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オープンイノベーションで持続可能な社会をつくる。デンマーク、カールスバーグ社の取り組み

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日本でも有名なビールメーカー、カールスバーグ。1847年にデンマーク・コペンハーゲンに創立された同社は、世界4大ビールメーカーのひとつだ。

デンマークといえば、SDGsの達成度ランキングでも上位に位置する国。カールスバーグ社も例にもれず、持続可能な成長に向けた様々な取り組みを行っている。大企業としてカールスバーグ社がどのような姿勢でSDGsの達成に向けて動いているのか、今回は同社のサステイナビリティ部門のシニアディレクター、Simon Boas Hoffmeyer 氏のインタビューをもとに紹介してみたい。 

 

パリ協定とビジネスの両輪

デザインスタジオAM Copenhagen の代表 Kristina May 氏が発信しているデザインに関するポッドキャストにゲストとして登場したHoffmeyer氏。 彼はカールスバーグ社が持続可能な開発目標に関わる上での考え方を、このように語っている。

わたしたちにとって気候変動への取り組みは非常に重要な課題です。原料やパッケージなど様々なものの価格が今後上昇していく可能性があります。そして同時に、わたしたちはパリ協定も遵守しなくてはいけない。また今後、消費者も、より環境負荷の少ない商品を求めはじめるでしょう。そこでこの状況を積極的に取り入れながら、企業として収益も得られる形で持続可能な開発にどのように取り組んでいけるかということを考えています。                        

カールスバーグ社は、SDGsを積極的に推進する様々なプロジェクトに取り組んでいる。例えば、4つのサステイナビリティの重点分野「カーボンフットプリント・ゼロ」「廃水ゼロ」「責任なき飲酒ゼロ」「労働災害ゼロ」を目標とした、“Together Toward Zero”。これに従い、例えばデンマーク国内の工場では、工業用水の90%を再利用したり、製造過程での水の使用を半減させることに成功している。また、世界に4万人以上いる従業員の労働災害を減少させ、醸造所82ヵ所中30ヵ所で1,000日間の労働災害ゼロを達成している。

また、カールスバーグといえば、近年発表された木材繊維を素材としたグリーンファイバーボトルがある。これは、2015年に当時既に特許を所有していたecoXpac社と、スウェーデンの包装容器メーカーBillerudKorsnäs、デンマーク工科大学の博士研究員らが、Innovation Fund Denmark の支援を得て制作に着手し、その後、包装容器メーカーらが共同事業Pabocoを立ち上げて開発したものだ。

カールスバーグが開発した木材繊維を素材としたグリーンファイバーボトル

カールスバーグ社は自社のCO2排出削減のために、製造の各プロセスが排出するCO2を算出し、どこに手を加えればもっとも効果的にCO2排出を抑えられるかGHGプロトコル(温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)排出量の算定と報告の基準)に沿って調査した。その結果、CO2排出の40%は包装容器に由来することが判明。北欧内では、ガラスボトルや缶容器はそのほとんどがパントという仕組みを通して再利用(約30回!)またはリサイクルされているが、容器自体を製造する過程で排出するCO2量や、パントシステムのない世界中の消費者に届く製品であることを考慮し、さらに一歩踏み込んだ新しい素材で、世界で最も環境に負荷をかけないペーパーボトルを開発する決定をしたのだそうだ。

木材繊維を素材としたペーパーボトルを開発するにあたり、カールスバーグ社は、自社で全てを開発するのではなく、知恵や技術を持っている専門家や小企業に声をかけ積極的に協働しながら、オープンイノベーションを通して持続可能な成長を目指している。そしてPabocoが中心となって開発したペーパーボトルが、競合他社に普及することもとても歓迎している。実際、コカ・コーラ、アブソリュート、ロレアルなどにも広がっているペーパーボトル。この開発についてHoffmayer氏は以下のように語っている。

カールスバーグ研究所はその昔、PHの測定方法を発明しました。それを世界の人々に共有したように、今回のペーパーボトルも小さな企業が開発に取り組み、他の産業にも製品を展開していけるように支援しています。それは、カールスバーグ社が社会に良いことをしたいからというだけでなく、わたしたち自身にとっても、利用する企業が増えれば、持続可能な包装容器を生産するコストが下がり、より多くの企業が同じ製品を使えるようになると考えているからです。

 

数値目標の向こうを見据えて

環境に負荷をかけない製品づくりを考えていく上でカールスバーグ社が行き着いたもう一つの取り組みがある。それは同社の有名な緑のロゴ。この緑のロゴが印刷された段ボールやラベルは、そのインクに含まれる物質が原因でリサイクルができないことが判明した。段ボールのロゴやラベルを印刷する過程で排出されるCO2量は同社全体のCO2排出量と比較するとほとんど数値にならない程度ではあったが、それでもカールスバーグ社はこのインクの使用を中止することを決定。そして、サーキュラーエコノミーを目指す組織、Cradle to Cradle™の認定を受けた、環境負荷を極力減らしたインクを開発することを決定した。その後は緑色以外にも様々な色のインクが登場し、開発されたインクは、ペーパーボトル同様に他社が使用することを積極的に歓迎している。

その緑色のインクを使っているというだけで、リサイクルできないことがわかったのです。そこだけを見たら、CO2排出量は微々たるものだったのですが、わたしたちとしては不十分だと考えました。そこで印刷業者と話し合い、彼らが環境に負荷をかけない新しいインクを開発しました。この会社は他の全ての競合他社にも同じインクを提供するようになりました。(中略)このような取り組みも、従来とは異なった考え方で進めていると言えます。他者と協働しながら新しいものを生み出し、それを広めていく。こういった仕事のやり方に、非常に大きなやりがいを感じています。

 

改良しながら前進する

カールスバーグでは、6缶パックをまとめるプラスチック製のリングを使用してきたが、これもプラスチックゴミを削減するために廃止し、代わりに缶同士を接着する糊が開発される。この糊もある業者からの提案だったそうだ。

包装容器について、もっと持続可能な形で作れないかという視点で考えていた時、ある業者が連絡をくれました。カールスバーグ社と共同プロジェクトをしたいと申し出てくれたのです。これまでのプラスチック製のリングを使用する代わりに、缶を糊でくっつけるという方法を提供したいとのことでした。これはもう聞いた瞬間に包装を削減できると判断しました。実際、この技術で76%もプラスチックを削減できたのです。包装は、なければないほど良いわけですから、包装がゼロに近いという提案は非常に興味深かった。でも当時はそれを作る技術も機械も糊自体もありませんでしたから、全く始めから作り上げなくてはいけませんでした。

これはあるドイツの技術者が、ある日自宅で「糊づけできるんじゃないか」と閃いたことがきっかけです。彼は店に飛んでいってあらゆる糊を買い込み、それを使って実験した。そののち、職場の上司にこの話をしたところ、顧客を、君のアイディアを支援してくれる大企業を探してきて開発しなさいと言われたそうです。

わたしたちとしては自社のブランド力を高めたいですし、これが上手くいくならぜひ買いたい。そこで互いにとってメリットがあるということで着手しました。イノベーションや開発担当者らが何度も議論を重ね、プロトタイプの機械でほとんど手作業のように糊付けする過程を経て、4年後には1時間で6缶パックを4万2千個糊付けできる30メートルもある巨大な機械を作り上げることに成功しました。

ここまで時間をかけて取り組んだプロジェクトとはいえ、始めから完璧なものができたわけではありません。少しずつ開発を進めてきました。今までと根本的に異なるものを作っているのですから、始めから完璧なものができるはずがないんです。でもやろうと決めて取り組んだので、結果としてこれまでとは全く違う形で商品を提示できるようになりました。もうプラスチックのついていない缶のままの状態で売り出せるのです。

カールスバーグ社はこの新包装を発表する前に、更に別の角度からもその持続可能性について検討している。

新包装を発表する前に、わたしたちはWWF(世界自然保護基金)とも話し合いました。糊が更なる自然破壊につながってはいけないと考えたからです。例えば糊の付いた缶がポイ捨てされた場合、鳥がこの糊を食べても問題はないのかと。新包装として発表する1年半から2年ほど前から様子を見ていますが問題はないようです。現在もモニタリング中です。

このようなプロセスで進めていく時代なのだと思います。できる限りのことをしてとにかく始めてみる、そして問題があれば変えていく。それが最も重要なことです。個人でも企業でも公務員であっても、常に学んでいくという姿勢、そして問題があればアプローチを変えていく、そうやって前進していくのです。

醸造家J.C.ヤコブセン氏が「最高のビールを造る」という夢を追い求めて始まったカールスバーグ社。1883年にはカールスバーグ研究所のエミール・クリスチャン・ハンセン 氏の功績により、酵母の純粋培養に成功した。そして、それまで熟練した職人の経験とカンに頼っていたビール醸造から、均質で質の高いビールを大量に生産できるようになったカールスバーグ社は、その酵母を求めたビール醸造家たちに惜しみなく分け与えたのだそうだ。現在世界中で飲まれているピルスナーやラガービールの95%は、当時のカールスバーグ社がコペンハーゲンで開発したラガー酵母がもととなっているともいわれている。知恵を惜しみなく分かち合い、共により良い世界を構築していきたいという思いは、この当時と変わらず今も生き続けているのかもしれない。

【参考資料】

Podcast: Design kan drive strategier – Carlsberg, August 30, 2020

全ての写真はCarlsberggroup.comより

Pictures are from Carlsberggroup.com 

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Source: ハフィントンポスト
オープンイノベーションで持続可能な社会をつくる。デンマーク、カールスバーグ社の取り組み

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