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黒人の恋人ができて、日常に溢れる人種差別に気づいた。ある漫画エッセイが問うこと

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【あわせて読みたい】 「あの黒い人見て」「あの女…」差別が日常に溢れていること、知っていましたか?

「無自覚な差別的行動で、知らない間にマイノリティの人たちを傷つけていませんか?」

そう問いかける、一冊の漫画エッセイが刊行されました。

韓国での外国人差別などについて描いた『地下鉄で隣に黒人が座ったら』が和訳されました。

著者は、ガーナ出身の男性と付き合い始めたことをきっかけに気付いた、様々な差別について描いています。

韓国人のウェブ漫画作家、イェロンさんに話を聞きました。

ウェブ漫画作家のイェロンさん(左)、漫画エッセイ『地下鉄で隣に黒人が座ったら』ウェブ漫画作家のイェロンさん(左)、漫画エッセイ『地下鉄で隣に黒人が座ったら』

黒人の彼と付き合って初めて感じた、韓国での人種差別

―韓国で外国人が経験する差別について描き始めたきっかけについて教えてください。

アフリカのガーナ出身の男性、マーニと付き合う中での経験をきっかけに、韓国で起きている外国人差別について知り、漫画を描き始めました。

もともと人権問題について興味があったのですが、本格的に人権に関する漫画を描き始めたのは、2018年からです。

付き合い始めた時、韓国で道を一緒に歩いていると、露骨な視線を感じました。

知り合いが私のボーイフレンドが黒人だと知った時の大半の反応は、ネガティブなものでした。

もっと韓国の人種差別について勉強したいと思い、本や情報を探し始めたのですが、あまり情報がないことに気付きました。

日々の生活の中で人種差別を経験している人たちがたくさんいるのに、それがあまり知られていないことを恥ずかしく思いました。

少しでも韓国の人たちに国内の人種差別について知ってほしいと思い、ボーイフレンドと日々を過ごす中で経験したり、聞いたりした人種差別についての絵を描き始めました。

『地下鉄で隣に黒人が座ったら』より『地下鉄で隣に黒人が座ったら』より

ー差別を目の当たりにし、どのように感じられましたか。

私もマーニと出会うまでは、韓国に人種差別があることをあまり知りませんでした。漠然とは知っていても興味を持ったことがありませんでした。

私はずっと韓国で育ち、海外に住んだことがなかったので、直接的に人種差別を経験したことがなかったんです。

しかし、黒人の彼氏やその友人たちに出会い、話をする上で、韓国の人種差別が深刻であることに気付きました。

実際に、私たちに対する街中での露骨な視線などを体験して感じたのは、人々の「無知」です。

中には、外国人に対して露骨なセクハラや差別的な言動を取る韓国人もいますが、大半の人は、「無知」であることで差別的な言動を取ってしまっているように思いました。

固定概念、差別、恐怖心などは、全て「無知」からくるものだと考えています。

在韓外国人から次々と届いた差別の経験。漫画で伝える意義

ー差別の経験を描いた漫画にはどのような反応がありましたか。

漫画を描き、Facebookに投稿し始め、最初に投稿した時から、爆発的な反響がありました。

すぐに韓国に住む外国人や国際カップルから多くの反響があり、共感や賛同のコメントが多く寄せられました。

漫画の投稿はFacebookで多くシェアされ、広く拡散されました。

それ依頼、毎日のようにマーニーさんの体験談を描いたり、時には韓国在住の外国人にインタビューをしたりして、その経験を漫画にしました。

『地下鉄で隣に黒人が座ったら』より『地下鉄で隣に黒人が座ったら』より

―漫画で伝えるということには、どのようなインパクトがありますか?

絵の力は大きく、文章にすると長くなってしまう体験談も、絵と短い文章を組み合わせて漫画で描くと、より分かりやすく、伝わりやすくなると思います。

私が描く漫画に、色をつけずに可能な限りシンプルにしているのにも理由があります。

人種差別という、人によっては少し難しいと感じてしまうテーマでも、より多くの人に読んでもらいやすくするために、シンプルなキャラクターと構成を心がけています。

投稿は、身近な場所で起きている差別を描くことから始まり、今はトピックは韓国国内だけでなく、世界各地で起きている差別までに広がりました。

今の私の目標は、誰もが知っているような、ニュースで大きく取り上げられた差別問題について描くのではなく、日々の生活の中で見逃しがちな小さな差別について漫画にしていくことです。

「差別なんてない」そう話す人に伝えたい現実。あなたは自分が持つ“特権”に気づいていますか?

漫画エッセイ『地下鉄で隣に黒人が座ったら』漫画エッセイ『地下鉄で隣に黒人が座ったら』

―タイトルには、どのような思いを込められましたか。

この本のタイトル『地下鉄で隣に黒人が座ったら』は、自分の中にある「内なる小さな差別意識」について気づかせるようなものになっています。

自分が地下鉄に乗っていて、隣に黒人が座ったら…と想像した時に、少しでも居心地が悪かったり、不快に感じたりするでしょうか。

漫画が拡散し、より多くの人に知られれば知られるほど、投稿が伝えようとするメッセージに反対する人が増えました。

ネット上で攻撃されたり、脅されたりもしました。実話を描いているにも関わらず、「韓国にそんな差別はない」と言われることも多くありましたが、私は描くことを止めませんでした。

ー「自分の国に差別なんてない」という意見を持つ人には、どんなことを伝えたいですか。そのような意見とどう向き合っていけばいいでしょうか。

 「人権」という観点で見ると、ほとんどの人は自分が持っている「特権」について気づいていないことが多いと思います。

例え私がアジア人で、欧米諸国などでは有色人種として時に差別される立場にあるとしても、韓国で韓国人として生活している中では、特権的な別のヒエラルキーがあります。

健常者であることや異性愛者であること、男性であることなど、私たちは自分たちが置かれている状況や立場によって「特権」を持っています。

公平な社会をつくるためには、それぞれが自分自身の持つ特権に気付く必要があると思います。そのための最善の方法は、自分がどのような人権問題に関心を持っているか、そして自分にどんな選択肢が与えられているかどうかを確認することです。

なぜなら、女性であることや、障がい者であること、クィアであることなど、普段は気づいていない当事者の権利の欠如について気づかざるをえないかもしれないからです。

そこで「自分の人生を生きるのに忙しくて、そんなことを気にしている時間がない」と言える立場にあるなら、それはその人が「特権」や「選択肢」を持っていることを意味するかもしれません。

その特権や選択肢をもっていない人は、今この瞬間にも差別をされたり、日々傷つけられたりするような出来事がおこっているかもしれません。何かの問題に対して「あなたはとても敏感だね」と言える人は、その苦しみを経験しなくていい立場にあるのだと思います。

「なぜ敏感になっているのか」ということを考え、理解し、共感しなければ、自分の持つ特権について知ることはできません。

ー漫画の中では、無自覚な差別的行動「マイクロアグレッション」について描いていらっしゃいました。マイクロアグレッションという言葉やその概念、は韓国では広まっていますか?

最近は韓国でも、メディアを通して、無知から差別が起きていることを知っている人は増えたと思います。

しかし、「マイクロアグレッション」という言葉自体はあまり知られていませんし、使われていません。学校では人権についての授業もしてはいますが、十分ではないと感じています。

2020年には、顔を黒く塗った「ブラックフェイス」で卒業写真を撮った高校生たちが炎上するということがありました。

韓国は既に多文化社会であり、様々な人種や民族の人たちが国内に住んでいるにも関わらず、生徒だけでなく教師も「ブラックフェイス」が何を意味するのかという背景や、なぜそれが人種差別にあたるのかということを知らなかったのです。

これは、いかに人権教育の欠如と無知が差別を生み出しているかということの証明にもなっていると思います。

もう一つの問題は、メディアからの誤った情報や、白人至上主義の思想に基づく映画やドラマから、知らず知らずのうちに人々が得てしまう固定概念です。

「韓国人と白人は肌の色が似ているから白人に近い」というような言葉を使ったり、肌の色が違う人に対して差別的な言動を取ったりすることが実際に起こっています。

差別的な言葉で呼びかけたり、ヘイトスピーチに当たる言葉を発したりしても、当人はそれが差別だと気づいていないことも少なくありません。

差別的な言動についてきちんと教育し、メディアから誤った情報を受け取らないようにしていかなければなりません。

差別や特権について「知る」。私たちはどう変わっていけるか

ー本は学校の授業でも使われていると聞きました。どのような反響がありますか。

主に中学生向けの人権の授業で使われています。本を読み、グループに分かれて議論し、それぞれの生徒が感想や意見を書き記しています。

時には私も、特別講師として話しに行くこともあります。

多くの学生が、私の授業を通じて、これまで知らなかった差別について知ったという感想をくれ、授業中にはたくさんの質問をしてくれます。授業後にはたくさんの感謝のメッセージや感想を寄せてくれます。

「人生が変わった」とか「これまで関心を持てていなかった差別について考える機会になった」などの声があります。

学校での人権啓発教育でも、多文化共生やマイノリティへの配慮などの人権教育は遅れています。世代間での人権意識の差も顕著ですし、差別の背景には「無知」があります。

その「無知」はどこから来るのかと考えた時、背景には国の歴史があると考えてます。

韓国は、過去に多くの戦争を経験し、国が分断され、現在も休戦状態にあります。しかし朝鮮戦争の休戦後は、戦争中の惨状などどこにも見当たらないほど急激な経済成長とグローバル化を遂げました。

短期間で急激なスピードで社会が変化したことで、人々の人権に対する意識が追いついていないと感じています。

ー日本も韓国も、移民や海外から働きに来る人たちが急増しています。その中で、外国人労働者が日々の生活や職場で差別を経験する人が増えています。韓国人や日本人は改善のためにどう行動していくべきだと思いますか。

韓国と日本は両国とも、保守的な国だったという背景があると思います。

そして、産業や経済面で自国が世界に知られることを喜ぶ一方で、都合の良い部分だけ海外から受け入れようとする側面もあると考えます。移民に関しても同じことが言えます。

「郷に入っては郷に従え」という態度ではなく、他文化を学び、受け入れる姿勢を取っていくべきです。

少しずつ改善しているとはいえ、外国人を排斥したり、下に見たりし、メディアではネタとして笑いの対象にする風潮がまだあります。メディア自体も学び、改善に向けて努力してくれることを願っています。

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黒人の恋人ができて、日常に溢れる人種差別に気づいた。ある漫画エッセイが問うこと

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