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窮屈さを感じさせないオフィス、紙の資料が積まれていない机上、部屋中央に飾られたインテリアグリーンーー。中央合同庁舎第3号館7階の国土交通省航空局安全部には今、このような開放的な空間が広がっている。
日本の頭脳が集まる東京・霞が関。近年、長時間労働のイメージから、「ブラック霞が関」とも呼ばれている。国会議員の答弁書を作成する「国会対応」など、ハードな仕事ぶりは時に注目を集め、若手の退職者や志望者の減少も報じられている。
しかし、そんな負のイメージを払拭し、生まれ変わろうという動きがあることをご存じだろうか。民間企業より「何かを変えること」へのハードルは高いが、魅力のある職場を取り戻すために組織をあげて改革が行われている。
ハフポスト日本版は「変わる霞が関」を取材した。
働きがい向上プロジェクト
「できる限りの改革を全てやっていくと決めました」。国交省航空局安全部安全企画室の藏智彦・安全政策企画官は、こう話した。
航空局安全部はその名の通り、航空の安全関係の規制を担保する部署。飛行機が適切に運航されているかを確認し、ドローンや「空飛ぶクルマ」など新たなモビリティを運航するためのルール作りもしている。もちろん、人の命を脅かすような事案があれば緊急対応することもある。
そんな「空の安全」を守る部署が2022年から取り組んでいるのが、「働きがい向上プロジェクト」だ。魅力のある職場に生まれ変わろうと、主に7つの取り組みを推進している。
オフィス改革・ペーパーレスを徹底
まずはオフィス改革に乗り出した。
これまではデスクが一列にずらっと並び、職員はすし詰め状態の中で仕事をしていた。机上には書類が山のように積まれ、席幅も狭く、閉塞感が蔓延。会議室の数が少なく、部屋を確保するのも一苦労だった。
「オフィスが働きがいを阻害している」という職員の声もあり、事前のアンケート調査で「オフィスに満足している」と回答した人は32%にとどまったという。
このようなオフィス環境を一新するため、同部は大胆な改革に踏み切った。
部屋の中央にカフェワーク席を設置し、気軽に交流しながら仕事ができるような環境を整備した。癒しとしてインテリアグリーンを飾り、皇居のお堀が一望できる景観の良い窓際には、職員らが一息つけるようなカウンター席のスペースをつくった。
また、3割の職員がテレワークや出張で席を空けている現状に合わせ、席数も3割減らして詰み込み感を払拭。
デスクの配置は、一つの島で4〜6席にまとめ、デスクの端で気軽に仕事の相談をできるようにした。このほか、管理職以外は座る席を自由に選べる「フリーアドレス制」とし、打ち合わせ場所も3か所から12か所に増やした。
さらに、ペーパーレス化も徹底した。
紙の書類は6割減少し、プリンタの印刷枚数も航空安全推進室で一人当たり月平均147枚減った。電子化された資料を使うことが当たり前の環境になったことで、管理職の理解も深まり、テレワークをしやすい雰囲気が醸成されたという。
藏さんは、「インテリアグリーン一つとっても、予算執行に向けて細かく必要な理由を説明しなければならなかった」と公務員特有の苦労を明かしつつ、次のように手応えを語った。
「従来のオフィス環境は仕事の相談でさえしづらい状況だった。開放的な空間になって会話が生まれたことで、仕事の効率化や職員のメンタルヘルスにも良い影響が出ている」
なお、このオフィス改革で、職員のオフィス満足度は32%から70%に上昇した。
月100時間超の残業は0人。年2000万円の残業代削減
では、長時間労働の問題はどうだろうか。霞が関といえば、深夜にビルから光が漏れ出る光景を思い浮かべる人もいるかもしれない。
藏さんも、「霞ヶ関で働く職員の残業規制はあってないようなものだった。残業の上限は決められているが、国会や法案の対応など特別な時は超過が可能となっている」と話す。しかし、「長時間働くことが恒常化していないか」という問題に目を向けたという。
民間企業は労働基準法で、時間外労働の上限が「原則として月45時間・年360時間以内」と決められている。国家公務員も人事院規則で、「超過勤務は1か月について45時間かつ1年について360時間の範囲内」と定められているが、特別な事情がある場合には延長が認められている。
航空局安全部は職員の超過勤務について、この「原則45時間、年360時間」を徹底するという部内ルールを定めた。国会や法案対応など特別な事情があったとしても、「月100時間、年720時間以内の厳守」を呼びかけた。
ルールが形骸化しないように、月1回のミーティングで職員の残業時間が労務担当や部課長に共有され、残業時間が上限ぎりぎりの職員がいた場合は、業務の偏りがないかなどの改善点を話し合っている。
これにより、航空局安全部の「残業問題」は大きく改善。2022年度(4〜12月)は、月45時間超が272人、月100時間超が19人いたが、23年度(4〜10月)は、月45時間超が127人、月100時間超は0人と大幅に減少した。
また、22年度(4〜10月平均)は月29.65時間だった職員の平均超勤時間が、23年度(同)は26.48時間になった。年換算で約7600時間の残業時間削減となり、人件費単価(1時間2600円)で計算すると、年約2000万円の残業代削減につながるという。
藏さんは、「私自身、保育園に通う子どもの送り迎えもできるようになった。これまでは長時間職場にいることが評価されるような雰囲気もあったが、決められた時間の中で最大の成果を出すことのほうがよっぽど難しい。コストに対する意識も生まれ、メリハリをもって仕事ができている」と述べた。
「昔は出社してなんぼ」だった。背景に離職増や志望者減
航空局安全部が働き方改革に取り組んできた背景には、若手職員の離職や志望者の減少がある。
人事院が2022年に発表した「総合職試験採用職員の退職状況に関する調査の結果」によると、20年度に退職した若手の総合職職員(いわゆるキャリア)は109人で、13年度の76人から43.4%増加した。
国家公務員総合職試験の申込者数も年々減少しており、21年度の申込者数は1万7411人と、12年度の2万5110人から約30%減った。
藏さん自身、学生の面接で「霞が関はブラックで怖いイメージがある」や「本当に自分がやっていけるか心配」と言われることが度々あり、現役職員からも「育児や介護と仕事が両立ができるのか不安」といった声が聞かれたことから、危機感を持っていたという。
06年に入庁した藏さんは、「昔は出社してなんぼの世界。『仕事は楽しくないから給料が出るものなんだ』と言われたこともある。人材を確保していくためには、このような風土を根本的に変えていく必要があった」と話した。
組織全体で働き方改革に取り組んだことで、16〜20年は6〜13人で推移していたインターンシップの申込者数が、23年は35人に増えるとともに、国土交通省を志望する人も増加したという。
藏さんは「この取り組みを霞が関全体にも広げていきたい」と決意を語り、次のように述べた。
「なぜ働き方改革が必要なのかを言語化していくことが重要。若手が離職し、志望者が少ない現状に危機感を持ち、仕事とライフスタイルを充実させ、組織の価値を上げていく」
ブラックのイメージから、職員一人一人がやりがいを感じながら働ける職場環境へ。航空局安全部の働き方改革はまだ続いている。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
かつては出社してなんぼ…「ブラック」からやりがいのある職場へ。国交省の働き方改革、背景は【変わる霞が関】