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闇バイトで逮捕された人――?
それが「つばさの党」逮捕の映像を見た瞬間、思ったことだ。
私が「つばさの党」について知ったのはごく最近、衆院東京15区補欠選挙の最中。ある候補者の応援に行っている人から「妨害がひどい」と聞いたのが最初だった。以来、ちらほらとネットなどで映像を見る機会があり、不気味さを感じていた。
そうして5月17日、「つばさの党」の3人が逮捕。
テレビなどで報道される姿を見ると、それは「迷惑系ユーチューバー」を彷彿とさせ、いったい何が目的なのか、どういう動機に基づいているのか、「つばさの党」に詳しくない私はまったくわからない。
ただ、逮捕の前日、たまたま新宿を歩いていたところ、「つばさの党」の街宣と出くわした。遠くて姿はよく見えなかったものの、街宣で語る若い男性の言葉には熱が入っていて、思わず引き込まれるものがあった。
給料が少なくて生きていくのに精一杯、お金がないから大切な人も幸せにできない、それは自分のせいではなくて国のせい、というような内容。そして、自分も政治に興味がなかったけれど「つばさの党」を知って興味を持った、この人たちは本気で日本を変えようとしている、という言葉を聞いて、結構な衝撃を受けた。
メディアに登場する過激な姿と、まっすぐな若者の言葉。「つばさの党」は極端なやり方をして注目を集め、結果、政治などに無関心だった若い層を確実に掘り起こしているのでは――と思ったからだ。
その翌日、逮捕。新聞、テレビが一斉に「つばさの党」を扱い、彼らは一気に「全国区」となった。
先に書いておくが、私は「つばさの党」には全然詳しくないし、「つばさの党」自身にそれほど興味もない。しかし、一連の流れを見て確信したことがある。それは「これから模倣する人が増えるだろうな」ということだ。
ちなみに黒川代表の45歳という年齢を知った時、どこか納得するものがあった。私と同じロスジェネで、この世代はバブル崩壊後の「失われた30年」の中、正直者がバカを見るどころか正直者が過労死や自殺に追い込まれ、心身を病むのを嫌というほど見てきた世代である。ロスジェネだけでなく、その下の世代もそれほど変わらないと思う。
そんな黒川氏が政治に目覚めたきっかけはリーマンショックだという。報道によると「金融資本主義が続けば日本が壊れる」という危機感を持ったそうだが、こんな高尚なことでなくとも、派遣切りに遭ったりホームレス化したことでこの時期、政治に否応なく関心を持ったロスジェネは多い。が、長らくその受け皿は既存政党にはなく、この層の「怒り」は燻り続けていた。
さて、それではなぜ模倣する人を産むのかと言えば、彼らが一夜にして全国区の知名度となったことがもっとも大きい。
自分たちの活動を動画で拡散すれば、それが収益となるだけでなく、全国区の「スター」にだってなれるのだ。このことは、逮捕など大した問題ではないと考える無敵の人、失うものがない人にとっては、とてつもない朗報となってしまうのではないだろうか。
なぜなら今の社会、知名度さえあればネット関連の収益で食べていく道はいくつもあるからだ。食えるとなれば善悪など関係ないという判断をする人も出てくるだろう。私たちはとっくに、知名度やアクセス、ビュー、インプレッションといったものがすべての世界に生きている。
ちなみにどれほど「数」を伸ばしたくてもなかなか伸びないのが多くの人の悩みだが、「選挙」や「政治」と絡めれば桁違いになるということも、今回の騒動は証明した形となった。ある意味、コスパ的には最強である。そうして逮捕によって大メディアが大々的に宣伝してくれるのだから動画再生数はさらに伸びる。このようなことを今、多くの人にメディアは「成功例」として伝えているのが現状だ。
さて、私は冒頭に、「闇バイトで逮捕された人一一?」と書いたが、例えばルフィの事件で逮捕された中にもロスジェネは多い。そしてよほど高学歴だったり才能があったりしない場合、この国のロスジェネとその下の世代には大した選択肢がないことを私たちは知っている。少なくとも一度不安定な道に入ってしまうと、そこから這い上がるのは至難の技だ。
そんなことを考えるたびに思い出すのが、『虚ろな革命家たち──連合赤軍 森恒夫の足跡をたどって』に登場する中核派の学生組織幹部の言葉だ。
「なんていうか……もう常識じゃないですか。社会にブラック企業があるのは当たり前だし、どうやってブラック企業を回避しようかということを若者は当たり前に考えているし、年金なんかどうせもらえないと思ってるし、奨学金も返せない。じゃあ一流企業に就職したからって、過労自殺した電通の彼女の話じゃないけど、自分たちが目指してきたものって、これなのかっていう。東大みたいな一流大学出て、一流企業に入って、待っているのはこれなんだって。ユーチューバーで上手くやれたらいいなぐらいしか展望がないというか……だから本当にそういう社会の閉塞感っていうのは、この十年とかで全く違うものになってきている」
中核派が云々など組織への評価は別にして、この言葉に反論できる人は少ないのではないだろうか。
選択肢が、低賃金の非正規労働か闇バイトかユーチューバーくらいしかない世界。それが多くの不安定層にとっての今の日本だ。
さて、一連の騒動を見ていて思ったのは、「そりゃあ、どんなに頑張っても一定数の人は絶対に報われない社会が30年続くとこういう事態が出てくるよな」ということだ。
ある種の不遇感や剥奪感を持つ人々の怒りに火をつけ、それを代弁し、正義の鉄槌を下すかのごとく「凸」する。これほどスカッとすることがあるだろうか。これは巨大産業になっていく可能性を十分に秘めていると思う。
ちなみに最近読んだ『ネットはなぜいつも揉めているのか』によると、アメリカには「激怒産業」という言葉があるという。その手法は、「攻撃対象が行う主張の誇張、からかい、侮辱、中傷など」。詳しくは本書を読んでほしいが(むちゃくちゃタメになる)、こういったものがエスカレートした先に見えてくるのは、トランプ支持者が選挙不正を訴えて議事堂を襲撃した事件だ。
最後に。
「つばさの党」は、根強い政治不信を持ち、既存政党が受け皿にはならないような層の支持を得た。彼らの過激な活動に「もっとやれ」という声もあれば、「何かやってくれそう」と期待する声もあり、支持する世代も幅広いようである。
今回の逮捕が、果たして支持者を減らすのか、増やすのか。
このこと自体、日本社会にとっても非常に大きな分岐点となるのではないだろうか。
(2024年5月22日の雨宮処凛がゆく!掲載記事『第678回:「つばさの党」から3人の逮捕者、に思うこと。の巻(雨宮処凛)』より転載)
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「つばさの党」から3人の逮捕者、に思うこと