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ウォン・カーウァイ的香港ガイドをはじめ00年代に集めたアジアの料理本は「いつ見てもいい気分」に

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白央さんの前回のコラムでは、韓国料理のレシピ本が話題となっていました。私も、そこまで頻繁に買っているわけではないけれど、レシピ本を読むのは楽しみのひとつです。     

なかでも思い入れがあるのは、やっぱりアジアのレシピ本や食に関する本です。

私が大事に保存している本は、今や絶版になっているものも多くなっていますが、今よりも情報が少なかった頃に、こうしたレシピ本は貴重なものでした。

2000年代に、古書ブームみたいなものがあったのを覚えている人はいますでしょうか? おしゃれな古書を古本屋に“ディグり”に行く人がいたり、新感覚の古書ガイドの本が出ていたくらいで、インターネット上で古書店をする人も増えていたのです。  

何を隠そう、私はその頃にアジア系のネット古書店をしていたのです。当時は派遣社員をしていて、メディアに何かを書いたりするということはまったくしていませんでしたが、アジアの本に特化したネット古書店は珍しかったようで、古書ガイドの本の編集さんから、何度か掲載依頼が来たりしました。それが初めてメディアに載った経験だったかもしれません。

そんなこともあって、2000年代の私は、アジアの食に関する本を、新刊、古本問わず見つけては購入していました。

その中に、今でも手元にあって印象に残っている本がいくつかあります。

作らずとも楽しめる香港の料理本

『超級マル食香港 』(写真・文/菊地和男)『超級マル食香港 』(写真・文/菊地和男)

まず紹介したいのは、平凡社のコロナブックスというシリーズの1冊、『超級マル食香港 』(写真・文/菊地和男)です。  

この本が出版されたのは1997年。ガイド本だとどうしても「情報」としての価値を求めてしまうために、年数が経ってしまうと、古いものは処分されてしまうことが多くなってしまいます。けれど(実は、それを超えて古いものを読むと、今はない情報が載っていて、そこに価値があったりするものですが)、この本は、さまざまな料理店のメニューを紹介するガイドブックでありつつ、著者が撮った写真とエッセイでつづられているため、いつ読んでも価値の変わらないものになっています。

写真の色合いがまた良いのです。表紙からもわかるように、この本の写真は彩度が高い。香港の市場では、独特の赤いライトが吊るされているので、その影響もあって彩度が高い=香港というイメージになっているのかもしれません。ウォン・カーウァイ監督の映画の色合いにも共通するものがあります。

ほかにも、この本が他のガイドブックとは違うと思ったのは、とにかく料理に近寄ってアップで写真を撮っているところ。そのせいか、料理へのイマジネーションがより広がるような気がします。だからこそ、古い本なのに、ときどき引っ張り出して読み返したくなるのでしょう。

次に紹介したいのは、『香港甜品:デザート』(謝 華顯)。食の総合出版社の柴田書店から2003年に出版された本です。

『香港甜品:デザート』(謝 華顯)『香港甜品:デザート』(謝 華顯)

この本はシリーズになっていて、『香港菜單:おかずメニュー』『香港粉麺飯:めんとご飯』という3冊がありますが、どの本も写真やデザインが綺麗で、眺めているだけでもいい気分になれます。  

私の手元にあるデザートの本には、表紙にある牛乳プリンをはじめとして、お汁粉や杏仁豆腐、マンゴープリンなどのレシピが載っています。

黒くわいや、仙草ゼリーなど、なかなか日本では馴染みがなく、手に入れにくい材料を使った本格的なデザートのレシピも多いのですが、この本は、作るというよりもこんな材料を使って香港のデザートはできているのか、と工程を知れることが、読んでいて楽しかった記憶があります。

人気のエッグタルトなどは、ほかのデザートと並びで、ちょこっと紹介されているだけでしたが、今、香港のデザート(エッグタルトはポルトガルからマカオ経由で香港に入ってきて、独自の発展をしたものではありますが)の本ができるなら、エース級の扱いで、表紙の候補になるくらいなのでは?と思いました。

もうひとつ、今の香港のデザートとしてエース級なものといえば、楊枝甘露(ヨンジーガムロ)があります。ココナッツミルクの中に、マンゴーや柑橘のつぶつぶ、白タピオカなどが入ったデザートで、最近、コンビニやスーパーでも売っています。残念ながらこの本にはレシピが載っていませんでしたが、もし今、香港のデザート本ができるなら、楊枝甘露も表紙候補ではないでしょうか。

香港旅で作った自分だけの1冊

最後に、もう1冊レシピ本を紹介しようと思ったのですが、家のどこかに眠っていて探し出せないものがあったので、私が香港の旅で撮った写真で作った、自分だけの本を紹介してしまいます。 

とはいえ、こんな本を作ったんですよ!という自慢がしたいのではなく(ちょっとはそれもありますが)、スマホで撮った旅の写真ってどんなに気に入っていてもデータがどこにいったかわからなくなったりしがちなので、こうして1冊にまとめるだけで、いつでも見返すことができていいものだなということを紹介したかったのです。

香港の夜景を表紙にしましたが、中には前述した楊枝甘露の写真もあります。焼味(シウメイ)といって、ダチョウや豚のローストをのせたご飯などの食べ物の写真も載っています。この焼味も、最近は東京でも食べられるお店が増えました。

こうやって自分だけの本を作るのも、あとになって見返すと、なかなか味わい深いものがあっておすすめです。旅の思い出だけでなく、自分の作った料理写真を本にしても楽しい記録になるかもしれませんね。  

香港を旅したときに撮った写真で作った、自分だけの本香港を旅したときに撮った写真で作った、自分だけの本

(文:西森路代  編集:毛谷村真木) 

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