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巨大地震の直後、必ず発生する停電。その時、生きるための情報をつかむには【東日本大震災11年】

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東日本大震災で津波被害を受けた岩手県山田町。停電の中で通行する車のヘッドライトだけが明るい(2011年3月16日撮影)

「防災士」という資格をご存じだろうか。

1995年の阪神・淡路大震災を機に、防災を担う人材の育成を目的として2003年に生まれた、NPO法人「日本防災士機構」(東京)の民間資格だ。

災害時の「自助・共助・協働」を基本理念に、災害発生の仕組みから災害時の備えまで、独自のカリキュラムによる研修講座や資格取得試験を全国で実施している。

さらに資格取得には、消防本部や日本赤十字社といった公的機関による救急救命講習なども必修だ。現在までに、官庁・自治体や企業の防災担当者、消防団員など多くの人が防災士として認証を受け、全国で22万人以上が活動している。

資格取得者数はコロナ禍前よりも伸び悩んでいるが、災害は感染症の拡大に関係なく発生することから、防災教育と防疫対策の両立を図りながら、研修や試験の実施は続けられているという。

筆者は2月、防災士研修センター(東京)が東京都内で実施する週末2日間の研修プログラム「防災士養成研修講座」に参加した。

両日ともに「60分間×6時限」の講義があり、「救急救命講習」「地震・津波による災害」「土砂災害」などをテーマに、さまざまな講師を迎えた幅広いプログラムが組まれている。

なかでも紹介したいのは、元NHK記者で現在は江戸川大教授の隈本邦彦さんが担当した「災害情報の活用と発信」の講義だ。

隈本さんは1980年、NHK入局後、報道局で気象災害報道などに携わる中、1995年に取材先の神戸で阪神・淡路大震災に遭遇。その後、NHKを退職し、北海道大特任教授を経て、現職に至る。

天気中継の本当の理由

2011年3月11日、岩手県釜石市で発生した地震による津波がボートを押し流す様子(NHKテレビ)

2011年3月11日の東日本大震災で、NHKだけがヘリコプターで上空から津波の映像を中継することに成功した。通常、東京と大阪以外は空港にカメラマンは常駐していないが、仙台空港に訓練中のカメラマンが偶然いたからだ。

また同時に、全国に設置された定点観測用のいわゆる“お天気カメラ”も、岩手県の釜石港や宮城県の名取川河口などに津波が到達する瞬間をリアルタイムで伝えた。

「こちら岩手県の釜石の様子です。(中略)津波の勢いが増しています。建物の方にも津波が到達しているのでしょうか。大きな水しぶきが上がっています。奥の建物の方にも…。建物も流れています!」

このような津波の中継映像とアナウンサーの実況による音声は当時、NHKの地上波とBS放送、ラジオで同時に流れていたそうだ。

「お天気カメラ、通称“天カメ”は地震発生の時点でNHKだけでも全国460カ所に設置されていました。渋谷スクランブル交差点をはじめ、全国の街並み、原子力発電所や大きな港などにもみんな設置されています。その理由は何でしょう。

あの津波の第1波を捉えて、いま何が起きているか、リアルタイムで皆さんに見ていただき、防災行動に役立てていただくため。まさにそれ1点です」

毎朝のニュース番組で全国各地から行っている天気中継は、回線の接続テストをしているようなものだ、と隈本さんは冗談を交えながら説明する。

「この時、沖合で発生した津波はまず3時15分頃、岩手県釜石市などの三陸海岸を襲いました。さらにその約40分後、津波警報が出てから1時間15分後に、宮城県仙台市南部や名取市、亘理町、山元町に到達しています。これらの地域は釜石より40分後に津波がきたにもかかわらず、多くの犠牲者が出てしまったのです」

逃げ遅れた2万人の人々にはどうして津波警報が届かなかったのか。

「この日、仙台市宮城野区では地震発生から、1分50秒後に停電していました。仙台だけではなく、さまざまな記録を照合すると、東北5県ほとんど地震発生直後にブラックアウトしています。

発電所はある一定以上の揺れを観測したら、安全のために必ず止まります。安全点検をして設備が大丈夫だと分かったら再開する。ルール上、そうなっているのです。そして、ほとんど例外なく大地震のたびにそれが起こっています。

阪神・淡路大震災のときも大規模停電しましたし、考えてみれば、多くの災害で被災の中心的な場所というのは大体停電しています」

つまり、地震発生から約2分で停電した後に、約3分後に大津波警報が発令。30分後に大津波到達の映像が国内で一斉に放送されたが、そのことを一番知りたかった被災地の人たちに、テレビからは一切その情報を届けることができなかったことになる。

電池式ラジオが重要

災害時に役立つ多機能ラジオ

このことから、東日本大震災の本当の教訓は「災害に備えて電池式ラジオを持つことだ」と隈本さんは訴える。

「いざとなったらラジオを聴くという習慣があれば、津波の情報をもっと早く知ることができて、助かった人がいたかもしれません。インターネットの普及は一定の進歩ですが、災害の規模にもよります。必ず電池式ラジオを持つことです。そうすれば被災時にも必ず情報を受け取ることができます。災害時に情報不足で逃げ遅れたり、不適切な行動を取ってしまうことはきっと減らせるはずです」

「2018年、西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の時も岡山県倉敷市真備町で50人くらいが亡くなりましたが、あの地域も夜遅くなった被災のピークの頃には停電していました。2019年の令和元年房総半島台風でも、被災地の千葉県内はかなり広い範囲で停電していました」

「巨大地震の際には必ず停電するんです」

災害時、普段見ているテレビやインターネットは見られないかもしれない。だから、電池式ラジオを聴くという習慣を身に付けておこう。

こうした教訓は、なかなかメディアが伝えにくい“不都合な真実”かもしれない。

南海トラフ地震や首都直下型地震の発生が懸念されている中、少しずつ防災や減災の意識が高まり、家族や地域で防災計画について話し合ったり、防災グッズを備えたりしている人も増えているだろう。

しかし、どれだけの人が現実的に災害をシミュレーションできているだろうか。地震や津波などが起きた時、まず生きるためにどう情報をつかむのか、もう一度あらためて考えてみたい。

(取材・文:杉本有紀 編集:田口雅士/ハフポスト)

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