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永住者の税など「未納件数」めぐる入管のデータが、立法事実の根拠にならない理由

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外国人技能実習制度を廃止して「育成就労」制度を創設する入管難民法などの改正案が審議入りした衆院本会議=2024年4月外国人技能実習制度を廃止して「育成就労」制度を創設する入管難民法などの改正案が審議入りした衆院本会議=2024年4月

【関連記事】永住許可の取り消し制度は「排外主義の権化」。弁護士や永住者らが緊急集会で訴えたこと

税や社会保険料を故意に納付しないなどの場合に、外国人の永住許可を取り消すとの規定を盛り込んだ入管難民法の改正案をめぐり、入管庁は5月8日、一部の永住者の公租公課(税や社会保険料といった、国や地方公共団体が徴収する公的負担)の未納に関するデータを国会で報告した。

このデータは、90万人近くいる永住者のうち、ごく一部を対象としたものであり、永住者全体における税などの未納件数や割合を示す調査結果ではない。

また、未納が確認されたもののうち、法案が想定する永住資格取り消しの対象となるケースがどれほどの割合を占めるかも、国会の答弁では明らかにされなかった。

永住者全体の公租公課の未納状況を表すものではないにも関わらず、入管庁が示したデータは、全国紙など一部のメディアで「永住者、税金など未納は1割」などのタイトルで報じられた

こうした報道を受け、永住者全体の未納の割合が明らかになったと誤解するコメントがネット上で相次いでいる。外国人支援に取り組む団体などからは「永住者に対する誤解を招き、偏見を助長する」と、抗議の声が上がっている。

入管庁が示したデータとは

改正法案には、永住許可を得ている外国人が故意に公租公課の支払いをしなかったり、拘禁刑に処されたりした場合、永住資格を取り消すとの内容が盛り込まれた。在留カードの常時携帯など入管法上の義務を遵守しない場合も、取り消しの対象となる。

現在の制度でも、永住者の在留資格を一度得たからといって、永住許可を受け続けることができるわけではない。虚偽の申請をしたり、1年を超える懲役や禁錮刑に処され強制退去となったりした場合などは、永住資格を失う。

永住許可の取り消し事由を拡大することが、なぜ法案に盛り込まれたのか。

入管側はこれまで、外国人技能実習制度の廃止に伴い「育成就労制度」が新設されることで、外国人の受け入れ数の増加が見込まれると主張。

加えて一部の自治体から「永住許可の申請時にまとめて滞納分を支払い、その後再び滞納する永住者がいる」などと情報提供があったとして、「永住許可制度の適正化」を名目に、取り消し事由を拡大する方針を示している。

では、永住者による税などの滞納額はどれくらいに上るのか。

4月24日の衆議院法務委員会で、立憲民主党の鎌田さゆり議員が「永住者が公租公課を滞納しているという自治体からの通報や苦情は何件あったのか」「公租公課の滞納の統計を取っているか」と質問したところ、入管庁の丸山秀治次長は「通報のあった件数の統計は持っておりません」「滞納額についても当庁としては把握していない」と答弁した。

通報件数も滞納額も答えなかった入管庁は、一部の永住者の「公租公課の未納」に関するデータを5月8日の衆院法務委で報告した。

自民党の藤原崇議員は、取り消し事由の拡大に関して「法改正に向けてどのような調査を行い、どのような結果を得られたのか」と質問した。

丸山次長は、「永住者全体の公的義務の履行状況を調査することは困難」だと前置きした上で、「永住者の実子として出生した者による永住許可申請の審査記録において、永住者である扶養者による公的義務の不履行の有無」を確認したと説明。

その結果、2023年1〜6月までに処分が決定した1825件のうち、永住許可が下りなかった556件を精査したところ、235件で「永住者による公租公課の未納が確認された」と報告した。

入管庁の説明から分かるのは、このデータは永住者全体から無作為に抽出した調査ではなく、あくまで「永住者の子どもが永住許可を申請」した際の、扶養者である親の公的義務の履行状況を調べたものに過ぎないということだ。約89万人(2023年末時点)の永住者全体における公租公課の未納状況を反映する数字ではない。

取り消し対象の割合は「把握できていない」

さらに10日の衆院法務・厚生労働連合審査会では、未納が確認されたという235件について、議員から質問が続いた。

これまで入管側は、「病気や失業のために支払いができない場合」について、「一般論として、病気などによってやむをえず公租公課を支払えない場合は(取り消し事由に)該当しない」と説明してきた。

これを踏まえ、立憲民主党の西村智奈美議員が「235件の中で、永住資格の取り消し事由に当たる『故意に支払わなかったもの』はどのくらいあるのか」と問うた。

丸山次長は、「一般に公租公課の支払いがなされていないことについて、その経緯や理由の調査は行なっていないため、調査結果の中で故意に支払われなかったものの割合までは把握できていない」と答弁した。

つまり、今回示した限定的なデータでさえ、永住資格取り消しの対象となるケースが何件あるかを把握していないことになる。

西村議員は丸山次長の答弁を受け、「データも取ってない、立法事実が確認できない。極めて摩訶不思議な取り消し事由の追加であり、私は賛同できない」と強調した。

また、入管は未納が確認されたという235件の内訳(重複あり)を、住民税31件、国民健康保険15件、国民年金213件、そのほか4件━と説明している。

この数字を基に、日本維新の会の足立康史議員が「1825件のうち、213件が国民年金未納なんですよ。これは1割以上なんですね。日本全体での未納率ってなんぼですか」と質問した。

厚労省の橋本泰宏・年金局長は、国民年金の保険料の最終納付率(国籍を問わない)は2020年度で80.7%だったとして、加入者全体の「2割弱」が未納だったと回答。全体の方が高い割合だったことから、足立議員は「ちょっと私のロジックが破綻したんですけど…」と苦笑いした。

また、厚労省の統計によると、国民健康保険の全世帯に占める滞納世帯の割合は11.4%(2022年6月時点)。入管庁が今回示したデータから計算される、一部の永住者の未納の割合は0.8%だった。住民税の全体の未納割合について、ハフポスト日本版は総務省に問い合わせており、回答があり次第追記する。

このように、仮に入管庁の限られたデータを基にしたとしても、少なくとも一部の永住者の国民年金と国民健康保険の未納率は加入者全体と比べて低いことが分かる。

この点について入管庁は、厚労省が公表している国民年金などの滞納割合と、同庁が今回示したデータでは「未納」とカウントする方法が異なっており、「比較することは不可能」との見解を示している。

自治体から苦情があった通報数も、永住者全体における公租公課の「未納」の割合も、未納が確認されたもののうち取り消し事由に該当する件数も明らかにされていない。立法事実の根拠となるデータは、入管から示されていない。

「未納1割」報道の何が問題か

ハフポスト日本版が確認した限りでは、毎日新聞と時事通信の2社が5月8日、入管庁の答弁を受けて永住者の「未納は1割」との見出しで報じた。

「永住者、税金など未納は1割 厳格化めぐり国が初公表」(毎日新聞)

永住者、税など未納は1割 入管庁」(時事通信)

毎日新聞の記事はYahoo!トピックスにも掲載され、【永住権所有者 1割が税金など未納】との見出しで掲載された。

いずれの記事も、本文では入管庁のデータが「サンプル調査」の結果であることを明記しているものの、見出しからその要素は読み取れない。

また上記のように、データは永住者の子どもが申請した際の親の公的義務の履行状況を調べた結果であることや、永住資格の取り消しの対象とはならないケースも含まれ得るといった説明もない。

芥川賞作家の李琴峰さんは9日、毎日新聞の記事のタイトルと内容は「日本に住む永住者に対する偏見を煽るもの」だとして、同社に抗議したことをnoteなどで報告した

日本で暮らす外国人の支援に取り組むNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)も10日、毎日新聞に対する抗議と訂正を求める意見を発表。記事の見出しは「永住者に対する誤解を招き、偏見を助長するもの」だと批判した。

入管庁の示したデータを、移民政策の専門家はどう見ているのか。

移住連の共同代表理事で、国士舘大学の鈴木江理子教授は、ハフポスト日本版の取材に「今回入管庁が公表した調査は、生まれた子どもの永住申請した永住者を対象としたもので、永住者全体(母集団)を代表するサンプル(標本)ではありません。対象者に偏りがあるため、そもそもサンプル調査(標本調査)という言葉の使い方自体が誤りです」と指摘する。

さらに鈴木教授は、入管庁がカウントした「未納」が何年間の滞納を指すかが現時点では不明瞭であり、国内全体での国民年金の滞納率などと単純に比較することは困難だと前置きした上で、入管のデータから算出し得る一部永住者の未納率の方が低い点も強調する。

入管庁は、永住者の公租公課の滞納に関する自治体からの苦情件数を明かしていない。これに対し、鈴木教授は「永住許可取消しの導入について、入管庁は一部自治体からの声を受けてのことであると説明しています。全数調査や正確なサンプル調査が難しいのであれば、各自治体に対して滞納の実態を聞き取り、その結果を公表するべきです」と提言する。

「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」が決定した総合的対応策では、「永住許可要件及び許可後の事情変更に対する対応策等について、諸外国の制度及び許可後の状況調査を参考としつつ見直しについて必要な検討を行っていく」と明記している。

これを踏まえ、鈴木教授は「入管庁は、総合的対応策で示した手続きに従って、まずは諸外国の制度を調査した結果を示す必要があります」と話す。

永住許可の取り消し事由の拡大をめぐっては、日本で長年暮らし、生活基盤を築いてきた永住者たちから不安の声が上がっている。

「家族が離れ離れになるのでは」永住者たちが訴えた不安

4月下旬に衆議院議員会館で開かれた集会では、永住者らがスピーチをした。

日本で約20年暮らす永住者で、アメリカ人のルイス・カーレットさんは「永住者にも納税の義務や、全ての法律を遵守する義務があり、違反したら日本人と同じペナルティが課されるのは当然だと思っています」とした上で、こう訴えた。

「私は特別扱いを求めているわけではありません。日本社会の一員として、永住者として認めてほしいのです。永住者の在留資格を取り消されるかもしれないという不安感を抱きながら生活するのはつらいです」

10歳で来日した中国出身の永住者は、「家族が離れ離れになるのではと考えると不安です」と、今の思いを明かしていた。

日本弁護士連合会も3月に発表した会長声明で、永住許可の取り消し事由の拡大方針を撤回するよう求めている

永住者の税などの未納に関する記事への抗議の声を、どう受け止めているのか。取材に対し、毎日新聞は文書で次のように回答した。

<ご指摘の記事は、5月8日の衆院法務委員会で、「統計もなく、法改正の根拠がない」という野党側の指摘を踏まえて出入国在留管理庁が初めて公表した数的データを報じたものでした。このデータと法案の問題点については11日付朝刊でも丁寧に説明しています。入管法改正案を巡っては今後も議論が続きます。「共生社会」とはどうあるべきなのかという視点で、議論の推移をしっかりと報道していきたいと思います。>

ハフポスト日本版は時事通信社にも質問状を送付しており、回答があり次第、追記する。

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