【インタビュー前編】知ってる?世界で唯一の「月経博物館」。1人の女子中学生の「なぜ」から始まり、博物館ができるまで
台湾で、生理をめぐるスティグマの解消や「生理の貧困」の問題に取り組むNPOがある。
20代の女性たちが中心になってつくるNPO法人「小紅帽 With Red」は、世界で唯一の生理の博物館「小紅厝月經博物館」を運営し、学校への生理の出張授業なども行なっている。
台湾での、生理についての学校教育やスティグマ、生理の貧困の状況は。そして、それらはどのように改善していけるのか。
ハフポスト日本版は、発起人でNPOの代表のヴィヴィ・リンさん(26)に話を聞いた。
ー日本では小学校で生理についての授業があり、中学校などでも習うことが多いですが、台湾の学校では生理はどのように教えられていますか
学校によってかなりの差がある状況で、授業があっても内容は十分ではありません。
カリキュラムには組み込まれているのですが、学校によっては、実際は生理についての授業が全く行われていなかったり、授業があっても女子生徒だけが集められたりと、まちまちの状態です。
そのように性別で分けて教えることは、「生理は恥ずかしいこと」「隠すべきこと」なのだという間違った意識を植え付けます。全ての生徒が平等に授業を受けられるべきだと考えています。
私自身、学校の授業で生理についてきちんと習ったことはなく、母親世代、祖母の世代はもちろん学校での授業はありませんでした。
受験や試験に関係のない授業内容は、軽視されているようにも感じます。
With Redでは、学校へ出張授業に行き、生理について教えています。
ー出張授業はどのようなことを教えますか。ニーズは大きいのでしょうか
出張授業では、小学校中学年から大学まで、年齢に合わせた授業内容を用意しています。
思春期に起こる体の変化や生理について学び、生理用品やPMS(月経前症候群)、そして高校では生理の貧困などの社会問題についてもディスカッションします。
児童・生徒たちは最初は恥ずかしがるような様子でも、話し始めるとたくさん質問が上がり、生理に対する考え方が変わっていく様子も見られます。
そんな姿にいつも私たちは背中を押されています。
1回の授業で社会を変えることはできなくとも、草の根の活動で「種」を植え、その種が世代を越えて花咲き、社会全体の生理の捉え方が変わっていくのではないかと考えています。
出張授業をするスタッフの中には、元小学校教員もいて、教員免許を持ち、学校教育を理解した人物が担当しています。
ここ5年で、学校教育における生理の出張授業への理解度は大きく改善したと思います。
実施初年度は、出張授業を学校に打診しても「検討します」と言ったきりということも少なくありませんでしたが、ここ数年はどの学校も出張授業を求めています。
今年は既に全ての予定が埋まっていて、これ以上の受付ができないほど、大きなニーズがあります。
社会、そして教育現場での生理についての捉え方も変化し、全ての学年、性別の子どもたちへの、生理についての授業が重要視されているように感じます。
教員自身が教え方が分からない、十分な教材がないというような問題もあります。
そのため、私たちの団体では、学校への出張授業に加え、教員への「生理を教えるためのレクチャー」にも力を入れています。
生理についての子ども用の本の他に、生理の授業用の書籍も出版しました。
私たちが出張授業に行くだけでなく、授業の一環で博物館に社会見学に来てくれることもあります。
ー台湾での生理に対するスティグマは改善してきていると思いますか?
確実に改善してきているとは思います。
昔と比べ、公共の場で生理についてより話しやすくなったことは、スティグマをめぐる状況が改善した現れだと言えます。
今から十数年前、私に初潮が来た時は、母親は「生理」という言葉を使わずに、「あれ」などと言って説明しました。まだ「生理」という言葉を言うことさえタブーだという雰囲気があったのです。現在では、社会全体の生理への考え方も変わってきていると思います。
台湾では、「廟」と呼ばれる宗教施設が多くありますが、従来から、生理中の女性は参拝してはならないとされていました。
With Redではそのような状況を変えるため、多くの廟や参拝者にヒアリングを重ね、関係者への働きかけのもと、生理中でも参拝を歓迎するという廟を増やしていくという活動も展開しました。
また、私たちが取り組んだプロジェクトの中に、台湾のおばあさんたちに生理についての聞き取りをし、映像や文章に残すというものがあります。
博物館でもインタビュー映像を映していますが、おばあさんたちが経験した生理やスティグマ、生理用品にまつわるお話を聞きました。
数十年前、今よりもっと生理についてのスティグマが強く、生理について全く語らなかった世代にとっての経験を、直接話を聞ける間に記録しておかなければならないと考えたからです。
もちろん学校でも習わず、家庭内でも生理についての会話がとても限られていた中では、生理が始まってから自分自身の経験を通して生理について知り、「月経帯」と呼ばれているような、人それぞれの当て布の作り方があったようです。
生理についての偏見をなくすためには、その偏見が生まれた背景を探る必要があると思ったことも、聞き取りの大きな動機の一つでした。
聞き取りからは、世代によって違った形で生理への偏見があり、それぞれの世代の人たちが違った形で苦しんでいたこともわかりました。
状況は改善している一方で、現代ではオンライン上での差別的コメントも多く見られ、活動する私たちにも、日々多くの心無いコメントが寄せられます。
コメント欄などで「他にやることがないのか」「生理について公共の場で話していたら、将来に影響するぞ」などと言われるたびに、生理に対する根強いスティグマを感じます。
スティグマの背景には、生理について正しく知らなかったり、きちんと習わなかったということがあるので、博物館やSNSでの発信を通して、多くの人に生理についてまずは知ってもらうことに力を入れています。
私たちが若い女性であるということもヘイトの標的になっていることと関係しているとは思いますが、生理について活動しているという内容に対しても、ヘイトコメントや脅迫などが送られてくることもあります。
ーWith Redでは博物館の運営の他に、生理の貧困に関する活動なども展開されていますね
はい。私たちは博物館以外に、▽生理用品の送付、▽生理に関する法律や政策へのロビー活動、▽調査や報告書の作成、▽生理フレンドリーマップの作成の主に4つ活動を行っています。
まずは、生理の貧困を経験している台湾全土の18歳以下の人々に、毎月、生理用品を送る活動です。
台湾各地で活動する50の団体と連携し、現在は毎月650人に支援をしています。
全ての人の生理の症状や重さはそれぞれ違うため、当事者にヒアリングし、パーソナライズした生理用品セットを送っています。
皆それぞれに好む生理用品の種類なども違うため、可能な限り生理期間中を快適に過ごせるように、選択肢を尊重してセットをつくっています。
海外の紛争地や被災地で生理用品を必要とする地域にも支援をしています。
これまでに台湾の外交部(外務省)と連携を取り、2022年にはウクライナ、2023年にはトルコとシリアの地震被災地、ハワイでの火事の被災地域に生理用品を送りました。
台湾では、生理がある人口の約9%が生理の貧困を経験していると言われています。日本では約8%だという報告があるので、ほとんど同じ状況ですね。
9%というと、その人数は膨大で、私たちだけでは全員を支援することはできないので、各地のソーシャルワーカーを研修するという活動もしています。
貧困層支援の第一線で地域の人々に密接に寄り添って活動する団体のソーシャルワーカーに生理の貧困や支援について研修し、それぞれの団体が対応できるような土台を作っています。
生理に関する政策や法律についてのロビー活動もしています。昨年は、ここ4年ほど取り組んでいた活動で大きな前進があり、政府は台湾全土の学校で、生理用品の無償配布をスタートしました。
生理の貧困を経験している児童・生徒は、追加で生理用品の支給を受けることができます。
地下鉄の駅や公共施設での無償配布の動きも進んでいます。
また、活動を始めた当時は、生理の貧困の割合などの調査がなく、苦労したため、生理に関する調査の実施や報告書の作成にも力を入れています。
現在進行中のプロジェクトは、「生理フレンドリーマップ」です。
Googleマップに「生理フレンドリーマップ」を作っていて、図書館やカフェ、書店、コンビニ、クリニックなど450以上の施設と連携し、急に生理が来た時でも、トイレを使わせてくれたり、無償で生理用品を提供したりしている場所をマップで表示しています。
台湾に住んでいる人だけでなく、台湾を訪れている観光客も使えます。
観光客にとっては、旅行先でトイレを探すことは常に苦労すると思いますが、特に生理中は生理用品を交換する必要があるので、トイレを簡単に探せる方法が必要ですよね。
ー今後、さらに力を入れていきたいプロジェクトは
「生理フレンドリーマップ」の取り組みは、台湾だけでなく、日本などの海外にも拡大したいとも考えています。
多くの台湾人も旅行で日本を訪れていますし、日本の方々ももちろん、さらに多くの人に使ってもらえるようにしていければと思います。
また、現在も、生理に関する政策提言などの活動に力を入れていますが、今後もその活動はさらに強化していきたいです。
生理に関する社会問題は多く存在する中で、市民の声を拾い、議員たちに届け、政策や法改正へと働きかけていく重要性を感じています。
民主的社会の中で、市民が課題を感じ、変化を必要としている社会問題について、私たちが声を上げた市民をサポートしていくことが大切だと思います。
ーリンさんにとって、生理についての課題が解決された、理想的な社会の形とは
いつの日か、台湾、そして世界で「生理の平等」が実現されることを願っています。まだ世界には、生理の貧困が存在し、衛生的なトイレを使うことができない地域もあります。
様々なバックグラウンドを持つ全ての人が生理用品やトイレにアクセスでき、性別関係なく包括的な生理についての教育を受けることができることを願ってやみません。
そして、生理に対する偏見や差別がなくなり、生理がある人たちにとって、生理が日々の生活や仕事や学業でのチャンスの障壁にならなくなることを祈っています。
これらは、私たちの世代でやり遂げたいと思っていますし、今後20年では、確実に達成したいと考えています。
(取材・文=冨田すみれ子)
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「生理は恥ずかしい」「生理用品が買えない」そんな社会を変える。台湾で女性たちが向き合うスティグマと「生理の貧困」