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ファッションの世界で、「いないもの」とされてきた人たちがいる。
胸を切除する手術をしていないトランス男性の一人は、「メンズの服を着ると身幅がどうしてもフィットせず、自分のコンプレックスである胸が強調されてしまう。本当に自分の体に合った、直線的なラインの服があったら…」と言う。
身長が低めなノンバイナリーの人からは、「普段は仕方なくキッズの服を買うけれど、デザインが可愛らしいものばかりで好みではないし、レディースの服を妥協して買っても、服のラインが女性的なものが多い。『これじゃない』と思いながら服を着ている」という声も。
欲しいのは、レインボーのロゴがついた服でも、ジェンダーニュートラルな誰でも着られるゆったりサイズの服でもない。
そんな「トランス男性、ノンバイナリー、マスキュリンなものが自分に合う人」が、「自分が望むスタイルで、フィットするサイズの服を必ず見つけられる」と信じられるブランドを作りたいーー。
こうした思いを胸に、あらゆる性の人のためのアンダーウェアブランド「OPT」を手がける「Rebolt(レボルト)」社は7月、新たにアパレルブランド「OPT apparel(オプト アパレル)」をスタートした。
同社の共同代表で、サッカー選手の下山田志帆さんと内山穂南さんが、ブランドを通して実現したいこととは?
ファッション業界は「性別二元論の世界」
ーー元々OPTが出している吸水型ボクサーパンツとは別のラインで、新たにアパレルブランド「OPT apparel」を始めようと思ったきっかけを教えてください。
下山田さん:
きっかけは、女子サッカー選手の一人から「チームから提供されるスーツがレディースのものばかりで、自分が着たいスタイルの服で試合会場に行けない」と悩む声が寄せられたことでした。
OPTはその声に応える形で、体にきちんとフィットしながら、メンズスタイルで直線的なラインがカッコいい「セットアップスーツ」のテスト販売を始めました。すると、アスリート以外にもたくさんの方から、「着たい服が自分にフィットしたことが今まで一度もなかった」などの反響があったんです。
やっぱりみんな少しずつ妥協してきたんだと分かってきて、日常的に着られるアパレルラインを作ることにしました。
ーー既存のファッション業界について、どのような課題意識がありますか?
下山田さん:
端的に言えば、ファッション業界は「性別二元論の世界」だなと思っています。レディースであればこういうデザインであろうとか、メンズであればサイズの展開はこうであろうとか、シスジェンダーのマジョリティの意見がすごく反映されてきたのではないかと。
いわゆる社会的マイノリティとされる「トランス男性、ノンバイナリー、マスキュリンなものが自分に合う人」の視点や身体的なデータは、従来の服の規格には含まれていない。「いない人」とされてきたなと私は思っているし、実際に当事者からも同じような意見が寄せられています。
ーー自分が望むスタイルで自分の体に合う服がどんなに探しても見つからないというのは、本当に苦しいですね。
下山田さん:
ファッションは社会の中で自分がどうありたいかを示す一番身近な手段だと思っています。
例えば、私のありたい姿は男性でも女性でもない、それでいてカッコいい姿。そういう思いがあっても、人は洋服一つで私のことを、社会的に女の子・女性だと判断する。そういう経験を昔からずっとしてきました。
でも、自分のありたい姿を表現したいと思っても、服の選択肢がすごく限られていて、なんとなく自分に合っていないけど着るしかなかった。そんなことが続くと、どうしても自分のあり方に自信が持てなくなる。振り返ると、自分自身をかっこいいと思えるワクワクや誇りみたいなものが、自分が思っている以上に削られてきたんだなと思います。
だからこそ、「OPT apparel」というブランドを通して、ファッション業界に「いない」とされてきた自分たちは確かに「いる」んだと、その声と姿を可視化していきたいと思っています。
従来の規格にはないサイズ感を
ーー現在販売されているアイテムは、ジャケット、パンツのセットアップとTシャツの3点ですね。どんなところにこだわりましたか?
下山田さん:
作る過程でトランス男性やノンバイナリーの方など、コミュニティの方々に意見を聞いていて、特に多かった声が「自分の体のラインを見せたくない」「自分が望んでいるシルエットでフィットする服がない」「サイズが長すぎ、大きすぎる」でした。
そこを解決するために、Tシャツ「UCHI」は従来のメンズのサイズ規格より肩幅を狭く、着丈も短くしました。また、着た時のラインを直線的に見せるために、横にスリットを入れました。後ろを少し長くすることで、お尻周りを立体的に覆って全体的にストンとまっすぐなシルエットになるんです。
ただ、もっといろんな好みのスタイルがあると思うので、今後Tシャツのシルエットのデザインは増やしていく必要があると思っています。
内山さん:
骨盤の広さが、男性として性を割り当てられた人と女性として性を割り当てられた人では全然違うので、ズボンに関しては本当にたくさんの方が悩んでいます。骨盤周りの太さに合わせてズボンを選ぶと着丈が長くなってしまうし、逆に着丈に合わせると骨盤が引っかかって履けない。
そこで、OPT apparelのズボン「RUCA」は、骨盤周りの太さと着丈のバランスを従来のメンズの規格とは違うバランスにしました。さらに、縫製を側面真っ直ぐではなく、斜めに縫って立体的な作りにすることで、直線的なシルエットが実現しました。
内山さん:
ズボン「RUCA」と合わせてセットアップで着用できる「RUCA-jacket」も肩幅を狭く、着丈を短くして、さらに身幅も体のシルエットを拾わないようにボックス型のシルエットにして、全体のバランスがよくなるように調整を重ねました。
ストレッチが効いているので普段使いもしやすいですし、ジャケットは裏地もついているので、オフィシャルな場でも使えるようにしました。
下山田さん:
今はサイズが2つしかないのですが、今後はより多くの人にフィットするように、丈の長さ(縦軸)と身幅(横軸)をそれぞれ選べる、今までにないサイズ展開をしていこうと考えています。
また、アンケートを見ていると、日常的に着る服が一番妥協している回数が多いことが分かってきたので、より普段使いしやすいアイテムも増やしていく予定です。
1人ではなくみんなで声を上げられるように
ーー第一弾のブランドのモデルさんとして、トランス男性の4人の方を起用されたと伺いました。
下山田さん:
今回の4人のモデルさんはたまたま全員トランス男性の方でしたが、今後もブランドの思いに共感してくださるクィアコミュニティの方々にモデルをお願いしたいと思っています。こちらからお声がけすることもありますが、公募の形もとっていて、実際に公募で新たに集まってくださった3人の方との撮影も進んでいます。
そのうちの一人は、「これまでファッション業界でノンバイナリーを表象する人を見たことがなく、『この人になりたい』って思える存在がいなかった。自分がその一人になりたい」と言って応募してくれました。
別の一人は、自身の体にコンプレックスがあって自己表現がうまくできず塞ぎ込んでしまう時期もあったそうなのですが、「OPTのように自分自身がどんな姿であってもいいと発信してくれるブランドが増えてきてエンパワーされてきた。今度はエンパワーする立場になりたい」とモデルを志望してくれたんです。
一人で声をあげるのは怖いかもしれないけれど、ブランドを通して、こういった当事者たちの思いやメッセージを一緒に発信していけたら、誰かの背中を押すきっかけになるんじゃないかと思っています。
ーー現在はオンライン販売が中心だと思いますが、OPT apparelの服を実際に着られる機会はあるのでしょうか?
下山田さん:
直近では、京都と東京でPOPUPを開催しました。9月にも東京で開催予定で、その場で試着して購入いただけます。また、今後は都市部だけでなく地方のPOPUPも増やしていきたいと考えています。
OPT apparelのアンケートでは店舗での購買体験についても聞いていて、「店員とのコミュニケーションが嫌いだ」「お店での買い物に、なんとなく不快感を抱く」と感じているコミュニティの方が多いことが分かってきています。
「ファッションが楽しいと感じる」かどうかは、こうした店舗でのコミュニケーションや体験が大きなポイントになると私たちは考えています。OPT apparelのセーフティで居心地の良い空間を、ぜひ直接体験しに遊びに来ていただけたら嬉しいです。
会場に来れない方でも、引き続きオンラインアンケートを募集していますので、ぜひ声を寄せてほしいです。当事者のみなさんの声を商品に反映させながら、一緒にコミュニティを成長させていけたらと思っています。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
ブランドを通して声を上げる。トランス男性、ノンバイナリーの人のためのファッションブランド「OPT apparel」が始動