「死ぬしかない、自分の国にも帰れないから」「失明するのではないかと非常に心配」ーー。
病気などの事情で、入管施設での収容を一時的に解かれた「仮放免者」たちの生活困窮の実態が、民間ボランティア団体「北関東医療相談会」の調査で明らかになった。
仮放免者は日本政府から帰国するべきとされているが、迫害を受けるなど何かしらの事情で帰国できない人たちも多い。
仮放免者は就労を認められないため、多くは身内や知人などの援助に頼っての生活を余儀なくされている。健康保険にも加入できず、生活保護法も適用対象外で、セーフティネットも用意されていない。
調査結果からは、十分な食事もままならない上、病院にかかることもできずに健康を損なう仮放免者たちの苦境が浮かび上がる。
「私も人間。自由がほしい」
「一日食べるか寝るか、それだけ。時間だけが過ぎていく。生活のために仕事をしたい」
南アジア出身のRさんは、母国で与党の対立政党を支援する活動をしていたことから弾圧を受けた。暴力や脅迫を繰り返され身の危険を感じ、6年前に来日した。
観光ビザで入国した後、パチンコ店の運営会社で働いていたところを入管職員に見つかり、入管施設に収容された。
仮放免者は、入管の許可なく居住する都道府県を越えて移動することを禁止されている。2017年に仮放免許可が出たが、その後県外に出たため再収容された。2021年6月、2度目の仮放免となった。
Rさんは難民申請したが、政治的な迫害を受けたとする「証拠がない」として却下され、現在2回目の申請中だ。
「私も人間。好きなところに行く、好きなものを食べる。そういう自由がほしい」
来日前は14年間、パソコン関係の仕事をしていたRさん。
仮放免後は、母国の実家や友人から生活費を工面してもらっている。
だが新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、周囲の援助に頼ることが難しくなった。
在留資格のない仮放免者は、国民健康保険に加入できない。無保険のRさんは、腹痛で受診した際に全額負担で3万円を支払った。それ以来、病院には行かなくなった。足や腰に慢性的な痛みを抱えるが、市販の痛み止め薬で耐えてきた。
毎日の食事は、外国人や生活困窮者をサポートするNPO法人「北関東医療相談会(AMIGOS、アミーゴス)」などからの支援物資が頼みの綱だ。
Rさんは支援を「本当にありがたい」と話すが、経済的な自立を望めない日々に不安を募らせる。
「帰ることができるなら自分の国にすぐにでも帰る。それができないことを分かってほしい」
8割超が「受診できない」
入管庁の統計によると、仮放免者(収容令書・退去強制令書によるもの)は全国で5781人(2020年12月時点)。
身体的な拘束を一時的に解かれても、就労が禁止されているため、生活費は周囲の援助を頼るしかない。さらに健康保険への加入も認められず、医療費は全額負担となる。
こうした制約の中で、仮放免者たちの暮らしはどのような状況に置かれているのか。
北関東医療相談会は2021年10〜12月、国内の仮放免者の世帯を対象にアンケートを実施。450件に配布し、141件(回収率31.1%)の回答を得た。
回答者の国籍別では、イラン(19人)、カメルーン(17人)、ナイジェリア(14人)、フィリピン(13人)、スリランカ(13人)、ガーナ(10人)の順で多かった。
世帯別では単身が40%、2人は26%、子どものいる世帯は24%だった。
生活状況を尋ねる質問で、「とても苦しい」「苦しい」は89%に上った。
16%が、一日の食事回数は1回と答えた。
経済的問題により医療機関を受診できないことの有無について、「ある」は84%。経済的余裕があれば治したい病気やけががあると答えたのは79%に上った。
「医者には6カ月以内に手術するようにと言われている。私には保険がないので、ひどく多額になる。息子も胸の痛みがあり、毎月チェックする必要があるのに、そんなに毎月は医者に連れて行けない」(40代女性)
「私は目の病気ですぐにでも医師に診てもらいたいです。失明するのではないかと非常に心配です」(50代男性)
所得について、年収ゼロは70%で、0〜90万円以下は全体の86%を占めた。借金がある人は66%だった。
アンケートの自由記述では、生活苦に陥る仮放免者たちの訴えが次々に寄せられた。
「収入がないので足腰の手術ができない」(50代男性)
「死ぬしかない、自分の国にも帰れないから。仮放免者は本当に苦しくて恥ずかしい生活です」(50代男性)
「1回の食事量を2回分に分けて、1回は今日の分、もう1回は明日の分。食料が少ないので、代わりに毎日水を飲む」(20代男性)
回答者の中には、「支援者」から、生活費の見返りに性的関係を要求され続けていると訴える女性もいた。
在留資格で命が線引きされる
必要な医療を受けられず、仮放免者が命を落とすケースも確認されている。
2021年1月、仮放免中だったカメルーン人のマイさん(当時42歳)が東京都内の病院で息を引き取った。同会によると、マイさんは生前、末期がんの状態で友人宅やネットカフェなどを転々としていた。国や自治体から支援を受けられず、支援者らの支えで命をつないだが、在留カードが届いた日の朝に亡くなったという。
3月8日の記者会見で、同会事務局長の長澤正隆さんは、仮放免者が無保険のため医療費200〜300%を負担させられるケースもあると報告。「人を死なせるような制度をそのままにしてはいけない。私たちは自分たちがつくってきた制度を、仮放免者だけ使えなくして、一緒になって追い出そうとしているような気がしてならない。そういうことはあってはならない」と強調した。
会見には、仮放免中のミャンマー人の30代男性も登壇。バングラデシュに避難中の父が、病気のため2022年2月に亡くなったと話した。
男性は「私は何もできない、助けられなかった。仮放免で仕事ができないから。治療費も送れなかった。(父が)死んだ日のお葬式代も出せなかった。仮放免の人たちが生きていけるよう、日本政府にビザを出してほしい」と涙ながらに訴えた。
生活に困窮し、心身の健康が脅かされている仮放免者たちに対し、同会は「就労許可を出す」「医療保険への加入を認める」「生活保護法の適用対象とする」といった措置を講ずるよう国に求めている。
仮放免者など、コロナ禍で困窮する移民や難民に対する医療制度を整えるよう求めるネット署名も始まり、3月8日時点で2万5000人以上の賛同が集まっている。
同会支援スタッフの大澤優真さんはハフポストの取材に、「在留資格が、生きるための全ての基盤になっている。在留資格の有無や種類で命が選別されていると強く感じます」と指摘する。
「仮放免者を人間として見てほしい。命と健康については在留資格に関わらず、ボーダーレスになるべきではないでしょうか」
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)
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命むしばまれる「仮放免者」たち。年収ゼロは7割、見返りに性的関係の要求も