日本ではクリスマス(イブ)の食卓の定番といえば、ケーキにチキン(鶏肉)を挙げる人も多いのではないでしょうか。
ウェザーニュースで「クリスマスにチキンを食べる?」というアンケート調査を実施したところ、「毎年食べる」が33.3%、「食べたことがある」が48.1%で、「食べない」の18.6%を大きく上回る結果となりました。
一人暮らしでもコンビニエンスストアや専門のファストフード店でフライドチキン、スーパーマーケットや精肉店などで骨付き鶏モモ肉のローストをテイクアウトする人も少なくありません。
ところが、クリスマスにチキンを食べるという“習慣”は日本特有のもので、世界各国では別の食材が用いられることが多いそうです。
なぜ日本のクリスマスではチキンを食べるのか。その理由や世界のクリスマス料理事情などについて、歳時記×食文化研究所 代表の北野智子さんに伺いました。
フライドチキン流行以前にチキンを食べる習慣も?
日本でクリスマスにチキンを食べるようになったのはなぜなのでしょうか。
「よく言われている説として、1970年11月にアメリカから日本に“上陸”した現地法人の日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)社が1974年から、『クリスマスにはフライドチキンを』とのキャンペーンを始めたことから広まったというものがあります」(北野さん)
同社の公式ホームページにもその経緯などが記されているようですね。
「ただし、個人的には必ずしもそればかりではないと考えています。その理由は、1970年代より前から日本にはクリスマスにローストチキンを食べるという習慣があったと思われるからです。
確かに現在の日本ではクリスマスにフライドチキンがよく食べられていますが、ローストチキンを食べる家庭も少なくありません。フライドチキンがクリスマスに食べられるようになったのは、この習慣に基づき、ローストチキンの代替品として定着したものと考えられます」(北野さん)
北野さんご自身も以前からクリスマスにローストチキンを食べていらっしゃったのですか。
「私の母は若い時からクリスマスにローストチキンを食べる習慣のある家で育ったため、結婚後もその伝統を受け継ぎました。そこで私も幼い頃からずっと、クリスマスにはローストチキンを食べてきました。
栗やベーコン、タマネギを詰めた丸焼きの時もありましたが、骨付きの大きなモモ肉が登場することが多く、大好物でした。ツリーやスノーマン、プレゼントにケーキなど、クリスマスの持つ楽しくてロマンチックなムードが、さらに私をローストチキン好きにさせてくれました。
大阪のミナミや梅田、神戸などで洋食を食べる時は、ローストチキンばかりを注文するので、“よう飽きひんね”と、家族にあきれられていたものでした」(北野さん)
「クリスマスにチキン」はいつから?
フライドチキン以前から日本に「クリスマスにはローストチキン」という習慣が存在したのはなぜなのでしょうか。
「まず、日本におけるクリスマスの歴史ですが、明治時代に入り横浜の外国人居留地でキリスト降誕祭が祝われたことが報道され始め、さらに明治末期から大正年間、昭和初期にはクリスマスを楽しむことが定着していったようです。
同時期に『西洋のクリスマスには七面鳥(ターキー)を食べる』習慣も紹介されるようにもなりましたが、日本では七面鳥が普及しておらず、入手が困難でした。そのため、これといった定番のクリスマス料理はなく、各家庭でそれぞれごちそうを作っていたようです。
七面鳥がダメなら鶏肉へと替わらなかったのは、戦前までの長い間、鶏肉は牛肉よりも高級品だったからでしょう。鶏肉が現在のように手頃な値段で入手可能になったのは、戦後に肉用専用種『ブロイラー』の導入が始まってからのこととされています。
ローストチキンが日本でクリスマス料理の定番になったのは、おそらくブロイラーの生産・普及が本格化した1950年代半ば以降と考えられます」(北野さん)
現在でも、日本では七面鳥を食べることはほとんどありませんね。
「日本では七面鳥の食用としての生産は少なく、下処理して冷凍したものがアメリカやカナダなどから輸入されているようですが、食感や風味などが、多くの日本人の嗜好(しこう)に合わないからではないかと考えられます」(北野さん)
世界ではクリスマスに何を食べている?
世界の他の国・地域ではクリスマスに何を食べているのでしょうか。
「クリスマス料理とはキリストの降誕を祝って食べる料理で、その内容は各国の習慣により異なります。
アメリカは、ターキーの丸焼きにクランベリーソース、ハムなどです。
国土が広いので一概には言えませんが、クリスマスのターキーの丸焼きは、近年では減少傾向のようです。その理由は11月の第4木曜日にあたる『サンクスギビングデー(収穫感謝祭)』の料理が、同じターキーの丸焼きであることによります。
ターキーの丸焼きは大きいので、肉を食べ切るのに日にちがかかるうえにクリスマスが近いので、さすがに飽きてくるというのが理由のようです。
イギリスはターキーの丸焼きにクランベリーソース、パイ生地包みソーセージなど。フランスは栗を詰めたガチョウやトリュフ入りフォアグラ、ターキーやチキンのロースト、ブラッドソーセージ、豚肉のソーセージやベーコンなどです。
イタリアはラビオリ、子羊や子牛のローストなどですが、郷土色が強いので州によって異なります」(北野さん)
クリスマスケーキやお菓子にも違いがあるのでしょうか。
「日本では主にイチゴが載った生クリームのケーキですが、アメリカはプラムケーキ、アップルパイ、ジンジャークッキーなど。
イギリスがクリスマスプディング(主にプラムなどドライフルーツが入ったパイ)、ミンスパイ(レーズンなどのドライフルーツがたくさん入った小さなパイ)。
フランスはブッシュ・ド・ノエル(切り株を模したロールケーキ)。ドイツはシュトーレン(酵母の入った生地にレーズンとレモンピール、オレンジピールを練り込んで焼き上げたケーキ)です。
イタリアはパネットーネ・ディ・ナターレ(卵とバターで作った生地に砂糖漬けのドライフルーツやレーズンを練り込み、発酵させて焼き上げたケーキ)。オーストリアはクグロフ(穴が開いた円錐形が特徴の焼き菓子)やヴァニラキプフェルなどのクッキーです」(北野さん)
世界各国・地域のクリスマスではケーキやお菓子も含めて、さまざまな伝統料理が食卓を飾っているようです。今年はチキンに限らず“一味違った”クリスマス料理を楽しんでみるのもいいのではないでしょうか。
参考文献
『改訂 調理用語辞典』(社団法人 全国調理師要請施設協会、調理栄養教育公社、『世界 たべもの起源事典』(岡田哲編、東京堂出版)
【関連記事】
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
日本のクリスマスに欠かせないチキン、その習慣の起源とは?世界各国のクリスマス料理も紹介!