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「ミスを怒っていたら、バレーボールの指導者にはなれない」川合俊一協会長の暴力や暴言の無くし方

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ひとつのミスが命取りになる。

緊迫した場面や、気を引き締める意味で、特にスポーツなどでよく使われる表現だ。

だがバレーボールにおいては、ミスを重く見すぎる姿勢は改めるべきだと、日本バレーボール協会(JVA)の川合俊一会長は訴える。

「ミスが腹立たしいと思うと、バレーボールの指導者にはなれない」

バレーボールはミスが起きやすいスポーツだという。ミスした選手への指導のつもりがエスカレートし、暴言や暴力となる恐れがある。

こうした指導名目の暴力や暴言をどうなくせるのか。暴力撤廃アクションを始めたバレーボール協会の取り組みを聞いた。

川合俊一会長川合俊一会長

指導ですか?暴力ですか?

JVAは2023年3月、「暴力撤廃アクション」をスタート。その中で、暴力と指導の間にあり、明らかな暴力や暴言でない言動を「未暴力」と位置付けた。未暴力は、何かのきっかけで明らかな暴力に変化してしまう可能性もあるという。

暴力撤廃アクション暴力撤廃アクション

「自分自身の殻を破れるよう、指導者から見ての限界まで、頑張らせている」という言い分は、選手にとって「立っているのも限界で、『もう無理です』と言っても聞いてもらえなかった」という苦行でしかない。

自身の指導が暴言や暴力、そうでなくてもパワハラ行為かも知れないと思い直してもらうために、新聞広告を出して様々な事例を示した。

だが皮肉なことに、このアクションを始めようという矢先に、強豪高校・大学の指導者による暴力暴言問題や疑惑が立て続けて明るみに出た。

千葉県の強豪校の顧問が2月、生徒の顔面にボールを投げるなどしたとして、暴行容疑で逮捕。3月には、全国優勝経験がある山梨県の私立高校監督が部員への暴力で解任された

さらに4月、千葉県の大学バレー部の監督による暴力疑惑が浮上。監督はJVAの男子強化委員を務めていたが、委員を辞任した。

この件は、監督が選手の髪の毛を引っ張るような様子を捉えた動画がSNSに投稿されたことがきっかけで、大学が調査に乗り出した。

川合会長は、一連の不祥事を重く受け止めつつ「(悪い部分は)全部表に出した方がいい」と考えている。

「例えば『お前ちょっとこーい!』という言動が表に出て、問題視された時に、『自分がいつもやっているのはダメなんだ』と分かる。(そうでもないと)分からない人もいる」

新設した相談窓口と通報フォームには、相談が寄せられているという。

「メッセージを打ち出して、(被害を)どんどん表に出そうという風潮にしている。『言ったら大変になる。言っちゃいけない』と隠蔽されてきたであろうものを、『バレーボールは言っても大丈夫』という雰囲気をつくっています」

バレーボールは「ミスが当たり前」

川合会長は「バレーボールではミスするのが当たり前」という認識を指導者が持つことが必要だと訴える。

バレーボールは、アタックが外れたり、レシーブでボールをうまく拾えなかったりした瞬間に失点となる。こうした競技特性上、ひとつのミスが試合に与える影響が大きく、ミスしないことが重要視される。

ミスに対する注意や指導が行き過ぎた先に、「未暴力」や暴言、暴力が起きてしまう恐れがあると川合会長は指摘する。

「バレーボールはミスの連続のスポーツで、誰かがミスしないと点数が入りません。指導者はミスをいちいち怒っていたら成り立たない。『またミスった』『またミスった』そんなことを言っていたら、ずっと怒らないといけません」

指導普及委員会など指導者が集まる場で、こう繰り返し伝えているという。

「なるべくミスしないほうが勝てるのだったら、どういう風にすればミスが起きないのか、ミスをしない技術があるのかを勉強して教えるのがこれからの指導者です」 

「ミスを怒るのではなく、ミスしない方法を教える。バレーボールやスポーツの指導はそういうものだとシフトしていかないといけません」

川合俊一会長川合俊一会長

問題の指導者に、協会ができること

こうした意識付けによる防止活動と並行して、暴力や暴言があった指導者に厳正に対処できるよう、指導者の登録制度を見直す考えだ。

「指導者登録をしていれば、何が問題があったときに罰則を与えられるのですが、登録をしてない指導者も多い。登録しなくても出られる大会もあるので、そうすると面倒だと登録しない。我々が罰則を与えられない指導者が多いので、全部登録制にしようという動きになっていますが、昔からの課題で『はいやります』ではいかない。2027年をめどに完全登録制を目指しています」

さらに、不適切な指導が見過ごされないよう、弁護士らによる外部の第三者調査チームも立ち上げた。

協会独自の調査機関がないため、これまで指導者による暴力・暴言の通報があった際、調査権限のある都道府県のバレーボール協会や教育委員会に事実確認を求めてきた。

しかし川合会長は、このやり方では調査の公平性に課題が残ると指摘する。

「各都道府県のバレーボール協会に『こういう通報があるから調べてください』と言っても、調査対象者が協会の重役という可能性があります。その場合『そのような事実はなかった』という報告が来ても、それは本当なのかと疑問に思われてしまう。県教委に調べてもらう場合も、県教委に力を持っている可能性もある」

都道府県の協会や教育委員会による調査や報告の内容が不十分と判断した場合に、外部調査チーム経由で再調査などを求めることを考えているという。必要に応じて独自の調査や事実確認も想定している。

「都道府県の協会や教育委員会はしっかり調査してくれると思っているので、連携して(暴力や暴言の排除を)やっていきます」

アスリートの盗撮、カメラ禁止や声かけで対策

JVAが力を入れるのは、暴力や暴言撤廃だけではない。スポーツ界で近年、ユニフォーム姿のアスリートに対して、性的な意図で体の一部だけをアップにするといった盗撮行為が問題視されている。

バレーボールも被害の多い競技のひとつで、特にビーチバレーでは、望遠レンズや赤外線カメラによる悪質な盗撮被害が多発していたと、川合会長は明かす。

「まず対策としてしたのが、一般の人の望遠レンズの使用禁止。(競技を拡散してほしいので)スマホのみOKとしました。赤外線カメラを通さない水着があって、一時期それも着てる選手もいました」

8月に開催されたJVA主催のビーチバレージャパンでも、スチールカメラとムービーカメラの使用が禁止となっている

スマホで疑わしい撮影をしている人に対して「後ろから見て注意してます。『全部見せてください』と(スマホを)開けさせて『これ消してください』という作業をしています」(川合会長)

インドアのバレーボールでも、スチールカメラでの撮影を禁止していない代わりに、巡回警備やプラカードでの呼びかけを実施。疑わしい撮影者に写真の開示や消去を求めており、「知る限りで、断られたケースはありません」(JVA職員)

性犯罪に関する刑法改正で、性的な部位やわいせつ行為の盗撮などを取り締まる「撮影罪」が新設されたが、アスリートの盗撮は処罰対象に含まれなかった

JVAとして「どこまでがスポーツ写真で、どういう撮影目的なのか、ガイドラインなどではっきり線を引けないので、地道に声掛けしていくしかありません」と活動を続けていく。

川合俊一会長川合俊一会長

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