※記事には映画『バービー』のネタバレが含まれます
アメリカで映画『バービー』が公開された後、SNSには「映画を見てパートナーとの関係を考え直した」と明かす女性たちの投稿があふれた。
ある女性は「バービーを見て、彼氏と別れた私はバカですか?」とRedditで尋ねた。
投稿によると、女性のボーイフレンドは映画を見た後、作品のフェミニストさに不満をぶちまけたという。
別の女性は、自身に無礼な態度をとり続けてきたパートナーと別れる勇気をもらったとTikTokで伝えた。
「『バービー』は私に力を与え、自信を持たせ、もっと良い扱いを受けるに値するんだと気づかせてくれました。ありがとう」
ダラス在住で27歳のテレサ・アルザテさんは、映画館での元彼の反応が、別れを決断するきっかけとなったとXに投稿した。
アルザテさんは「元彼は良い人ではあったものの、映画の前から問題を感じており『バービー』がふたりがどれほど異なる視点で世界を見ているかを浮き彫りにした」とハフポストUS版に語った
「私は映画に夢中になっていて、何度か『泣いてるの?』と尋ねられるまで、彼が映画をどう感じているかに気づきませんでした」
「映画を見た後に話し合いをして、ふたりの考え方が違うと認識しました。生きるのが大変なのはどのジェンダーかというテーマで、私たちは永遠に議論できると思います」
「バービーのおかげで、私は本当に共感しない場所や人と無理して関わり続けるのをやめ、自分が人生で望むものを見つけようと思うようになりました」
『バービー』はリトマス試験紙?
TikTokには「バービーどうだった?」というフレーズが相手を知るためのリトマス試験紙だ、という声も投稿されている(多くの男性たちが「テスト」に合格しているということにも触れておこう)。
「ファンガール」というプロフィール名のメーガン・ゴッサムさんは「もし、彼が『ケンは何も悪いことをしていないし、家父長制は良いんだ』と言うなら、別れた方がいい」とTikTokに投稿した動画で語った。
フロリダ出身で27歳のメラニー・バトラーさんも、映画を通じてパートナーがどんな人かを知るようTikTokで異性愛者の女性たちに勧めている。
「『バービー』は、他人だけでなく自分自身と共感することを教えてくれます。もしパートナーが映画の表面的な話だけではなく、何を感じたかを表現できるなら、それは自分の感情を認識し伝えられる人だということです」
作品に自分たちの経験が反映されていることに勇気づけられている女性も多い。
例えばアメリカ・フェレーラが演じるグロリアが「女性として生きるのがどれだけ大変か」について次のように語るモノローグ。
「痩せていなければいけないけれど、自分から痩せていると言っちゃダメ。『健康的』と言わなきゃならない。努力して成功しなければいけないけど、意地悪はだめ」――この言葉に頷いた女性は多いのではないだろうか。
噴出した『バービー』批判
とはいえ、誰もが『バービー』に好意的なわけではなく、作品を批判する男性も多い。Xには「2時間のウォーク(社会問題に対して高い意識を持つこと)祭り」「男性に対する核兵器級の怒りが満ちている」という意見も投稿された。
『バービー』批判者の中には、保守派コメンテーターのベン・シャピーロさんやピアーズ・モーガンさんらも含まれる。
シャピーロさんは、フェミニズムをふんだんに含むこの映画が男性と女性を分断すると主張。映画を「燃えるゴミ」で「ウォーク」と批判し、バービーを燃やす動画を投稿した。
ゴッサムさんは、このような反応が映画が「リトマス試験紙」だとTikTokに投稿するきっかけとなったと話す。
「たとえ映画の感想でも、こういったコメントは、その人がどういう人かを伝えていると思います」
「私は15年間の結婚生活から、こういった揺るぎない信念は、時間が経っても変わることも良くなることもないと知りました。付き合っている相手がどんな人間かを『バービー』を通して知ることができるのであれば、そこから学んだ方がいいと思います」
一方、男性が『バービー』で女性との関係を決める場合もあるようだ。
アリソン・パネッタさん最近、マッチングアプリで「『バービー』は経験で、『オッペンハイマー』はただの映画」とコメントしたところ、男性からマッチ解除された。
パネッタさんは「すべての男性が女性のパートナーと同じように『バービー』に興奮し、見たいと思う必要はないと思います。ただ、付き合っている人にとって重要で楽しんでいる映画を否定したり、不平を言ったりせずに一緒に見るくらいはできるべきじゃないかと思います」とハフポストUS版に語る。
「相手の好きな映画を見ることや、女性が興味を抱くものに激しくネガティブな反応を示すような相手は、赤信号だと思います」
カナダ・オンタリオ州の心理療法士ニコラス・バライシスさんは、『バービー』で描かれる男性像についてサイコロジー・トゥデイに寄稿した。
バライシスさんは、映画をリトマス試験紙にすることは勧めないものの、映画に対する男性の反応や彼らが抱く不快感は対話を始める良いきっかけになると考えている。
「彼らがなぜ不快感を抱いているのか、なぜ怒っているのかを深く掘り下げるのは興味深い」とハフポストUS版に語った。
「ジェンダーや恋愛感情について、誠実な対話をするきっかけになります。もしそのような対話を断固として拒否するなら、それは感情的に成熟しておらず、誰かと付き合う準備がまだできていないことを示す兆候かもしれません」
オハイオ州コロンバスのメンタルヘルスカウンセラー、アリー・フリドスタインさんも、すべての人がこの映画を同じように楽しむ必要はないものの、恋人や相手の感情に影響を与えるような話題をする時には、基本的な尊重と礼儀が求められると話す。
「『映画は好きではなかったけど、あなたが楽しんでくれて良かった』という発言と、『ゴミみたいなリベラル映画だから嫌いだ』という発言には雲泥の差があります」
フリドスタインさんや友人たちと一緒に映画を見たフリドスタインさんのパートナーは、作品を好きにはならなかったが否定はしなかったという。
「彼は、ケンの肩書きが実際の仕事ではなく『ビーチ』や『馬』であることが面白いと感じたそうです。同時に、多くの映画で、妻やガールフレンドが主人公に尽くす人物とだけしか描かれていないことにも気付いたと話してくれました」
「相手を尊重し、楽しみを台無しにしないようにするためにほめちぎる必要はありませんでした」
作品に描かれた、異性愛の関係で女性たちが直面するリアル
女性たちは、グレタ・ガーウィグ監督が作品の中で異性愛者の女性たちがデートや恋愛で経験する「リアル」を捉えているとも称賛している。
例えば、新しく付き合い始めた彼が『ゴッドファーザー』3部作を見て解説する場面、ほとんど大切にされない遠距離のガールフレンドを続けること、バービーランドに家父長制を持ち込んだケンのバービーへのプロポーズ……。
マーゴット・ロビーが演じるバービーが、すぐに謝罪する描写もそうだ。
テネシー州に住む25歳のジェシカさんは、バービーがケンに家と権威を奪われた後も、彼の気持ちに応えられていないことを謝罪しようとする場面に共感したという。
ジェシカさんは離婚した時、「自分は結婚生活を続けられなかった」と何度も謝罪したという。一緒に過ごした6年間のうちのほとんどで夫が浮気をしていたことを知った後も、その姿勢は変わらなかった。
「彼に『私のこと怒ってる?』とまで尋ねました」とハフポストUS版に語った。
「女性たちがパートナーに最悪の方法で傷つけられた後も謝罪し、共感し、反省しようとしていることに驚きました。それが映画に描かれていて嬉しいです」
『バービー』は男性批判ではない
『バービー』の主人公はバービーだが、これはケンが自分の生き方を探究する作品でもある。
映画の冒頭では「毎日素晴らしい一日を過ごすバービー。ケンは、バービーが彼を見てくれる時だけ、素晴らしい一日を過ごせる」というヘレン・ミレンのナレーションが流れる。
その言葉が伝えるのは、ケンが自分の人生とアイデンティティーをバービーを中心に築いてきたということだ。
ある人物は、映画を見て自分もケンのように彼女に依存していることに気づき、別れる決断をしたとRedditに書き込んだ。
「信じてもらえるかわかりませんが、このことに気付いて動揺しました」「自分が彼女の居心地の良さや支えに甘えているうちに問題が増えているということがわからなくなっていました」
他にも、男性にとって重要なテーマが描かれている。多くの人たちが指摘しているように、バービーランドに持ち込まれた家父長制と有害な男性らしさは、女性と同じくらい男性にも悪影響を与えている。
ケンは、「強くて無口」だけが感情表現ではないと気づくために、家父長制を経験せねばならなかった。それでも最終的に自分の価値は地位やお金ではなく、どういう人間かだということを学んだ。
サイコロジー・トゥデイに『バービー』について書いたバライシス氏は「私はこの映画は男性を批判するものではなく、むしろ最終的に男性と男性の課題にとても共感していると思います」と述べた。
ほとんどの男性は、女性と同じように他者への愛やつながり、安心感、承認といった愛着を得たいと考える傾向がある。
自身も男性であるバライシス氏は「作品は、こういった人間として当然のニーズを求める時に、男性は誤ったコミュニケーションをしがちだと示しています。それは、男性が自分のニーズを認識する方法が社会の中で示されていない、もしくは女性と誠実にコミュニケーションをとることができないからです」と述べる。
それがうまくいかない時、恥や怒り、そしてガーウィグ監督が映画で示したような、ハイパーマスキュリンな攻撃や支配、男性専用の場所でビールを飲んで過ごすといった典型的な行動につながってしまう、という。
「男性たちも、男性専用部屋にずっと閉じこもるよりは、親密なロマンチック関係を築きたいと思うでしょう。しかし人間関係はリスクを伴い、誠実さが必要で、傷つくこともあります」
『バービー』見て彼氏と別れた一人であるアルザテさんも、作品は男性嫌悪ではないと考えている。
「映画は、一部の人が恋愛感情や恋愛関係から離れることを後押ししていますが、それは憎しみや敵意からくるものではないと思います」
「映画は私たちに、社会が押し付けた役割以上の存在になれるということを教えてくれています」
「私たちにはいろいろな夢があると思います。親や配偶者、宇宙飛行士、大統領、または『ただのビーチ』になりたいという夢。それはあなたを待っています。一緒に映画を見に行こうと誘った相手と一緒であろうとなかろうと、夢を追いかけることができるのです」
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
映画『バービー』を見た後、恋人と別れる人が続出。「私に力を与えてくれた」