ビジネスや経済において、「リスキリング」という言葉を聞くことが増えた。
企業やビジネスパーソンからの注目に加え、国からの援助も手厚いリスキリング。しかし、従来の生涯教育(仕事のためのスキルアップや資格取得)とリスキリングにはどのような違いがあるのだろうか。また、その具体的なメリットは何だろうか。
今回、パーソルイノベーション(株)の展開するサービス『学びのコーチ』で、事業責任者を務める柿内秀賢さんに話を聞いた。同社が全国660人のビジネスパーソンを対象に実施したアンケートの調査結果と共に、リスキリングをひもといていく。
リスキリングの中心は「トップダウン(経営主導)型」
柿内さんは、リスキリングのキーポイントは「経営主導のニーズが出発点」だと語る。
テクノロジーによって多くの雇用が失われ、一方で新たな職が多く創出される現代。リスキリングにより企業の人材の専門性を高めることで、変化する市場ニーズに対応できる状態を目指せるという。
調査では「直近1年の間で、従業員のリスキリングに関する取り組みを行いましたか?」という質問に39.1%が「実施した」と回答(大企業が60.5%、中小/スタートアップ企業が28%)。取り組みの内訳は「トップダウン(経営主導)型」が80.2%と大きな割合を占め、企業側が精力的に取り組んでいるということがわかった。
リスキリングに注力しているのは企業だけではない。2022年には、人材育成にかかる費用を国が一部負担する助成金「事業展開等リスキリング支援コース」が新設された。また、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」においても、「人への投資」の抜本強化と成長分野への移動労働が明記されている。
特に注力されている分野は?昇給には繋がる?
リスキリング実施者の企業において「どのスキルを取得することを重視していますか?」という質問への回答は、1位が 「ITプロジェクトマネジメント(42.3%)」、2位は「データ活用(38.7%)」、3位が「クラウド活用」(35.1%)という結果になった。DXやITスキルの習得に重きを置いていることが伺える。
また、リスキリングの取り組みの対象となる人材の多くは、ITや人材育成領域、経営の中枢部門に集中しているようだ。同調査の「リスキリングの取り組みの対象となる方は、主にどのような部門に所属していますか?」という質問に対し、1位が「情報システム、ITシステム」(43.1%)、続いて「人事」(40.3%)、「経営企画」(38.3%)の3部門が大きな割合を占めた。
リスキリングと昇給が密接な関係にあることも、調査で明らかになった。
調査では「リスキリング後の昇給を行っていますか?」という質問に対し、「実施している」が33.1%と、3分の1の企業がすでに昇給を実施していることが分かった。また「未実施だが検討中」との回答も37.5%に上り、合計で7割以上の企業が、リスキリング後の昇給について実施または前向きな姿勢を示している。
リスキリングは「業務」。働き方や生涯教育の話ではない
柿内さんは「人材不足で即戦力採用が争奪戦になっている今、外部から人材を確保するよりも、すでに企業に勤めている人材のリスキリングに注力した方がメリットが大きい」と語る。
また、日本におけるリスキリングの現在地と未来について、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明さんの言葉を引用して以下のように説明した。
「リスキリングとは単なる『働き方』や『生涯教育』の話ではなく、『(企業が取り組むべき)業務』であることを認識しましょう」「リスキリングとは『学びと実践』ですが、『学ぶ』ということが苦手な人もいます。サポートする仕組みが必要なのです」
企業の未来を考える上で、欠かせないリスキリング。今後もより重要なキーワードになっていきそうだ。
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