働く人たちが、自分らしくキャリアを重ねていく上で大切な「ウェルビーイング」。日清食品では、2022年にWell-being推進部を立ち上げました。
社員を「評価」するのではなく、社員の「成長」を考える、キャリアウェルビーイングな仕組みとは?
物流2024問題が迫る中、物流から新たな価値を生み出すイノベーションについて語る【前編】 「もう運べません」物流が止まった日から始まった。ウェルビーイングと物流クライシスにある深い関係 に続く、深井雅裕取締役へのインタビュー後編です。
──サプライチェーン本部とWell-being推進部、両方を統括されています
Well-being推進部では、社員のウェルビーイングを考えています。元々、僕は人の育成をやりたくて。当社が「成長実感カンパニー」を目指す、となったときに、「人材レビュー(成長実感)会議」という仕組みをつくったんです。部下を評価する際に「目標に対しての結果がどうだったのか」「希望に対してどんなキャリアやインプットが適しているか」を、課長が部長に、担当役員を入れた席でプレゼンして決めていく形にした。人事目線の「評価」ではなく、社員の「成長」を考えよう、日々少しでも成長を実感できるような会社にしていこう、と。
ウェルビーイングの向上は、創造性や生産性を上げる、と言われていますよね。エンゲージメント、フィジカル、メンタルの3つの切り口から社員のウェルビーイングをサポートしています。エンゲージメントの面では、世代別に仕事の棚卸しをしてもらったり、上司との1on1だけじゃなく自身のキャリアモデルとなるメンバーとのクロス1on1もやってもらったりしています。
人に対して短期的な戦略を実行するのが人事部、5年先10年先の戦略を実行するのがWell-being推進部。視点や時間軸を変えて見ていくには、組織を分けて考える必要があります。既存事業と完全に切り離して、別のメンバーでゼロからやらないと、新しい価値は生まれません。
部をつくって見えてきたのは、思った以上にキャリア形成の相談が多いこと。もうちょっと体制を強化しないと、と考えています。
──人の成長に力を注ぐのはなぜですか
タイでの経験ですね。社長として2012年から3年間行ったのですが、最初は泣くような思いでした。タイ日清はそれまで現地財閥と合弁で、僕が行く時に財閥が抜けて、人が誰もいなくなった。荒地にゼロから工場をつくって、現地の方を採用してもすぐに辞めてしまい、入社3カ月の人が8割、生産は軌道に乗らず、という状態で1、2年回しました。
僕が行く前、タイではカップ麺だけを扱っていて、シェアがすごく低かった。でも僕らが袋麺を始めて、現地調査、商品企画、マーケティング、プロモーションの企画を現地の人たちと一緒に立てて「一花咲かせようぜ」とやっていくうちに、彼らも商談ができたり、自分たちが作った商品が店頭に並んだりすることでモチベーションが上がって、売り上げも上がっていった。
従業員250人のうち、日本から来たのは僕含めて4人。現地の人たちがいかに能動的に働けるかを考えました。仲間としてビジョンを説明して、会議では毎月数字を開示して何が原因だったんだろう、と話し合って。そうやって、皆でどこに向かうのかが明確になっていった。
現地の人に何が刺さるのかは、僕らでは分からない。いろんな階層のお宅にホームビジットして、現地の人が味付けをアレンジして食べた後で「それ一口いい?」ともらって味を見たりしましたね。
赤字続きで事業税を払っていないから、税務署から帰ってきた財務部長が「お前の会社は儲ける気がないのか、続かないぞ、と言われて恥ずかしかった」と嘆いていたけれど、今は利益の出る会社になりました。帰る時には立派なパーティーを開いてくれて、そうなれたのが嬉しかったし、日本人もタイ人も変わらない。同じ志があって、動機づけがあれば、1つのチームになれる。そんなことが日本でもやりたいな、と思って。
──2019年に企業内大学「NISSIN ACADEMY」を立ち上げました。人材育成の仕組みですね
全社員が自由に自発的に参加する公開プログラムと、手を挙げた社員の中から対象者を選ぶ選抜プログラムに分かれています。選抜プログラムでは、各事業部門の事業戦略をどう実現させるのか、自分自身で課題を見つけ、能動的に事業を進めていける人材をつくりたい。
人事部がやると、どうしても研修という手段が目的化してしまう。僕らにとって研修はきっかけに過ぎなくて、研修を通してコミュニティができて、その中で競い合い、学び合ってくれたら、と思っています。
日清食品は、戦後の空腹の時代に創業して、今は飽食の時代。現代の食にまつわる課題にどう解決策を提案するか、を考えたとき、今だったら栄養を切り口に、好きな時に好きなだけ食べていいような食品をつくろう、というのが僕らの目標です。
環境やライフスタイルに応じて提供する価値やサービスは変わっていくので、常に新しい事業を生み出していくことが必要。そうした事業をゼロから作る人材を育成、輩出していくことで、人も組織も成長し続ける。それがウェルビーイングなことかなと思っています。
──日清食品一筋に歩んでこられました
全くエリートではないですよ。低温事業部(現在の日清食品チルド)に配属されて、最初10数年いました。チルドは今よりもシェアがなくて、そもそも明確に「これだ」というのがないと、商談さえしてもらえない。即席麺だと新製品が出たら黙っていても買ってもらえて、営業担当が変わっても売り上げは変わらないけど、チルドは担当が変わったらゼロになることもある。「お前の給料は俺が払ってる」って同期に言われるぐらい、利益も出ていない、売り上げも小さい部署でした。次に青森営業所で7年間。除雪した雪の上を歩くと信号機が触れるぐらい、雪深くて。その後は大阪、高知、高松。タイだって、グローバルで見ればものすごく小さな現場。どちらかといえば周辺しか歩いていない。
でも周辺だったから、自分で考えなきゃいけない部署だったから、組織を自分でつくるとか、人を自分で育てる、やれることを自分で見つける、という力が身についたと思います。雑草魂ですね。
物流に関わったのもたまたまだし、今のキャリアは偶然の結果ですが、偶然の出会いや出来事をチャンスに変えていくことはできる。
結局、人がすべて。人がいればなんでもできると思っています。やりたいことって、一つ始めると次にやりたいことができて、自分も成長するし、そうするとゴールも変わって、そのうちに社会環境も変わって、とずっと連鎖していく。仲間がいることで、さらに可能性が広がっていく。
いま採用では、キャリア入社の方が増えています。若い人たちは、僕の時よりもっと、自分で「こうしよう」とキャリアを考えています。自由にやってもらって、それぞれが影響しあって、社会と共に変わりながら目標を実現する。そんな組織をつくっていくことが、既存事業の責任者としての、僕のミッションかなと思っています。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
荒地にゼロから工場を…。「非エリート」の視点がウェルビーイングを支える