もっと読みたい>>DX実現の鍵、結局は「人」。富士通の全社変革に携わったデザイナーが考える、自分の「パーパス」を確認すること。
「絵心がないから描けないって言うけれど、実はみんな『絵心』あるんです」
ハフポスト日本版は7月21日、10周年企画「未来を作る」のイベントとして、日建設計・イノベーションデザインセンターとコラボし、「未来を作る×ピントとミカタ」連続ワークショップ第2回を実施した。
「自分のパーパスを知る」をテーマに登壇したのは、富士通のDXプロジェクトの“要”となるデザイナー集団の一人で、「ラクガキコーチ」としても活躍するタムラカイさん。
「絵心は絵を描きたいと思う気持ちであり、画力ではない」と話したタムラさんは、ラクガキをし、誰かと共有することを通じて自分の「パーパス」を探し出し、新しい価値観の創造に繋げていくワークショップ実施。
参加者は真っ白な紙に、ラクガキをし始めるところからワークを始めた。
「正解ではなく解釈を大事に」エモグラフィで描く新しい価値観
ラクガキなんてしたことがない…という人も多かった参加者に、タムラさんがまず教えたのは「エモグラフィ」。Emotion(感情)と、Grapy(記号)を掛け合わせた造語で、タムラさんが生み出した「ラクガキ」による対話のワークショップの一つだ。
単純な丸に、様々な形をした目と口、眉毛の3つのパーツを組み合わせ、100の表情を作る。単純なものを組み合わせることで「何かに見える」ことも十分「絵」と言える、とタムラさんは話す。
「人間は本能的に顔から表情を読み取ろう、表情から文脈や行間を読み取ろうとする。これは文化や言語を超えるんです」
また、タムラさんは「正解ではなく解釈を大事にしてほしい」と強調した。
「物事にはいろんな捉え方があり、その人なりに捉えたものをお互いに伝え合っていくことで、新しい価値観が生まれる。その一歩としてこの絵を活用しています」
様々なパーツを組み合わせて表情を描き、その表情が何を伝えようとしているのかを推測する。そこに正解はない。タムラさんが生み出したエモグラフィは、それぞれの捉え方を尊重することの重要性を伝える手段だ。
参加者は、実際にエモグラフィを作って自己紹介をし、それぞれの価値観を活発に共有し合った。
「あなたがいなくても会社は回る」と言われ見つけた自分のパーパス
参加者がラクガキと対話を通して頭をほぐしたところで、話題はパーパスとDXの関係に。
パーパスとは直訳すると「目的」。近年では企業がパーパスを掲げることが増えてきたが、個人もパーパスを持つべきなのか。タムラさんは自身の体験談を通してパーパスの重要性を説明した。
「2008年、望まぬ異動通知を受け取りました。異動をしぶったところ、上司に言われたのが『あなたがいなくても、会社は回るから』という言葉だったんです」
この言葉を聞いて、それがある意味「会社の良さ」である一方「僕は『タムラカイ』さんではなく『富士通さん』と呼ばれてしまっていることに気付いた」とタムラさん。
「今のままでは、もし会社が潰れても転職できないかもしれない。外にたくさん知り合いがいたら、『お前うち来いよ』といってもらえるかもしれない」
そう思ったタムラさんは、個人でブログやラクガキの仕方、ノートの取り方の講座を開く活動を始めた。活動をしていくにつれ、いつの間にか「富士通さん」の自己紹介ではしっくりこなくなっていったという。
自分自身が何者かを伝える必要性を感じたタムラさんが作り出したパーパスが、「世界の創造性のレベルを一つ上げる」だ。
「誰か一人のヒーローが現れて、世の中が良くなるわけじゃない。いろんな人がいて、いろんなアイディアがあって『仕事』になると気付いた時に、小さな『創造性の1レベル』でもいいから渡すことができたら、みんなの中のいいものが出てきて新しい価値観が生まれるんじゃないか。そんなことが僕のパーパスになりました」
「大理石の中にある天使を取り出す」パーパスカービングを実践
一人一人がパーパスを持ち、対話することが大切だと思ったタムラさんは、社内外の活動を通じて自分のパーパスを彫り出すためのワークショップを開発していった。
「僕の父親が彫刻をやっていまして、ミケランジェロの言葉で、『彫刻家の仕事は大理石を天使の形にすることではなく、大理石の中にある天使を取り出すことなんだ』というのを教えてもらいました」
そこで、「人の大事にしているもの、存在意義、譲れないものはその人自身の中に絶対にある」という考えから、パーパスを見つけ出すワークショップを「パーパスカービング(彫刻)」と名付けたタムラさん。
小さなグループの中で「パーパスカービング」を行い、相手に自分のパーパスを伝え、肯定してもらう事で、自分自身も相手のパーパスを肯定するプロセスを作った。
今回のワークショップでは、個人のパーパスを言語化するためのアプローチの「はじめの一歩」として、0〜10歳、11〜20歳、21歳〜現在で「好きだったこと 夢中になったこと 記憶に残っていること」を書き出していった。
さらにタムラさんが作った「価値観リスト」の中から、自分が大切にしたい価値観を直感的に3つ選び、最後に理想の未来をイメージして書き込んだ。その紙を参加者同士のペアで見せ合い、お互いにインタビューする形で語り合った。
タムラさんは、「今回のワークショップだけで答えを出すのではなく、これから時間をかけてパーパスを掘り出していってほしい」と伝えた上で、パーパスを言葉にするヒントを3つ挙げた。
1つ目は「価値観と社会的意義へのアクションが含まれていること」、2つ目は「必ずしも現在の仕事を意識する必要はないこと」、3つ目は「自分ならではの要素、言葉を考えてみること」。
「自分なりの言葉をどうやって解釈していくのかが重要です。まずは粗くても、一度言葉にしてみてください」
「フジトラ」×「パーパスカービング」DX成功の鍵は?
2020年、富士通の全社DX変革プロジェクト「フジトラ」が発足した。タムラさんは自ら改革の一端を担ったが、前例がなく誰も何が正解かわからない状態だったそう。そこで鍵となったのは、「正解ではなく解釈が大事である」という自身の考えだったとタムラさんは語る。
「今アナログでやっていることを全てデジタルに変えるだけではなく、新しい仕組みにビジネスが変わっていく、自分たちも変わっていく、カルチャーも変わっていくというのが本質であって、そのために今使うのがたまたまデジタルなんだと僕は受け取りました」
「多くの会社員は、指示をされればオペレーションはすごく早いんですが、正解がないことに対して、これどうしたらいいと思う?と聞かれて、自分の意見を言い合わなければいけない時に、その基準になる『自分』についてあまり問われずに会社員をやっていたと思います」
これが、フジトラの中にパーパスカービングを入れ込んだきっかけだったと言う。
まずは経営陣からワークショップを計画、実行し高い評価を受けた。そして富士通グループの全社施策として7万人の社員が実施。開催後4500名へ実施したアンケートでは7割が“推奨”、6割が“有益”と回答。さらには変革実感に関する社内調査では個人の行動変容、組織の改革実感それぞれにおいて“重要かつ有意義である”と約5万8000人が回答した。
「こういうプロセスを経験した後に、会社のパーパスに対して、『あれはダメだね』とはならない。従業員と会社がお互いのパーパスを尊重し合えるようになるんですよね」とタムラさん。
「多少のズレはあっても、個人や会社に違うパーパスがあるからこそ、異なる物の間に合力が生まれ、それが変革の原動力になります」
参加者からは「ずっとワクワクする内容だった」「自分への解像度が高まった」「ペアの人のライフストーリーを知り、視野を広げることができた」などの声が寄せられた。
今回イベントを行った場所、日建設計の共創スペース「PYNT」 の運営とオープンイノベーションの推進を担当する、吉備友理恵さんは、「まちと人の暮らしは密接に繋がっています。建築設計や都市に関わる会社だからこそ、PYNTを通じて社内外の人がつながり、『1人や1社では解けない都市の社会課題を集め、未来に変化をつくること』を目指してこの場が生まれた」と説明。イベント後の交流タイムでも活発な会話が広がっていた。
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