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プリキュアシリーズの20周年記念作品『映画プリキュアオールスターズF』が全国の映画館で大ヒット上映中だ。
シリーズに15年以上関わり、監督を務めた田中裕太さんによると、今作のテーマは「プリキュアって何?」。
これまで多くの人たちに夢や希望を与え続けてきたプリキュアとはどんな存在なのか。20年たった今、映画に込めた思いとともに聞いた。
(※記事中では、物語のネタバレに踏み込んでいます)
◆「プリキュアとは何か」定義が曖昧になってきた
──20周年映画のテーマは、「プリキュアって何?」です。これを描きたいと思った理由は。
プリキュアシリーズは長く続いてきたことによって、多様性を極めてきたと感じています。いろいろなプリキュア、そしてシリーズが生まれてきました。その結果、今、一言で「プリキュアって何?」と言えなくなってきたなあと感じたことがテーマ設定の始まりだったと思います。
例えば設定面で言えば、自分が関わり始めた15年前、プリキュアに変身するのはいわゆる普通の女の子だけでした。ですが最近は、人魚やアンドロイドなど、いろんなルーツを持つ子が増えています。
また子ども向けの主軸シリーズだけではなく、プリキュアの未来の姿を描く『キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~』や舞台『Dancing☆Starプリキュア』といった、シリーズを長く愛してくれる大人のファンに向けた派生作品も生まれるようになりました。
時代に合わせて変化し続けてきたのがプリキュアなので、その一環かもしれません。ですが、何をすればプリキュアで、何をしたらそうではないのか、プリキュアの定義が曖昧になってきた。ならば今一度問いかけてみることが、20周年に相応しいテーマかもしれない。そう思いました。
──田中さんは『Yes!プリキュア5』(2007年)から15年以上、プリキュアシリーズに携わっています。作品作りの視点でも、大きな変化を感じられるのですね。
あくまで僕の主観なのですが、当初は本当にストイックに子どもの方だけを見て作っていたと感じています。楽しんでくれている大人のファンは当時からいましたが、基本的にそっちはあまり気にしていなかった。
2009年から2013年までプロデューサーをしていた梅澤淳稔さんが当時「大人の視聴者を意識しすぎると子どもは見抜いて自分たちのものではないと感じてしまい、本来のターゲットが離れていってしまう。そうなるとそれはプリキュアではなくなる」といったことを話していて。僕はその意見に強く共感し、その思いを大切にしながらプリキュアに携わってきました。
でも、「オトナプリキュア」はタイトル通り、かつてプリキュアを好きだった大人がメインターゲットで、その気持ちに寄り添って生まれた企画だと思います。それには共感する部分はありますが、「大人向けのプリキュア」が生まれてきたとなると、いよいよプリキュアとは何か、分からなくなってきました。
これからも、今見ている子どもたちのためのものというのが第一だとは思うのですが、ビジネスとしてそれ以外の方向も考慮する必要がある、そういう状況になってきたのかもしれません。今後プリキュアってどうなっていくんだろうなという思いが、僕にもあります。
◆プリキュアはなぜ強いのか。「なんで」の部分を描いてきた
──今回は、歴代78人の全プリキュアが登場するオールスターズ映画になりました。
最初は、オールスターズの予定ではなかったんです。70分程の尺の中で78人全員を出すのは無理だと思い、どこかの世代で区切ろうと。直近3世代という案もあったのですが、何度もやっているので新鮮味がないなという思いもありました。
オールスターズ映画は2016年までは毎年作られていました。ですが今作を除くと、それ以来15周年(2018年)の時にしか製作していなくて。だったらオールスターズ映画にあまり出られていない直近9世代のプリキュアで構成できたらなと思いました。それくらいなら人数的にもギリギリいけるかなと。だけど、いろんな事情から、最終的には全員を出す羽目になりました(笑)
──いろんな苦労があったんですね。
ははは(笑)企画は生き物なんでね、変わっていくんですよ。
──78人全員を出すというのは、難しかったでしょうか。
いやああぁ…多すぎて無理ですねえ…。映画の尺も70分くらいで増えないので。それに、増えたからといってできるかというと別の問題です。やっぱり数字が大きい。だからこそ今回はキャラクターを絞るという方向性になったのですが。なるべくいろんなシリーズのプリキュアを平等に見せたいという気持ちはありましたが、やはり現実問題として難しかったなあと。
──ですが今作は興行収入も歴代最高を記録し、評判もとても良いと感じています。「プリキュアって何?」がテーマの今作ですが、キュアシュプリーム/プリムというキャラがオリジナルのプリキュアとして登場しました。
キュアシュプリームの存在は、「プリキュアって何?」という問いに対するアンチテーゼです。シリーズを通してプリキュアは、基本的には「強くて可愛くかっこいい存在」として描かれてきました。そしてプリムは、「強い」というごく一面だけを見て、プリキュアに関心を持っているというキャラクターです。しかしなぜプリキュアが強くてかっこいいのかという部分への考慮が抜け落ちており、見ようともしていませんでした。
でも、僕らが20年で描いてきたのって、プリキュアがなぜ強いのかという「なぜ」の部分だと思うんです。なりたい自分になるという思い。誰かと手を繋いで立ち上がること。それに起因して諦めない。だからプリキュアは強い。それは今作でも伝えたいなと思いました。
──そんなシュプリームは最後、「なぜ」の部分に気づき、プリキュアから救いの手が差し伸べられました。
本当は、勧善懲悪に振りたかったというか、シュプリームをきれいに倒して終わりたかったんですよ。でもやっぱり最後に手を差し伸べてしまった。作り手側として甘さが出てしまったところはありますが、後悔はしていません。敵にも手を差し伸べること。それも含めて、プリキュアだよね!というところに帰ってきたとも思っていますから。
──最後プーカとシュプリームは、プリキュアになったと受け取りました。
劇中では一切説明していないので、プリキュアになったと言われても全く間違いじゃないと思いますし、見た人が思い思いの解釈をしてもらえれば。
設定的な話になるのですが、シュプリームは異界から来た神のような存在です。世界を作り替える力があるなどおおよそ人間とは程遠い力を持ち、それは「上位存在」や「超越者」とでも言うべきで、一人だけで完成している存在であるとも言えます。でもプリキュアはそうではない、一人一人がある意味「不完全な存在」だからこそ、みんなと手を取り合って立ち上がるみたいなところがあると思っています。
シュプリームはそんなプリキュアの姿に憧れてしまったんですよね。そして己の内側からプーカを生み出した。元々完全なひとつの個体でしたが、それが二つに別れてしまった。綻びが生じてしまいました。それは見方によっては完全な存在から不完全になったともいえるのですが、そっちの方が自分としては魅力があるのかなあと思います。それってつまり、人間ですよね。
──最後、シュプリームは黒、プーカは白色が基調となり、初代を思わせるようなデザインだなと感じました。
そうですね。初代のオマージュじゃないですけれど、20周年映画の終わりとしてちょっと一つの美しさとして出るかもしれないと思いました。見栄えの話ですけれども。
──なぜ、ふたりはプリキュアになれたのでしょうか。
そこは「プリキュアの奇跡」なのかなあと思っています。「プリキュア」シリーズを立ち上げた鷲尾天さんの「プリキュアに憧れることを悪として描くのはやめてほしい」という言葉も大きかったです。
シュプリームは世界を作り変えるなど、とんでもなく迷惑なことをしてますが、邪悪な存在かというと少し違うイメージです。何より「プリキュアになりたい」という気持ちがあった。そこは救ってあげたかった。子どもたちにはプリキュアに憧れてほしいというのもあって、シュプリームの気持ち自体を否定してはいけないのかなという思いがありました。
──「プリキュアって何?」に対し、制作陣が出した答えとは。
議論を重ね、答えの一つとして出したのが、今回のキャッチコピーでもある「繋ぐ」でした。プリキュアたちは20年間、世代や想いを繋いできましたから。
ただ「プリキュアって何?」と聞かれた時に、結局のところは「よくわからないね」というところに落ち着きました。たくさんの人がたくさんの想いを繋いできたシリーズなので、やっぱり一言で総括はできないよね、と。
プリキュアの数だけプリキュアがいますし、こういうものです!と制作側から押し付けたり、狭い範囲に収めた回答をしたりしたくなかったというところもあって。あくまで問いかけをして、見た人に答えを託す、という形になりました。
そして、ここからまた未来に繋いでいくということが大事なのかなと思っています。守るべきものは守りつつ、変化すべきところは柔軟に。時代に合わせて変えていくことが大切かなあと。そうすれば、今は想像もできないような新しいプリキュアが、今後もっと生まれてくるかもしれません。
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※ハフポスト日本版では、プリキュア20周年を記念し、『映画プリキュアオールスターズF』のインタビュー記事を4日連続で掲載する。
スケジュールは以下の通り。
14日 田中裕太監督インタビュー(前編)
15日 板岡錦さんインタビュー(前編)
16日 田中監督インタビュー(後編)※本記事
17日 板岡さんインタビュー(後編)
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>
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「敵にも手を差し伸べる。それもプリキュア」20周年映画がたどり着いた結末【田中裕太監督インタビュー】