ジェンダーギャップ指数116位、国会議員の女性の割合は15.5%――。
ジェンダーバランスや多様性で、遅れをとっている日本。しかし多様性は、ビジネスでも成功の鍵と見られるようになっている。
オンライン旅行会社エクスペディア・グループは多様性とインクルージョンを重視した組織づくりをしており、経営陣の半数が女性だ。
その一人でグローバルB2Bビジネス部門のプレジデントであるアリアン・ゴリン氏は「多様性に富むことが、会社をより成功させてくれる」と話す。
多様性はどのように組織や社会を良いものにするのか、ゴリン氏に聞いた。
――チームとして成功を収める上で、女性リーダーがいることや組織に多様性があることは大事だと思いますか?
とてもそう思います。多様性のあるチームや会社はよりよい成果を残すというマッキンゼーの調査がありますが、自分の経験からも同じように感じています。
多様性は単なる口先のスローガンではありません。優れたビジネス上の決断です。
私のチームの女性と男性の割合はそれぞれ50%ですが、ジェンダーだけでなく、働く場所や出身地も多様です。
アメリカやスペインなど世界中に住んでいるため、彼らを通して様々な国の視点を知ることができます。
働き手に多様性が欠けていれば、多様な顧客が求めているプロダクトやサービスを提供するのは難しいでしょう。
そういった意味でも、様々な視点を持つ人たちがチームにいるのはとても大事だと思います。
――従業員だけではなく、リーダーレベルでのジェンダー平等も重視していますか?
ジェンダーの多様性は、私たちの会社の最優先事項の一つです。
2022年時点で従業員のほぼ半数が女性で、ジェンダー比率を50/50にするという目標まであと数ポイントです。
また、管理職の割合は5人に2人が女性、経営陣6人のうち3人が女性です。
ただ、ジェンダーバランス以外の多様性にも力を入れなければいけないと感じており、2021年末に、アメリカ本社以外の従業員の25%を黒人やラテンアメリカ系といったマイノリティの人種や民族の人々にすると発表しました。
同時に、多様な人たちが働きやすい環境を作ることも重要です。
そのための取り組みとして、インクルージョン・ビジネス・グループ(IBGs:Inclusion Business Groups)があります。
IBGsとは、多様性とインクルージョンを促進させるための社員主導のコミュニティです。アジア系やラテンアメリカ系、LGBTQIA+、障がいのある人たちなど、複数のコミュニティがあり、それぞれが抱える問題などについて考えます。
各IGBsに祝賀月間があり、ゲストスピーカーを呼んでトークイベントを開いたり、代表メンバーが全社員に体験を語ったりする機会を設けています。
世界中の社員が参加でき、このコミュニティで出された課題や提案が、会社の方針を定めたり制度を作ったりする上で非常に重要です。
例えば女性をテーマにしたIBGsからは、産休や更年期、女性たちが世界で直面している問題が提起されました。
IBGsは数年前からあったのですが、以前はあまりうまく機能しておらず、約2年前に、どうすればもっと良いシステムになるかを皆で話し合いました。
この時、それまで勤務時間外に行われていたIBGsを仕事の一部とし、業務時間の10%を割り当てることにしました。
多様性を重視する時には、人々が自分たちの声にきちんと耳を傾けられていると感じ、決定のプロセスに参加できる環境を作ることも重要です。
IBGsのような取り組みは「多様性とインクルージョンを重視する」という会社の姿勢に基づいており、「旅行は世の中のためになる力であり、異なる国々や文化、生き方を知るのに役立つ」という価値観とも結びついています。
――こういった取り組みは、社内だけではなく、社会に良い影響をもたらすことを意図したものなのでしょうか?
私たちは営利企業ですから、良い業績を残し株主に対する責任を果たす必要があります。
その一方で、社会貢献も重要な企業の責任の一つです。
会社ができる社会貢献の一つに、雇用機会の創出があります。雇用を通して人々や家族を支え、子どもたちが教育を受けられれば、次の世代にも良い影響をもたらすことができます。
また、多様な背景を持つ人たちを採用することで、様々な人たちが収入を得る機会が生まれ、社会に良い影響を与えられると思います。
こういった効果は、従業員に限ったことだけではなく、旅行業界にも波及すると考えています。
旅行は(コロナ前に)世界のGDPの10%を占めており、雇用を生み出します。
私たちは今まで旅行者がこなかったような小さな街にも人々が訪れるよう旅行ビジネスを援助することで、そこに暮らす人たちの仕事の機会を創出できます。
――日本はジェンダーギャップ指数116位です。ジェンダー平等が達成されていないことには、ネガティブな影響があると思いますか?
社会全体と職場や管理職のジェンダー構成に大きな格差あるということは、一部の人が、本来可能であるはずの貢献をできていないことを示しています。
これは世界中の多くの国々に当てはまることで、それを変えるには、政府や企業レベルでの取り組みが必要だと思います。
より多くの機会を生み出し、経済が成長すれば、国にとっても利益となります。つまり、男女参画の格差が大きいことは、経済成長の機会損失だとも言えます。
ただ、世界中の多くの場所で、女性の方が育児や家事の責任が重く、パートタイムでなければ働けない人たちもいます。また、女性の昇進を阻む社会的なプレッシャーが存在する場合もあります。
しかし、バランスのとれた職場環境は良い成果を生み、すべての人の成長を可能にします。
答えは一つではありませんが、変化をもたらすためには、政府と企業の連携が必要だと思います。
また、ロールモデルを持つことも非常に重要で、私自身はその面でとても恵まれました。
これまで働いてきた3つの会社には、いずれも女性の共同設立者や上司がいて、私のキャリアに良い影響を与えるロールモデルとなってくれました。
社会に出たばかりの時にお手本にできる人がいるのは重要だと思います。
――良いリーダーであるために、どんなことを大切にしていますか?
私は、最高のパフォーマンスを発揮するために自分を大切にすることが大事だと考えています。
そのために、8時間の睡眠や十分な水分をとることに加えて、家族と過ごすなど、仕事から離れた時間をきちんと取るようにしています。
もう一つ、仕事とプライベートで変わらぬ自分でいることも大切にしています。
数年前、テキサス州に住む姉ががんと診断されました。私はロンドンに住んでいて、7週間に1週、姉の元へ行き看護をする必要がありました。もしできないのであれば仕事を辞めようと思っていました。
しかしエクスペディアは、仕事をしながら介護ができるよう支援してくれました。
私たちは会社として「良い職場であるためには、働く人たちが良い親や姉妹、子どもでいられるべきだ」と考えています。
管理職の私が自分らしい生き方を選択をすることでも、ロールモデルになれるのではないかと思います。
――会社が多様な生き方をサポートするのが重要、ということでしょうか?
その通りです。人々は本当の自分、ありのままの自分でいる時に最高の成果を発揮できると思います。
だからこそ、私たちは会社として、そういった働き方ができるようサポートすることが大切です。
それによって、仕事を頑張ろうという気持ちも高まります。それが良い業績につながり、誇りを持って働ける会社を作ると信じています。
◆
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
経営陣の半数が女性。多様性がエクスペディアの「優れたビジネス上の決断」である理由