「ウェルビーイング」と聞いて、パッと思い浮かぶものは何だろう。
WHO(世界保健機関)によると、ウェルビーイングとは、肉体的、精神的、そして社会的に良好な状態を指し、主に「幸福」や「健康」と訳される。
SDGsが掲げる目標の1つ「すべての人に健康と福祉を(GOOD HEALTH AND WELL-BEING)」にも含まれる言葉だ。
しかし、その定義の広さゆえに「正直ピンと来ない」という人も少なくないのではないだろうか。
2月中旬、東京国際フォーラムで、第7回サステナブル・ブランド国際会議が開催された。「まちづくりとウェルビーイング」のセクションでは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司さんが登壇し、ウェルビーイングやその具体例について語った。
「幸福=ハピネス」だけではない
オンラインで登壇した前野さんがまず言及したのは、「幸福」という言葉の多様性だ。
幸福の一般的な英訳は「ハピネス(Happiness)」だが、これは一時の感情的なものだ。一方で、ウェルビーイングを和訳した時の「幸福」は、より包括的で、「私の人生は辛いことも苦しいこともあったけど幸せ」といった、長期的な健やかさや、精神的な幸福感を意味する。
この2つの幸福を、より具体的で社会学的な言葉に言い換えてみると「地位財」型の幸福と「非地位財」型の幸福になる、と前野さんは語る。
前者は「金、モノ、社会的地位」から得られる幸福感で、手にした直後は多幸感があるが、「昇進したことをずっと喜んでいる人はいない」「欲しいものが手に入ったら別のものが欲しくなる」などといった一過性のものだ。
後者は、財産や地位で得られる一過性の幸福感とは異なり、安全、環境、心的要因の3つの要素で得られる幸福だ。
日本の課題と、鍵を握る「4つの因子」
「非地位財」型の幸福を構成する3つの要素のうち、日本は、安全と環境は世界トップクラスの水準を誇るという。ただし、心的要因においては先進国の中で最下位というデータもある。
これらを踏まえて、前野さんは「楽観的すぎると思われるかもしれませんが、伸び代があるとも捉えることができます」と語る。具体的には、心的要因を向上させるためには、以下の「4つの因子」が鍵を握るという。
1. やってみよう因子:自己実現と成長、強み、主体性
2. ありがとう因子:繋がりと感謝、利他、多様性
3. 何とかなる因子:前向きと楽観、チャレンジ精神
4. ありのままに因子:独立と自分らしさ、自分軸
前野さんは「心的要因は、これら4つの因子が揃って、やりたいことや得意なものを持っている人同士、個性的で多様な人たち同士が生き生きと繋がり、一緒にひとつの山を登っていく状態」だと指摘する。
ウェルビーイングの社会的メリット
個人や社会の「ウェルビーイング」を実現することは、SDGsが根幹に据える「誰も取り残されない社会」にも繋がってくる。
ウェルビーイングは「地域」という大きなコミュニティを考える上でも重要だ。デジタル庁がすすめるデジタル田園都市国家構想でも、主軸の一つに「ウェルビーイング(心ゆたかな暮らし)」を据え、取り組みの現場には「地域幸福度」というウェルビーイング指標を活用している。
さらに、企業の人的資本という考え方においても、人材のウェルビーイングに重きを置くことが中長期的な企業価値向上に繋がるという。
従業員の幸福感に比例して生産性や売り上げが伸び、離職率や欠勤率が下がるというデータも数多く存在する。
個人やステークホルダーによっても、ウェルビーイングの最適解は変わってくるだろう。
しかし、まずはその基盤となる「4つの因子」を尊ぶことで、地域や企業、そして自分にとってのウェルビーイングが見えてきそうだ。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「幸福=ハピネス」ではない。なぜ世界がウェルビーイングに注目しているのか。