子どもだけでの留守番や外出を「置き去り」として禁止する埼玉県虐待禁止条例の改正案が自民党県議団から県議会に提出されたことを受け、子育て世帯の当事者の間に不安の声が広がっている。
罰則規定はないものの、対象となる行為の幅が広く、働きながら子育てをする保護者らにとって負担の大きいものだからだ。
県民に禁止行為の通報も義務付ける内容で、「子どもの預け先を拡充することが先では」との声が上がる。
埼玉県議会では10月6日、この条例案が福祉保健医療委員会で原案通り可決された。
改正案、どんな内容?
改正案は、小学3年生以下の子どもを養護する保護者らに対し、「児童を住居その他の場所に残したまま外出する」などの「放置」をしてはならない、と定める。
さらに県民に対し、条例が禁止している行為を発見した場合は、「速やかに通告または通報をしなければならない」と義務を課している。
一方、小学4〜6年生については「努力義務」とした。
「子どもだけで公園に遊びに行かせる」「子どもだけでおつかいに行かせる」「小学3年生以下だけで登下校する」といったことも禁止行為に含まれる。
提案理由について、自民党県議団は「児童が放置されることにより危険な状況に置かれることを防止するため」と説明している。
学童保育の待機児童、埼玉はワースト2位
7〜15歳の子ども3人を育てる、みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙さんは、改正案について「何より順番が違うのでは」と疑問を呈する。
「多くの親は、生活のために毎日時間もお金も必死にやりくりをしています。保護者がフルタイム勤務であっても公立の学童には入れず、民間の学童もない地域もある。子どもを預ける場所を探すのが難しい現状があります」
天野さんは、チャイルドシッターなどのサービスを利用したくても経済的な負担が大きいことや、信頼できるシッターを見つけることの難しさを課題に挙げる。
厚生労働省の統計によると、放課後児童クラブ(学童保育)を利用できなかった児童数は2022年に1万5180人に上った。都道府県別では、東京都(3465人)に次いで埼玉県は全国で2番目に多く1554人だった。
仕事に出る間に子どもを預けたくても、受け皿が十分ではない実態がある。
「すでに学童の預け先の確保が追いついていない状況で条例案が成立してしまった場合、どれだけの自治体が対応できるのでしょうか。まずは制度を充実させるのが先であるべきです」(天野さん)
主婦(主夫)や自営業者へのしわ寄せ懸念
低学年の児童のみでの登下校が禁止となった場合、保護者にとって毎日の付き添いは大きな負担となる。
「親が働いていて登下校に付いていくことが難しいとなると、PTAなどからボランティアで人を出してもらうことになります。ですが人手不足でそれにも限界がある。結局、専業主婦(主夫)や自営業者にしわ寄せが行くことになるのではないでしょうか」(天野さん)
ニュージーランドやオーストラリアの一部の州など、子どもの留守番を禁止し、違反した場合に罰則を科す国・地域もある。
海外でのこうした事例について、天野さんはチャイルドシッターの普及率や利用料金、行政によるサポート体制などが日本とは異なると指摘する。
現在の日本には同様のルールはなじまないと強調し、受け皿が不十分なまま条例が先行して成立するのは「百害あって一利なし」だと話した。
改正案は定例会最終日の10月13日に採決される予定。可決されれば、2024年4月に施行される。
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子どもだけで公園遊びも「虐待」に。埼玉県議会の条例案が委員会で可決。「順番違う」と子育て当事者