トランスジェンダーだと伝えたら、就活書類の受け取りを拒否された。
同性パートナーがいることを高校の教師からとがめられ、別れることを強要された。
Xジェンダーであることをアウティングされ、内定が取り消しになった――。
これらはいずれも、LGBTQ当事者たちの経験です。
日本には、性的指向や性自認を理由にした差別を罰する法律がありません。そのため、このような差別が起きても、法律で当事者を守れない状況です。
こういった状況を変えようと、与野党それぞれで性的指向・性自認に関連する法律を作る動きがあります。
自民党が提出を検討しているのは、LGBTQ当事者への知識を広げて理解を促す「理解増進法案」。
一方立憲民主党など野党6党・会派は、性的指向と性自認による差別的な取り扱いを禁止する「LGBT差別解消法案」をすでに衆議院に提出しています。
当事者たちが必要としているのは、どのような法律なのか。
LGBTQ当事者や家族、識者たちが4月27日に参議院議員会館に集まり、国会議員たちに思いや実情を伝えました。
性的指向を暴露され壮絶ないじめに
性的指向を理由にした激しいいじめを受けた経験をビデオメッセージで語ったのは、2018年平昌オリンピックにボブスレーアメリカ代表選手として出場したクリストファ キニー氏。
キニー氏は大学卒業後、日本の会社に入社して陸上チームに所属しました。
性的指向はカミングアウトしていなかったものの、チームメイトの一人に知られたことで、何百通ものいたずら電話や迷惑メールがくるようになったといいます。
試合当日に車のタイヤをパンクさせられ、車体に「くそゲイ」や「ホモランナー」と落書きされたこともあり、いじめは祖母が警察に相談するまで2年近く続きました。
自分と同じような経験が繰り返されないためにも、法律を作ってLGBTQ当事者を守って欲しいとキニー氏は求めました。
安心して生きられる社会を
性的指向や性自認を本人の同意なく暴露するアウティングも当事者を苦しませ、死に追いやるケースさえあります。
2015年には、ゲイであることを同級生にアウティングされた一橋大学法科大学院の学生が、大学敷地内で転落死しました。
院内集会には亡くなった学生の妹が参加し、兄の死により「未来を語ったり喧嘩をしたりする当たり前に続くと思っていた日常が、突然終わった」と語りました。
アウティングは稀なケースではなく、性的マイノリティの人たちの25%がアウティング被害を経験しているという調査結果もあります。
女性は「この25%は誰かの大切な人です。誰かのきょうだいで、誰かの子どもで、誰かの友人です。意識、理解不足を理由に失うには、尊すぎる命です。一人一人の理解を深め、実効性のある法で命を守るための仕組みづくりが必要です」と国会議員に訴えました。
「兄の生きたかもしれない社会が、私は見てみたいです」
2015年、ゲイであることを暴露された学生が転落死した一橋大学アウティング事件。
亡くなった学生の妹が、差別を無くす法整備が必要と国会議員に訴えました。 pic.twitter.com/zJOnOsrPdw
— ハフポスト日本版 / 会話を生み出す国際メディア (@HuffPostJapan) April 27, 2021
必要なのは寛容ではなく差別禁止
命を守る仕組みを作るには、どんな法律が求められるのか。
早稲田大学特命教授のロバート キャンベル氏は「理解の増進を目的としただけの法案ならば、今ある差別的な扱いはなくなりません」と指摘します。
理解増進法案は、目的の一つに「多様性に寛容な社会の実現」を掲げていますが、キャンベル氏は、「寛容の範囲がどこまでで、差別で苦しんでいる人たちをどう救えるのかが見えてこない」と言います。
また「寛容という言葉には『目の前の人に過失があっても、その人を許す』という意味があるが、性的マイノリティであることは過失ではないため、寛容な社会の実現を求める理解増進法案は焦点がずれている」とも指摘します。
キャンベル氏が求めるのは、単なる「理解増進」ではなく、「差別禁止」を盛り込んだ法律、そして法律上同性の二人の結婚を認める婚姻平等法です。
キャンベル氏は2017年に、長年ともに暮らしてきた日本人の同性パートナーとアメリカで結婚式をあげました。
日本に帰ってきても何かが変わることはないだろうと思っていましたが、周りの人たちに祝福された時に、自分たちの関係や性的指向が“普通”のこととして接せられた時に気持ちが大きく変わると感じました。
誰もがフェアな扱いを受けられるよう「1日でも早く、差別禁止法、それから婚姻平等法を日本でも実現していただきたい」と、キャンベル氏は呼びかけました。
1日も早く差別される現状を変えることが必要
奈良女子大学の三成美保教授も、法律には理解増進だけではなく差別禁止も必要だと述べます。
「理解増進だけでは差別はなくなりません。むしろ多数派に属する人々が理解の範囲を決めてしまい、結果的には性的マイノリティにに対する誤解や差別を再生産することもありえます」
「しかし差別禁止だけでは、なぜそれが必要かについて国民の理解は広まらず、性的マイノリティを社会から孤立させる結果を招きかねません。だからこそ、二つの柱のバランスをとった、根拠法が必要なのです」と、三成氏は説明します。
2019年に実施された調査では、87.7%の人が性的マイノリティに対するいじめや差別を禁止する法律・条例の制定に「賛成」と答えています。
またLGBTQ当事者への差別を禁止する法案を求める国際署名キャンペーン「Equality Act Japanー日本にもLGBT平等法を」には、国内外10万筆以上が集まりました。
社会の中で差別されない仕組み作りの必要性が高まる一方で、LGBTQの人たちは今でも、就職や就学や住居選びなど生活のありとあらゆる場面で差別され、不利益を被っています。
LGBT法連合会の五十嵐ゆり理事は「この瞬間にも困っている人が山ほどいます。そうした人たちの生活が改善されるためのルールが必要です」と、1日も早い法律整備の必要性を強調しました。
Source: ハフィントンポスト
「兄の生きたかもしれない社会を見たい」LGBTQの人たちへのいじめやアウティング、なくすにはどんな法律が必要か