危機感