もはや“季節外れの暑さ”が珍しくなくなっています。こうした異常な暑さの影響によるとみられるのが、各地で起きているカメムシの大量発生です。
「6月半ばでの注意報発表数としては過去最多」と、農研機構東北農業研究センター・水田輪作研究領域上級研究員の田渕研さんは指摘します。
家に侵入して強烈な臭いを発生させることのあるカメムシですが、果物や米、野菜などの農作物に被害をもたらすことが知られています。
猛暑や暖冬との関係など、各地のカメムシに今何が起きているのか教えていただきましょう。
“過去最多“で果物が危ない?
全国30都府県で31件の果樹カメムシ類の注意報が出ています(6月13日現在)。
「カメムシ類の注意報は、2020年に34府県、’22年に27府県で発表された例がありますが、6月15日時点で’20年は18府県、’22年は5府県でした。今年は、6月半ばでは過去最多です」(田渕さん)
カメムシの数が多くなると、洗濯物に強烈な臭いやシミをつけるなどの被害が心配です。また、実は農業被害も深刻です。
「大量発生により、果樹園での被害や収穫量への影響が懸念されます。注意報の出ている『果樹カメムシ類』とは、チャバネアオカメムシやツヤアオカメムシ、クサギカメムシなどで、モモやナシ、リンゴ、カンキツなどの果実にストロー状の口を刺して吸汁します。果実の傷やへこみ、落果などの原因となります。
被害軽減のために果樹園をネットで覆う、果実に袋がけをする、殺虫剤散布など行う必要がありますが、労力もコストもかかってしまいます」(田渕さん)
猛暑、暖冬で増えていく!?
カメムシ大量発生の直接的な原因として田渕さんが挙げるのは、昨年から今年にかけての高温傾向です。
「昆虫は変温動物なので、気温が高いことで生育のサイクルが早くなり、そのぶんカメムシの世代数と年間の発生数も増えます。
前の年からの影響もあります。昨夏は過去最高の暑さ、また’23年12月〜’24年3月は過去2番目の暖冬でした。夏に増えたのに加え、暖かい冬のおかげで越冬できる数が増え、今の大量発生につながったと考えられます。
また、『果樹カメムシ類』については昨夏に、幼虫の餌となるスギやヒノキなど針葉樹の球果が豊作だったことも要因と考えられます」(田渕さん)
台風や雨も発生数に影響
夏に向けてさらにカメムシが増えてしまうのでしょうか。
「これから高温で雨が少ない状況が続くと個体数がさらに増加する可能性があります。例年以上に被害発生への警戒が必要です。
米粒に黒い変色を起こすなど、イネに害を与える『斑点米(はんてんまい)カメムシ類』についても同様です」(田渕さん)
今後の天候次第で、米の収穫量や品質に関わってくることがあるかもしれないということです。ただし、カメムシは気温が高くなれば数も増えるというだけではないといいます。
「昆虫の発生量は天候に大きく左右されます。
例えば、台風やゲリラ豪雨など、大雨が降ると個体数が大きく減ります。また、孵化(ふか)したばかりの幼虫は雨粒で植物から落とされたり、雨粒などの表面張力で捉えられて動けなくなって死ぬこともあります。
今後の天候次第で、被害が大きくならないことも想定されます」(田渕さん)
温暖化で大量発生が増える!?
近年、各地でカメムシ注意報・警報数が増加しており、地球温暖化の影響も指摘されています。
「気温の上昇は昆虫の個体数や年間の発生世代数の増加につながる可能性があります。
現時点で確実なのは、南方性のカメムシ類が生息域を北へ広げていることです。ミナミアオカメムシ(果樹カメムシ、かつ斑点米カメムシ)、ツヤアオカメムシ(果樹カメムシ)、クモヘリカメムシ(斑点米カメムシ)の分布域拡大が知られています。
また、上図のように東北地方と日本全国の斑点米カメムシ類に対する注意報・警報の数は、1999年の全国的な大量発生以降、年により増減はあるものの、継続して多い傾向があります。
温暖化の影響が考えられる例としては、斑点米カメムシの一種であるアカスジカスミカメが知られています。エルニーニョ現象が関係して高温が2年続いた翌年に、発生地域や個体数、被害が増えました。2023年、2024年が暑いとすると、2025年以降の被害増加が心配されます」(田渕さん)
カメムシは、温暖化によりますます増えていくのでしょうか。
「カメムシが増加するかどうかについては、餌となる植物や天敵昆虫、また天候との関係もあるので、予想は単純ではありません。
温暖化により植物の生育時期が早くなることで、カメムシの生育時期とズレが生じて減る場合もあれば、逆にタイミングが一致して大きく増加することも考えられるのです。
また、高温で雨が少ない状況は昆虫が生育しやすいのですが、暑さと乾燥で植物が枯れてしまえばカメムシも減るでしょう。
餌となるカメムシ類が増えることで天敵昆虫も大幅に増加して、カメムシを一気に減らすこともあります。また、暑すぎるために南の地域で生息が難しくなり、個体数が減ることも考えられます。
ただ、カメムシの発生リスクは高止まりの状況が続くと考えられ、継続して被害を防いでいく必要があります」(田渕さん)
私たちの暮らしや作物に被害をもたらすカメムシの発生数の推移に今後も注目していきましょう。
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