『本来の命』とか『生きること』という、ベタなことを僕は真正面から言わなかったんで、これを機会にーー。(吉井和哉)
ロックバンドTHE YELLOW MONKEYが5月10日、10枚目のオリジナルアルバム『Sparkle X』(スパークルエックス、2024年5月29日発売予定)の最速試聴会&合同メディアインタビューを開催。
新型コロナ禍、メンバーの病気、世界の紛争などに向き合ってきた4人が、「命」や「生きること」に正面から向き合い完成した11曲を送り出す心境を語った。
東京ドームが「復活の日」に
2023年10月、ヴォーカルの吉井和哉が病気を公表。その上で治療を終え、4月に復活となるコンサートを東京ドームで成功させた。オーディエンスは大歓声で3年半ぶりの「復活の日」に臨む4人を迎え、感動的な一夜となった。
「過去一番、お客さんと一体となれた。守ってくれている感じもあったし、楽しもうというオーディエンスの気持ちが伝わってきて、それが一番でした」(菊地英昭)
「(最初の大声援を聞いた瞬間から)今日はいいライブをやるなと確信しました」(廣瀬)
見つめ直した命の儚さと輝き
アルバムの11曲。歌詞は命の儚さと輝きというテーマで貫かれている。
THE YELLOW MONKEYといえば、暗喩を駆使した歌詞表現が魅力の一つだが、今作は「残りの命、数えた時に本編が始まる(ホテルニュートリノ)」に代表されるように、ストレートに「今」を表現する瞬間がふんだんに盛り込まれている。
どんな心境の変化があったのだろうか。
「いつまでも命ってあるものではないと痛感させられたと同時に、背筋が伸びましたし、切羽詰まった危機感というロックスピリッツの継続にもなりました。
『本来の命』とか『生きること』という、ベタなことを僕は真正面から言わなかったんで、これを機会に。聴いてくださる人の中にもそういう状況の人がいると思います。そういう人たちも含めた相手に今届けられるロックとはなんだろうと思って作ったので、歌詞は迷わなかったですね。
今までの胸のボタンを三つ開けてイェーイ!みたいな(セクシュアルな)イエローモンキー節の成分はないかもしれないですが、代わりにできた部分が、新しいイエローモンキーの宝石だと思ってます」(吉井)
「もう一回バンドができる喜びがこのアルバムに詰まっています。言葉の一つ一つの重みが違って聞こえると思うので、その辺も聞いていただけたらと思いますね。
ロビン(吉井)が力強い言葉で歌うことで、希望の光というか、すごく今困ってる人とか悩んでいる人とか、身体のことでにっちもさっちもいかない、という人が、ちょっとでも希望の光が見えたらいいなと思います」(菊地英二)
「全て受け入れよう」ではない心境に
一方、2019年に発売された前作のアルバム『9999』からの5年間は、新型コロナウイルスが多くの人の命を奪い、経済的な損失や相互不信の高まりも加わって、世界の人々を追い詰めた時期だった。
そして、世界各地で新たな戦争・紛争が始まり、今も続いている。
「フェイクニュースが乗った 人力車の都 今も昔も同じ 浮世の花盛り」(ソナタの暗闇)の歌詞からはそんな世界の行方への怒りや戸惑いが、「肌はイエロー 志はブラック 金色に光ったプライドの ラメラメの猿」(SHINE ON)には、限られた残りの命を燃やして、自分たちがどこに向かうべきなのか、その決意がにじむ。
「歌詞を書いて世に歌ってきた人間としては、露骨な人の名前、場所、起こっていることを書かないのもロックの醍醐味の一つだと思って、もっと広く意味を取れるように作ってきました。
ただ、イエローモンキーを結成した(1988年)時はバブルの真っ只中で、その時の雰囲気がすごく嫌いだった。でも大好きだし愛してもいるから、日本のカルチャー、伝統を踏まえたロックにしていこうとスタートして、この名前をつけたんです。
(今作は)自分がこういう状況になったのもありましたけど、今の社会に疑問を感じるところもある、それを感じながら歌詞を書いたところもあります」(吉井)
また、「Make Over」を作詞作曲した菊地英昭も歌詞に込めた思いをこんな風に表現した。
「新型コロナや、世界中で大変な戦争が起こっている。人間って道も踏み外すし、いろんなことがあるなと考えつつ、(「Make Over」に登場する言葉)『Pura Vida(すばらしい世界)』へ向けてちょっとでもいいから歩み出そうという内容にしようかなと落ち着きました。
ある程度年齢を重ねる中で『全て受け入れよう』という心境になることを目指していたんですけど、そうじゃないなという気持ちも生まれてきていて。だからといって全てを一つのことに向けるというのはまず無理なんで、自分がどうあるべきかだけをまず見つめ直す。そこから始めないとな、というのが作品に向き合う時の方向性です」(菊地英昭)
「衰えつつも探して、転がって」
新型コロナの日本での流行が始まった2020年4月、2日間開催されるはずだった東京ドーム公演を中止し、11月に人数が制限された「声出し禁止」での振替公演を決行したTHE YELLOW MONKEY。今年のドーム公演はその「リベンジ」でもあった。
一度失った声を取り戻すリハビリは、まだ続行中だという吉井。しかし、東京ドーム後にも、各地で行われる音楽フェスへの出演が次々に発表されるなど、精力的な活動が予定されているようだ。
「いざ、ライブになった時に、まだ世に出ていない曲が底力を発揮する。それを僕ら自身も願っていますし、皆さんにもそういう感覚で全曲聞いていただけたら」(廣瀬)
「僕たちはライブが重要なので。ニューアルバムがないと、新しいコンサートができないという対(の関係性)になっています。アルバムもですが、ライブをどんどん強化していきたい。そこは老化していきたくないので。新しい挑戦をし続けること、ライブで体感してほしいと思っています」(吉井)
「(自分たちにも)色々、世の中的にも色々あったので、4人でこのアルバムでまたやれるというのが復活の狼煙になっているので、ライブもしたいですし、こっからまた新しい世界を広げたい。東京ドームでも素晴らしいオーディエンスがいることを感じました。彼らに届けたいし、彼らと一緒に新しい世界を目にしたい。年を取っていきますけれど、できることはまだありますので、衰えつつも探して、また『転がって』(ロックンロールして)いきたいと思います」(菊地英昭)
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「残りの命、数えた時に本編が始まる」。復活のTHE YELLOW MONKEYが奏でる新しいロックの宝石とは。