「日本語しゃべれねえのかとは言っていない」警察官の証人尋問【ムスリム母子不当聴取訴訟】

原告の母子がトラブルに遭った東京都内の公園の砂場

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警視庁の警察官に、同意していないのに個人情報をトラブルの相手に提供されるなど違法な対応を受けたとして、南アジア出身の40代女性が東京都に損害賠償を求めた訴訟で、女性とその娘(当時3歳)に事情聴取した警察官ら3人の証人尋問が11月24日、東京地裁(片野正樹裁判長)であった。

事情聴取した警察官は、原告女性の連絡先をトラブル相手の男性に提供したことについて「女性の了承を得ていた」と述べ、同意がなかったとする原告側の主張を否定した。

一方「氏名、住所、電話番号を教えると明示して聞いたか?」との裁判官の質問には、「一つ一つについては話していない」と述べた。

また原告は、警察官が娘に対し「お前がどうせ蹴ったんだろ」「本当に日本語しゃべれねえのか」などと言ったと訴えている。

警察官はこの日の証人尋問で、そういった粗暴な発言はしていないと否認した上で「日本語話せる?とは確認した」と主張した。

何が争われているのか

主な争点と、原告・被告の主張

訴状などによると、東京都内の公園で2021年6月、南アジア出身の女性と当時3歳の長女が、見知らぬ男性から「(長女に)子どもが蹴られた」などと抗議を受けトラブルになった。原告の女性側は、娘と男性の子どもに身体的な接触はなかったと述べている。

また原告側は、男性から「ガイジン」「在留カード出せ」などと詰め寄られたと主張。さらに、当時仲裁に入った30代男性の証言を基に、駆けつけた警察官が男性の差別発言を制止しなかった上、長女に対して「お前が蹴ったからこんなことになっている」「本当に日本語しゃべれねえのか」などと追及していたと訴えている。

原告女性と娘は公園で聞き取りを受けた後、警察署への同行を求められ、署で再び聴取された。この際、原告側は公園と警察署内で計約4時間半にわたった事情聴取で帰宅の要望を聞き入れられなかった上、トイレの利用や長女のおむつ替え、食事も認められなかったと訴えている。

さらに、同意していないにもかかわらず、女性の氏名や住所、電話番号といった個人情報をトラブル相手の男性に対して警察官が提供したと主張。加えて、意思を確認されずに母子ともに写真撮影されたとも訴えている。

トラブル相手の男性はその後、「殺人未遂犯」というコメントと共に女性の長女の写真をSNS上に投稿したほか、女性の氏名や居住地域をネット上に公開した。

原告側は、警察官らによる一連の行為が、人種差別を支持・助長するものであり、「異常なまでの圧迫的な扱いはレイシャル・プロファイリング(※)に当たる」と指摘。「公権力の行使に際して人種差別を行ってはならないという職務上の注意義務に違反し、違法だ」として、損害賠償を求めている。

(※)レイシャル・プロファイリング・・・警察などの法執行機関が、人種や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすること

東京都は反論「違法行為はない」

こうした原告側の訴えに対し、被告の東京都は警察官の一連の対応に違法行為は認められないとして、請求棄却を求めている。

被告側は、約4時間半にわたって事情聴取をしたことは認める一方、「女性が帰宅を申し出たことはない」「食事やトイレ、おむつ交換の要望があった事実はない」として、いずれも否認している。

さらに、民事裁判を理由に女性の連絡先を求められ、男性に提供したことを東京都側は認めるが、女性の承諾を得ており「(提供を)強要した事実はない」と主張。写真撮影についても、女性の承諾を得ていたと反論している。

11月24日の裁判では、原告の母子に事情聴取をした警察官2人と、英語で通訳をした警視庁の通訳センターの職員に対する尋問があった。

相手男性に原告の連絡先を提供した警察官Aは、「原告が帰宅した後、男性から(警察署に)連絡があり、男性宅に行って女性の連絡先を教示した」「目的外で使用しないよう注意した」と発言した。また「原告から、トイレやおむつ替え、食事をしたいという申し出はなかった。必要であれば本人たちから申し出があると思った」とも述べた。

警察官Aの指示を受け、連絡先を提供しても良いか原告に確認したという警察官Bは、「通訳を介して、連絡先を男性に教えていいかを聞いたところ、女性から『OK』と承諾を得られた」と証言した。

「連絡先」が具体的に何を指すかを明示して女性に伝えたかを尋ねる裁判官の質問に、警察官Bは「私の中では住所、氏名、電話番号という認識だった」とした上で、「一つ一つについては(女性に)話していない」と述べた。

原告代理人弁護士による反対尋問で「男性にのみ女性の連絡先を伝え、女性には男性の連絡先が必要かを確認しないのは、一方にだけ便宜を図ることにならないか」と問われると、警察官Bは「女性の方は本人の了承が取れているので(相手方に提供した)」と説明した。

次回の12月の裁判では、原告の女性に対する本人尋問や、公園でトラブルの仲裁に当たった男性らの証人尋問が予定されている。

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Machi Kunizaki