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勝手に履かされた下駄の重さで苦しむ男性たち。弱さで繋がることで男尊女卑の呪いは解けるのか

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「自分の根っこにも男尊女卑の価値観が根ざしている」 

男が痴漢になる理由』などの著書で知られる精神保健福祉士の斉藤章佳さんは、『男尊女卑依存症社会』を執筆した背景をそう打ち明ける。

アルコール依存症、性暴力、DVなどの加害者臨床に携わる中で、「勝手に履かされた下駄」の重みに苦しみもがく男性たちとどう向き合い、何を教わってきたのか。 

インタビュー前編はこちら>>「日本社会は男尊女卑に依存している」男らしさ女らしさへの過剰適応が生んだ社会の歪み

「男尊女卑」の歪みに共鳴した

━━日本社会に巣食う男尊女卑の根深さについて書かれた『男尊女卑依存症社会』は、フェミニズムやジェンダー研究ではなく、加害者臨床の現場から生まれた1冊です。男性である斉藤さんが、男尊女卑というテーマに向き合うようになった背景には何があったのでしょうか。 

これは本に書こうかどうか迷って結局書かなかったのですが、私という人間の根っこに男尊女卑の価値観が深く根ざしているからです。

私は地方の田舎の出身ですが、家庭でも地域でも、男尊女卑はごく当たり前のことでした。「女のくせに~だなんて」「女、子どもには関係ない」という言葉が、家でも学校でも普通に飛び交っていた。 

身内の葬式があれば、座敷に座って酒を飲み交わすのは全員が男性で、女性は台所で裏方仕事している。男性は職場で、女性は家庭で自己犠牲的に働くのが当然のこと。 

そうした風景を当たり前のように見ながら大人になりました。

やがて精神保健福祉士になり、アルコール依存症や性犯罪者、DV加害者など、さまざまな加害者臨床の現場に立ち会うようになると、そこで「女性をモノのように扱う」発言をする男性が数え切れないほど多くいることに気付かされます。

精神保健福祉士として彼らの話を聞きながら、頭では「これは認知の歪みだな」と捉えられるんですよ。一方で、私のすごく根っこの部分では共鳴するものもあった。

━━歪みだと理解しながら、その歪みに共鳴もした、と。

はい。客観的には歪みだと判断できるのに、一方では懐かしさのような感情すら湧いてきた。両極にある2つの視点が、同時に自分の中に揺れ動きながら存在していたのです。

ただ、これは後から学んでいくのですが、その両極に自覚的でいることが精神保健福祉士にとっては重要なことなんですね。よく見知っている懐かしい価値観に引っ張られることなく、かといって「認知の歪みである」と一方的に切り捨てるでもなく、バランスボールの上で均衡を取るような感覚を保たないと、支援は成り立ちませんから。

そうした出来事が積み重なっていく中で、ジェンダー問題にも自然と向き合わざるを得なくなりました。

「優れた男に認められる男」という報酬

━━『男尊女卑依存症社会』では社会によってインストールされた男尊女卑に適応しようとして、暴力や依存症と結びついてしまう男性が多い社会構造が語られています。男性優位の社会が、女性のみならず男性自身をも苦しめている現状が見えてきます。

以前、盗撮を繰り返す16歳の男子高校生と話をしたときに、「なぜ盗撮をしたかったのですか?」と私が聞くと、彼は「盗撮をしたかったわけじゃない。ただ、初めて男として認められた感じがしたんです」と答えたんです。

彼が盗撮を繰り返したのは、いわゆるスクールカーストの上位にいる男子から頼まれてのことでした。女子を盗撮して、それをLINEでその男子と共有することで、「初めて男として男に認められた」と彼は感じた。その承認欲求が報酬となって、盗撮を繰り返してしまったと。

━━優れた男に認められることで、男としての承認欲求が満たされる。

「男」スイッチは強力なんですよ。

私の息子は小学生のときにサッカーをしていたのですが、ある大会で強いチームと対戦し、0対0のままもうすぐ試合終了というときに、40代くらいのコーチが「お前ら、男だろう!」と檄を飛ばしたんですよ。

横で聞いていた私は「いやいや、小学4年生に男だろうって言っても」と思ったんですよ。ところが、そこから突然チーム全員の動きが格段によくなって、ギリギリで点を入れて勝利したんですね。

━━小学生でも、男らしさのスイッチがすでに脳に備わっていたのでしょうか。

というより、普段の練習指導でコーチがそのスイッチを各選手の中に作っておいたのでしょうね。そして大事な試合の場面では、条件反射でスイッチが入るように備えていたのだと思います。

ただ、このスイッチは裏返せば「ここで負けたら男ではなくなる」というメッセージにもなる。男性が自分の弱さを他人に見せづらいのは、こうした「男らしさ」の弊害とも言えます。 

あなたの弱さと繋がりたい

━━『男尊女卑依存症社会』では男尊女卑から抜け出すためのステップとあわせて、自分の弱さをさらけ出すことの大切さが語られています。社会人1年目の斉藤さんが、上司から「1日に3回、周囲に『助けて』を言いなさい」と命じられたエピソードは印象的でした。

臨床現場で一番燃え尽きやすいのは、私のような体育会系育ちの熱血タイプなんですよ。

なぜなら依存症の人はこちらが熱心に関わるほど、良くならないものだから。変わるかどうかは、その人が決めることであって、「自分がここまで関わったのだから改善に向かうはずだ」などと精神保健福祉士が思うのは傲慢であり、それ自体が共依存です。

上司は私のそうした性質を見抜いたからこそ、あえて他人に頼るようにと指示したのでしょう。事実、私は「わからないので教えてください」と言い出せないタイプでしたから。

最初のうちはなかなか助けを求められずに苦労しましたが、何とか実践できるようになると、すごく仕事がしやすくなったんです。「前に◯◯で困ってたけど、今は大丈夫?」といった声掛けが自然と増えて、職場の人間関係もうまく周り始めたんですね。

そもそもアルコール依存症のような強力な病気は、一人で立ち向かえるものではありません。チームで対応していくためには、他人に素直に頼るスキルも不可欠。これを実地で学べたことは、私にとって非常に大きなメリットでした。

━━本書の一節に「勝手に履かされた下駄は重い」という表現がありました。誰かに頼ること、弱さを見せることが、男性が履かされている「下駄」を軽くする最初の一歩にもなるかもしれません。

過去に依存症の回復途上にある自助グループの話し合いに参加した帰り道で、ある参加者から「あなたの弱い話が聞きたいんだ」と言われたことが忘れられません。

「あなたの弱い話が、仲間の強さに変わるんだから」と。弱い部分や恥だと思っていた出来事や、隠したい過去が、そこにいる人たちの強さに変換される。それまでの自分にはそうした発想がまったくなかったので、衝撃でしたね。

「自分はこんなにすごいんだ」と強さで持って関わろうとするのではなく、弱さで他者と繋がっていく。それによって得られる報酬があることが理解できれば、男尊女卑社会のしんどさから、少しずつ抜け出していけるようになるのではないでしょうか。

精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さん精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さん

【プロフィール】

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
大船榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)

1979年生まれ。大卒後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、約20年に渡りアルコール依存症を中心に様々なアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で現在まで2500名以上の性犯罪者の治療に関わる。『男が痴漢になる理由』『「小児性愛」という病』『盗撮をやめられない男たち』など著書多数。 

(取材・文:阿部花恵/編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版) 

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勝手に履かされた下駄の重さで苦しむ男性たち。弱さで繋がることで男尊女卑の呪いは解けるのか

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