課長「どうした?」
部下「いえ、大したトラブルじゃないんですけど……」
課長「遠慮するな。分からないことがあったら聞け!」
部下「ありがとうございます」
部下「これなんですけど……」
課長「ああ、このケースでは……」
部下「助かりました。ありがとうございます!」
部下「すみません」
課長「なんだ」
部下「この件について相談したいんですけど……」
課長「はぁ? いちいち俺に聞くな! それぐらい自分で考えろ!」
部下「す、すみませんっ!」
部下(なんだよ。この間は分からないことがあったら聞けっていってたじゃないか……)
同僚女「どうしたのー?」
部下「今日課長に怒られちゃってさ。いちいち俺に聞くな……って。聞けっていってたくせによ」
同僚女「あー、あの人そういうところあるよね」
同僚女「あたしもちょっと相談しようとしたら、怒鳴られたことあるし」
部下「だろ? やんなっちゃうよ」
ワイワイ…
部下(あー、今日はあまり酒飲める体調じゃないな。ちっとも酒が進まない)
部下「……」グビッ
課長「おや? どうしたんだ?」
部下「今日は調子が悪くて……」
課長「だったら無理に酒なんか飲まない方がいい。なんならウーロン茶頼むか?」
部下「ありがとうございます……」
ワイワイ…
部下(今日も体調悪いからウーロン茶で……)
課長「おい、なにウーロン茶なんて飲んでんだ」
部下「え……」
課長「酒の場で酒飲まないってのは、お前酒に対する冒涜だぞ! ほら飲め飲め!」
部下「は、はい……」
課長「ほらグイッと!」
課長「いちいち聞くな! 自分で考えろ!」
部下「すみませんすみません!」
部下「まーた怒られちゃった」
同僚女「ってことは今日の課長は≪課長B≫だったのね」
部下「ああ……≪課長A≫の時を見計らって、相談することにするよ」
いつしか部下達は、聞け状態の時の課長を≪課長A≫、聞くな状態の課長を≪課長B≫と呼ぶようになっていた。
部下「は、はいっ!」
部下(今日はAだな……)
部下「さっそく分からないことがあって……」
課長「どれどれ……」
部下(よかった……Aの時のこの人はホント頼もしいからな)
同僚女「トラブル?」
部下「ああ、これは課長に聞かないと……」スタスタ
同僚女「あっ……」
部下(今日の課長はAだから大丈夫だろう)
部下「すみません、ちょっと聞きたいことが……」
課長「あん!?」
部下「え」
課長「いちいち聞くな! 少し困るとすぐこれだ! 俺を頼るな!」
部下「も、申し訳ありません!」
同僚女(いうのが遅かったか……。さっきBになってたのを見たんだよね)
同僚女「ねー」
部下「いちいちAかBか確認しなきゃいけないから、ホントストレスやばいよ」
同僚女「さっきもそうだけど、Aだと思ったらBになってることも多いしね」
部下「これならはっきりいってずっと課長Bの方がまだマシだよ。こっちも容赦なく嫌える」
部下「だけどAの時は本当にいい人だから、なかなかそういうこともできないしさ」
同僚女「それはあるね。飴と鞭を使い分けられてる感じ」
部下「それがあの人の上司としての戦略なのかもしれないけど、流石に我慢の限界だ」
部下「今度、ちゃんと話してみる」
課長「コーヒー二つね」
店員「かしこまりました」
課長「最近調子はどうだ?」
部下「まあまあってところですね」
課長「困ったことがあったら何でも聞けよ!」
部下(どうやら今はAのようだな……だったら)
課長「なんだ?」
部下「自覚してるのか分からないですけど、課長って“なんでも聞けよ”って時と」
部下「“いちいち聞くな”って時があるじゃないですか。あれ、やめてもらいたいんですけど」
課長「……」
部下「こっちとしては、今どっちのモードなのか見抜くのがいちいち苦痛ですし……」
部下「あれじゃまるで二重人格ですよ」
課長「その通りだ。すまない」
部下「自覚があるんですか。だったら――」
課長「そうじゃない。俺は……二重人格なんだ」
部下「へ?」
課長「そのままの意味だ。今も……」
課長「必死に抑え込んでるのだが……ぐ、ぐぐっ……」
部下「課長!?」
課長「がああああっ……!」
部下「課長、大丈夫ですか!? 課長!」
課長「――いちいち俺に聞くんじゃねえ! 自分で判断しろ!」
部下「!(Bになった……! まさに決定的瞬間……!)」
部下「また!?」
課長「ちくしょう……せっかく出てこれたってのによ……この野郎……うぐぐ……」
部下「あ、あの……」
課長「……」
課長「ふぅ、すまなかったね。今はどうにか奴を抑え込めたよ」
部下「えええ……」
課長「あれは管理職になってから、しばらく経った時だったよ」
課長「ある夜、夢の中で“奴”は現れた」
『いつもいつも部下思いの上司を演じてるが、本当はもっと冷たくしたいんだろぉ~?』
『部下の報連相を聞くなんてめんどいんだろぉ~?』
『俺がその夢叶えてやるよ!』
課長「それからだ。奴が時折、俺の人格を奪うようになったのは……」
部下「……」
部下(今の話を信じるなら、Aが課長の主人格であるってことか)
課長「もちろん。だが、“管理職になったストレスによるものだろう”で済まされてしまった」
課長「“ストレスを溜めないようにすればそのうち治りますよ”と」
部下「サラリーマンやっててストレス溜めないようにしろってのも酷な話ですよね」
課長「自分でもどうにかしようとは思ってるんだが……。奴をなかなか抑え込めなくて……」
課長「君たちにも不便な思いをさせて、本当にすまん!」
部下「いえ、そんな……」
部下(まさかホントに二重人格だったなんて……俺としても何とかしてあげたいな)
部下(仕事中、ずっとAの方がいいに決まってるし……)
同僚女「ホントに二重人格だったなんて。驚きの展開ね」
部下「あの様子じゃ、課長が自力で課長Bをやっつけるのは難しいだろう」
部下「この際、俺らで課長の人格統合を手伝ってあげたいと思うんだけど」
同僚女「そうだねぇ……ちょっと方法を考えてみようか」
アーデモナイ… コーデモナイ…
同僚女「あ、そうだ!」
部下「何か思いついた?」
部下「ああ。きっと理想の上司を演じるのに疲れて、反動で部下に冷たいBが現れたんだ」
部下「普通の二重人格も、そんな感じで生まれるって聞いたことあるし」
同僚女「だったらさ、私たちがもっとBのことを受け入れてみようよ!」
部下「受け入れる?」
同僚女「私たち、Bのことはいつも怖がって避けてたけど、それじゃダメなんだよ」
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Source: パリピにゅーす
課長「分からないことがあったら聞け!それぐらい自分で考えろ!」部下「どっちだよ……」