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先週、スウェーデンの気候活動家、グレタ・トゥーンベリさんが一時拘束された。ドイツ西部のリュツェラート村での炭鉱の拡張工事に反対するデモの最中のことだった。
中世から続くこの小さな村は、ドイツ最後となる炭鉱の拡張によって地図の上から完全に姿を消されようとしていた。拡張工事への抵抗は10年近く続けられてきたが、2022年、最後の村民が排除された。そして1月10日、残って抵抗していた活動家を一掃してついに工事が始まろうとしていた。
そこで強制排除と着工を阻止するために、活動家団体によるとドイツ全土のみならず、世界各地から約3万5千人が集結し、約1週間におよぶ最後の抵抗を繰り広げたという。
しかし巨大炭鉱の建設を止めようとした人々の前に立ちはだかったのは、警察による圧倒的な暴力だった。
力ずくで人々が排除され、巨大重機が大地をえぐる様子を観ると、恐怖と虚しさで涙が出てしまいそうになる。
La police allemande fait face à des accusations de violence excessive après l'évacuation d'une ZAD et des manifestations à Lützerath, un village destiné à être démoli pour agrandir une mine de charbon. pic.twitter.com/0VgosfEpKx
— DW Afrique (@dw_francais) January 18, 2023
これが「環境先進国」とも言われ、気候変動問題への関心が高く、緑の党が連立政権に参加する2023年のドイツで起きたことだ。
なぜ世界の若者たちが警察からの暴力をも恐れずに体を張った直接行動を行うようになったのか。背景にある、「平和的」とされている話し合いがもはや成り立たない、気候危機をめぐる世界の情勢について、私自身も参加したCOPでの経験を踏まえて、書いていきたい。
「1.5℃目標は死んだ」若者たちが感じている“COPの限界”
なぜ、「平和的」な話し合いで解決できないのか?海外の若者たちは過激すぎるのでは?環境活動家と警察が「衝突」し、グレタさんがドイツで拘束されたというニュースに対して日本ではこのような反応が目立った。
実際に、気候変動対策をめぐって穏当な話し合いは行われてきた。主なものが国連の「気候変動枠組条約締約国会議(COP)」だ。COPは気候変動対策をめぐって年に一度開かれる国際会議で、世界各地から政府関係者や企業関係者、そして非政府組織(NGO)や若者代表、先住民らが集まり、気候変動を止めるために国際的な目標や枠組みを決める。
だが、このCOPはグレタさんはじめ世界の若者たちから批判されてきた。刻一刻と悪化する「待ったなし」の気候変動の現状に反して、各国交渉官たちの交渉はなかなか進まない。
1週目はアジェンダの策定、つまり「なにを議論するかについての議論」にひたすら時間を費やして終わる。アジェンダが決まったあとは、文書を一文一文検討する。「反対」が示された文章は合意文書に盛り込まれない。
さらに今回のCOP27では、2021年のCOP26で決定した「化石燃料の段階的“削減”」から「段階的“廃止”」と目標の強化がなされなかったことを受け、「1.5℃目標は死んだ」という報道もあった。地球の平均気温が産業革命前と比べ1.5℃以上上昇すれば、グローバルサウス(「途上国」に限らず、経済的に不利な立場に置かれた地域)を中心に災害は激甚化・頻発化し、さらなる被害が集中してしまう。
30年近く交渉を続けてきたにもかかわらず、COPでは「化石燃料の廃絶」は未だ決まっていない。だから若い世代の気候活動家たちは怒りと焦りを覚えて、COP会場に集まり抗議の声を上げてきたのだが、COP27に参加した私自身も含め、世界の若い気候活動家たちが、その方法に限界を感じ始めているのは確かだ。
私たちがエジプト・COP27で体験した抑圧と限界
私たちFridays For Future Japan「マイノリティから考える気候正義プロジェクト」は、COP27に現地参加した。グローバルサウスの各地の活動家から「自国で弾圧を受けている。一緒に声をあげてほしい」という声に応えて行ってきた連携を、さらに深めるためだ。
しかし実際にCOP27では議論が進まないどころか、気候活動家への抑圧を、肌で感じることになった。
現地では例年のような、色とりどりのプラカードや旗を掲げ会場の周辺を行進しながら声を上げる気候活動家と現地市民の活気ある姿はなく、代わりにライフル銃をひっさげた尋常ではない数の警察官たちの姿がひと際目立っていた。
というのもエジプトでは、2014年にクーデタで成立した政権により、あらゆる結社が違法とされ弾圧の対象になっていた。COPに参加するために集まった私たちも例外ではなかった。
COP27が開会した早々、私たちのチームに衝撃が走った。会期が始まってすぐに、街中で警察官にスマートフォンや手荷物をチェックされたインドの環境活動家1人が拘束されたのだ。エジプト政府に対して批判的な発信をしていたことが拘束の理由だった。私たちも、少しでも批判的な発信をすれば拘束されてしまうのではないかという状況での活動を強いられた。
日々変化する現地での情勢に対応するために、毎日SNSやニュースで、現地当局による弾圧の最新情報をチェックした。弾圧を恐れるあまり声を上げられなくなってしまってはダメだが、当局による攻撃を許してしまえば、私たちだけでなく一緒に運動をやっているグローバルサウスの活動家にも危険が及ぶ。当局にとってグローバルノースの活動家への弾圧は大きな国際問題になりかねないので、自国で「犯罪者」や「テロリスト」のレッテルを貼られているサウスの活動家の方が狙いやすい。
また仲間の活動家に弾圧が及ばないように、写真や動画を投稿する際も、どの場所で、どんな状況(抗議集会なのか、記念撮影なのかなど)で、誰が写っているのかについて、普段以上に慎重にならなければならなかった。
私たちの泊まったホテルにも、敷地内に拳銃を持った警察官が常にうろつき、COPに参加している活動家たちを監視していた。私たちがホテルのなかで、COPの活動を記録するためにインタビューを撮影していたところ、突如警察官がやってきて、「何を撮っているんだ。許可が必要だ、今すぐやめろ」と威圧的に警告された。インタビューは、警官の目につかぬよう、窓とカーテンを閉め切った室内で、隠れるように行うほかなかった。
COP27現地で私たちを待ち受けていたのは一方的な暴力と監視だった。エジプトをはじめ、グローバルサウスではこうした状況が日常なのであり、そんななかでも文字通り「命がけ」で活動している人たちがいるということを改めて思い知らされた。
630人以上の化石燃料産業ロビイストたちがCOP27に参加
現地に向かった私たち気候活動家が監視を受ける一方で、化石燃料企業は武装警官たちに守られた会場でアピール合戦を繰り広げていた。例年通り会場内にはいくつものブースが構えられ、各国の企業が自らの取り組みを宣伝していたが、今年はこれまで以上に存在感を増す化石燃料企業が目についた。
たとえば、日本のブースでは、三菱UFJ銀行がCO2排出量削減のための金融機関の貢献をテーマにイベントを行なっていた。しかし環境団体らによると、その母体である三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2016年から2020年までの間にフランスの石油メジャー・トタル社に約11億米ドルを融資してきたという。そのトタル社は、気候変動問題を知っておきながら、気候変動懐疑論を広めてきたことが報道されている。
国際NGOの調査によると、今回のCOPには、これまでで最多の630人以上の化石燃料産業ロビイストたちが参加したという。少なくとも、日本からは18人の大商社や銀行などの関係者たちが含まれると言われている。
こうして、武装警察によって厳重に守られたCOP27の会場ゲートの向こうでは化石燃料産業たちによるアピール合戦が行なわれていた。
そして2023年のCOP28は、産油国・アラブ首長国連邦で開催され、国営石油会社のCEOが議長を務めるほどだ(!)。
世界の気候運動の「転換期」がきている
世界の若者たちは一刻も早い気候変動対策を求めてきた。しかしCOPは未だに化石燃料の廃絶はできていない。それどころか化石燃料企業は、軍隊や警察に守られて今まで以上に存在感と力を増している。
このような状況で、世界の若者たちは活動の方法をシフトせざるを得ない。国際会議での「世界のリーダー」たちの交渉に自らの運命を委ねるのではなく、強行される化石燃料事業に体を張って対抗しなければいけない。グレタさんの拘束はこの転換期を象徴する。
このような背景で彼ら彼女らは直接行動を取り、警察から不釣り合いに強力な暴力を受けているのだ。若い世代の気候活動家を「過激だ」と言って糾弾できるのだろうか。
とはいえ、グレタさんがドイツで受けた仕打ちは、グローバルサウスで起きていることと比べると「大したことではない」といえる。
気候変動の影響を最も受けるグローバルサウスでは、よりむき出しの暴力によって企業の利益を優先した資源開発が行われている実情がある。そして抵抗する活動家は、文字どおり命がけの状況を強いられている。分かっているだけでも、2021年には200人の環境活動家が殺害された。
グレタさんが自らの拘束を通じて焦点を当てたかったのは、気候危機を止めるために体を張って闘う人々と、彼ら彼女らに対する暴力だったと思う。実際に、解放直後に参加したダボス会議で彼女は、「皆、この地球を壊している世界のリーダーたちの言うことには注目しているが、最前線の人々の声には一切耳を傾けていない」と訴えた。
日本に暮らす私たちは、いったいどれほどグローバルサウスの人々のことを考えて日々を過ごしているだろうか。あの「パキスタン大洪水」の後、日本の多くの人々は普段と変わらない日常を過ごしたのではないか。
私たちFridays For Future Japan「マイノリティから考える気候正義プロジェクト」は気候危機の最前線の人々の声が軽視されるこの現状を変えるために、COP27に向かい、グローバルサウスの活動家たちへの迫害の実態についてインタビューをしたのだ。
次回は、抑圧を受けながらも気候危機の最前線のグローバルサウスで声をあげる人々に焦点を当てていく。
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グレタ・トゥーンベリさん「ドイツ炭鉱で一時拘束」が象徴する、世界の気候運動の“転換期”