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「学生はハラスメントの被害を受けても声を上げられず、大学に安心できる場所がなくて苦しんでいる」(署名を提出した東京藝術大学大学院の院生)
「志を持って大学院に入ったのに、ハラスメントのせいでどうしようもない状態に置かれている被害者も少なくない。そういった人々を見過ごす大学であってはいけない」(早稲田大学大学院の研究生、辻悠佑さん)
大学で起きるセクハラやパワハラなどのハラスメント全般(キャンパス・ハラスメント)を「実効的に根絶したい」と集まった大学生や若手教員でつくる団体が3月27日、文部科学省に対策を求める要望書と2万3794筆の署名を提出した。
同省への要望として、学生が受けたハラスメント被害の実態調査を実施して結果を公開することや、ハラスメントへの対応についての基準を策定し、大学の認証評価などに反映することなどを盛り込んだ。
同日、学生らは文科省の伊藤孝江政務官に要望書や署名を手渡した。伊藤氏は「しっかり受け止める。ハラスメント被害の実態を認識することは難しい課題だが、絶対に必要な方向性だ」と述べた。
井出庸生副大臣も学生らと面会。井出氏は記者団の取材に「大学はセクハラやパワハラの防止について空白の部分になっている」とした上で、「学生や研究者が研究しやすい環境をつくることは、文科省にとって重要な課題。このまま何もせず放置というわけにはいかない」と述べた。
署名を集めたのは、「キャンパス・ハラスメントと差別に反対する横断ネットワーク Equal on Campus Japan」。団体は、学生や研究者が受けたハラスメントの可能性のある事例として、▽大学教員から不当な拘束時間や仕事量を課される▽不要な暴言を聞かされ、精神的苦痛を被る▽別の研究室へ強制的に異動させられる▽異性の教員から身体に触られるーーなどを把握しているという。
広島市立大学大学院の院生、山下栞さん(25)は3月27日に東京都内で開いた記者会見で、「これまで友人から、ハラスメント被害の相談を数え切れないくらい受けてきた」と振り返った。その上で、「学生側から大学に対して、個別のハラスメント問題に対応するよう要望を出しても『検討します』との回答しか返ってこない場合もある」と説明。
「個々の大学はハラスメント問題に適切に対処していない可能性が高いにもかかわらず、大学の管轄組織である文科省の対策は極めて手薄」と指摘し、文科省による対策の必要性を訴えた。
学生らが主張するように、ハラスメントへの対応や実態把握が不十分な大学は少なくない。
日本学術会議が2019年、大学教員や博士課程の院生らを対象に実施した調査によると、回答した約8600人のうち、男性の3割、女性の6割が「ハラスメントの被害経験がある」と答えた。一方で、ハラスメントの被害を受けた人のうち、ハラスメント相談窓口を利用した人は男性で12%、女性で16%だった。
同会議による大学向けの調査では、ハラスメントの実態把握のためにアンケート調査を実施している大学は10.4%にとどまることが明らかになった。
早稲田大学大学院の研究生、辻悠佑さん(31)は「(大学が設ける)相談窓口が信頼されていない可能性がある」と分析。「文科省は大学がハラスメントの実効的な対策を取るように、通知を大学に発出する以上の取り組みに乗り出してほしい」と訴えた。
団体の要望書の内容に賛同する上智大学の稲葉菜々子教授(国際社会学)は「セクハラなどだけでなく、(人種や国籍にかんする差別である)レイシャル・ハラスメントもあわせて、複合的な形でキャンパス・ハラスメントが起きている。早急な対応が必要だ」と述べている。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim / ハフポスト日本版〉
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「ハラスメント被害で大学に安心できる場所がない」文科省に実態調査求め、学生らが署名2万3千筆提出