今年は大雨や台風、高温など“○○年に一度”の極端な気象現象が多く発生し、気候変動の影響を強く感じるところとなりました。
温暖化による影響は、農業生産の現場でもさまざまな影響をもたらしています。その1つがワインの原料となる醸造用ぶどう生産地での変化です。
ところで、日本のワイン醸造用ぶどうの産地といえば、みなさんどこが思い浮かぶでしょうか。ウェザーニュースでアンケート調査を行ったところ、山梨県が全体の8割近くを占め、長野県(9%)や北海道(6%)など他の地域を圧倒する結果となりました。
確かに山梨県は日本で名だたるワインの産地ですが、近年、醸造用ぶどうの産地の北上化が指摘されているのです。
ワイン前線が北上中!? 醸造用ぶどう産地の変化
山梨県で、醸造用ぶどう生産量が2014年の7,356tから2021年には6,136tと減少しています。一方で長野県は3,495tから5,677t、北海道が3,305tから4,339tと大きく伸びてきています。
変化の要因の1つとして挙げられているのが、温暖化による日本の気温の変化です。山梨県でも長期的に気温が上昇しており、収穫量の減少や病害虫等のリスクとなっています。
農研機構・果樹茶業研究部門の杉浦俊彦さんは、「ぶどう栽培への影響として最も大きいのは、着色が悪くなったり、日焼けが発生することです」と指摘します。
「主に夏に当たるぶどうの成熟期に高温になることが原因です。高温になると、果皮を黒くする色素のアントシアニンの合成が阻害され、色素の不足により色づきが悪くなるなどの悪影響が出るのです。
また、酸の含有量が低下しますが、こちらは、生食用ぶどうではメリット、醸造用ぶどうではメリットとデメリットの両面があります」(杉浦さん)
北海道がピノ・ノワールの栽培適地に
北海道での生産量増大の背景となっているのが栽培できる品種の変化です。
「近年は温暖化により『ピノ・ノワール』の栽培が可能となってきた」と、北海道立総合研究機構中央農業試験場・作物開発部作物グループの佐藤三佳子さんは説明します。
ピノ・ノワールとは、フランス・ブルゴーニュ地方原産で、高品質な赤ワインの原料として世界でも人気が高い品種です。
「北海道では戦後、1960年代から醸造用ぶどうの栽培が始まり、1970年代に本格化していきますが、道内でよく栽培されていたのは、熟期が早く、耐寒性に優れた品種でした。
ピノ・ノワールは1978~1985年に北海道立中央農業試験場(現・北海道立総合研究機構中央農業試験場)で行った調査で、果実の熟期が遅く成熟しない年が多かったとされています」(佐藤さん)
夏も冷涼な北海道の気候が、ピノ・ノワールの栽培には向かなかったのです。
ところが、下図のように温暖化傾向が進むなか、余市郡余市町、三笠市の4〜10月の平均気温がピノ・ノワール栽培に適した条件となりました。
2000年代からピノ・ノワール導入と赤ワイン醸造の成功例がみられるようになり、近年は北海道全体でピノ・ノワール栽培が増えているといいます。
「北海道農政部の調査では、2010年に16.8ヘクタールだった北海道全体でのピノ・ノワールの栽培面積が、2020年には40.1ヘクタールです。10年で約2.5倍に増加しているのです」(佐藤さん)
海外でも産地の危機が進む?
近年は世界各地で異常高温や熱波、洪水、山火事などが多発していますが、醸造用ぶどう栽培への影響は及んでいます。
醸造用ぶどうの生産量が多いのは、スぺイン、フランス、イタリア、米国など、生育期の平均気温が13〜22℃で、降水量が比較的少ない地域です。しかし、気候変動の影響により温暖化が進み、熱波、干ばつ、山火事のほか、晩霜害、雹害、病虫害などが問題となっています。
例えばフランスでは過去70年間で生育期の平均気温が約2℃上昇し、発芽・開花・収穫の時季や品質に影響が出ているといいます。
「温暖化による影響は産地によりさまざまで、適応策も異なります。北海道でも参考にできる適応策があれば、検討していく必要があると考えています」(佐藤さん)
産地で進む「適応策」とは?
ぶどう産地では、温暖化による夏の高温などへの対策が進められています。
「生食用ぶどうの着色不良への対策としては環状剥皮(かんじょうはくひ)を行ったり、地面に反射シートを敷くなどが行われています。
環状剥皮は、幹や枝の樹皮を数mm〜1cm程度環状に剥ぎ取って果実に栄養を集中させることで、反射シートは樹に当たる光の量を増やすことで、アントシアニンの合成を促進する手法です」(杉浦さん)
さらに、今後の温暖化の進展を見越して別の品種の導入、新品種開発など、さまざまな取り組みが進められています。
「北海道では、これまでよりも熟期のやや遅い品種を栽培する動きがあります。
中央農業試験場では、シャルドネやピノ・グリ等の高品質なワイン原料として世界的にも有名な欧州種5品種について生育調査を行い、いずれも北海道での栽培は可能と判断しています。
また、実際にシャルドネやピノ・グリの栽培面積は2010年から2020年で増加しています」(佐藤さん)
国産ぶどうのみを原料とする「日本ワイン」の人気が高まっていますが、醸造用ぶどう生産の現場では、気候変動に適応するための様々な取り組みが行われているのですね。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。
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参考資料
「気候変動による北海道におけるワイン産地の確立-1998 年以降のピノ・ノワールへの正の影響-」(廣田知良、生物と気象17)、「山梨ワイン産地確立推進計画」(山梨ワイン産地確立推進会、2020改訂)、「世界の醸造用ぶどう栽培の動向 気候変動対応と持続可能性の取組」(中央果実協会)
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北海道がピノ・ノワールの栽培適地に。気候変動がワイン産地にもたらす影響とは