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なぜ「眠れない」?対処法は?睡眠不足と不眠症の違いは?睡眠医療の専門医に聞いた

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【※この記事は2022年3月18日に配信した内容を再編集したものです】

 先進国では成人の3分の1の人に不眠の症状があると言われています。 

果たして良い睡眠とはどんな睡眠なのか、私たちはわからないまま、薬を飲んだり「寝酒」をしたりアプリを使ったりしてしまっているかもしれません。

「寝つけない」「眠りが浅い」「早く目覚めてしまう」といった不眠の症状には、どんな原因があるのでしょうか。また、私たちにはどんな対処ができるのでしょうか。

睡眠医療の第一人者として知られる、秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授の三島和夫さんに聞きました。  

成人の3分の1が「寝つきが悪い」

━━睡眠のトラブルにはどんなものがありますか?

大きく分けると、病気としての睡眠障害と、睡眠習慣の問題があります。

病気としての睡眠障害は、今では睡眠・覚醒障害と呼ばれています。WHO(世界保健機関)が定める診断分類基準のICDー11では新たに独立して睡眠覚醒障害に関する章が作られ、およそ80種類の疾患が掲載されています。よく知られているのは、不眠症や睡眠時無呼吸症候群ですね。ちょっと変わったところでは、むずむず脚症候群、子ども・若い世代に多い夢遊病なども含まれます。

不眠症をはじめ、様々な睡眠・覚醒障害には「寝つきが悪い」「途中で目が覚めてしまう」「早朝に目が覚めてしまう」といった症状が見られますが、そうした症状がある方は、先進国だと成人の3分の1くらいいるんです。

一方、睡眠習慣の問題というのは、睡眠不足や夜勤など生活習慣によって生じる睡眠問題のことです。

日本人は睡眠不足が多く、今OECD(経済協力開発機構)加盟国で最も睡眠時間が短いと言われています。夜型生活で寝る時間は遅くなっているにもかかわらず、出勤時間や登校時間は変わらないからですね。

「ショートスリーパー」と呼ばれる人はきわめて稀で、30年以上睡眠研究をやってきた中で私が本物だなと感じた方は2人ぐらいしかいません。その方々は、3時間半くらいの睡眠時間で認知機能、神経系の機能が全く障害されない。これは、必要睡眠時間が生来的に短い人で、あとから獲得できる能力ではないんです。

加えて、交代勤務の問題もあります。今、労働者の5人に1人が夜勤など交代勤務についていて、夜勤明けに帰ってきても眠れないこともあります。もちろん、程度がひどいと病気として扱うこともありますけれども、ある意味では現代社会では止むを得ない部分もあります。

さらに、コロナ禍によって経済的な問題が生じたり、感染への不安で不眠傾向が強まったりして睡眠に問題が生じている人もいます。

一方で、テレワークが普及したことで通勤時間が大幅に短縮され、特に20代30代の働く若い世代の中にはコロナ禍で睡眠時間が増えたという調査もあります。つまり、ポジティブな面もあって、睡眠に関する問題はちょっと複雑なんです。

不眠症は「眠れない病気」ではない?

━━睡眠の問題にはさまざまな要因が考えられるとすると、その原因を個人が特定するのは難しそうです。では、不眠症と診断される基準はどのようなものなのでしょうか?

不眠症状があることに加え、日中に体調不良などの困りごとがあるかどうかです。 

不眠症とは、眠れない病気ではなくて、眠れないことを苦にする病気と言われています。つまり、同じような睡眠状態でも全然問題なく生活している人もいれば、1回しか目覚めないのに大きな苦痛に感じる人もいますよね。そういう意味では、目覚めの回数や睡眠の長さと不眠の苦痛度は、必ずしも一致するとは限りません。

だから、日中にある程度自分がやるべきことをやれていれば、「もうちょっと眠れたらいいな」と思っていたとしても、問題ないと言えます。大事なのはたくさん寝ることではなくて、日中に何とかやれていることだからです。つまり、日中健康に過ごせることが、治療のエンドポイント(目標)なんです。

夜眠れなくなり、日中に眠気や倦怠感、痛みといった体調不良を感じるようなら、不眠症の疑いが出てきます。

不眠症状が続く期間の長さも重要です。今の基準では、週3日以上夜中の不眠症状があり、その翌日に眠気やだるさなどの体調不良がある場合には、不眠症があると診断します。それが3カ月以上続いたら慢性不眠症と診断をして、治療が必要だと判断することになっています。

短期の不眠症は、実はほとんどの人が一生の間に経験しているんです。アトピー性皮膚炎で不眠がある、うつ病になった、震災で非常に強度のストレスを受けた、などですね。短期ならいいのですが、悪条件が重なって3カ月続いてしまう場合は医療による対処が必要です(※1)。

最近カナダで発表された大規模な疫学調査の結果によれば、不眠症が1カ月以上続いた場合、1年後も約90%の人は不眠症が続いていて、5年後も60%の人が続いていました。つまり、一度慢性的な不眠症になってしまうと簡単には自然に治らない。そういう病気なので、皆さん長期間苦しんでしまうんですね。

1…2022年現在の慢性不眠症の基準は「3カ月以上」(2014年以前は「1カ月以上」)ですが、ご本人の苦痛が強ければ3カ月未満でも治療することがあります。

━━お酒や市販の睡眠薬で対処している方も多いと思います。それらとはどのように付き合っていくのがよいでしょうか?

夜中に目が覚めてしまい、寝付けなくて苦しいときに、いわゆる寝酒をしたり市販の睡眠薬を飲んだりする人はいます。お酒に関して言えば、確かに寝つきはある程度良くなりますが、それを毎日続けていると深い睡眠が減ってしまいます。

また、お酒は90分ほどで半分ずつ体から抜けていくんですね。だから、お酒を飲む人はよくわかっていますが、お酒を飲んで寝付いても、明け方に向けてお酒が抜けていくので、早く目覚めてしまう。

市販の睡眠薬は種々ありますが、例えば代表的なドリエルは抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミンの副作用(眠気)を利用したものです。ジフェンヒドラミンの一番の問題は翌日の日中まで脳内に留まり、認知機能を妨げることです。また、「不眠症」での効果が確認されていません。旅先で寝つきの悪いときに使うなど、あくまでも一時的な使用に限るべきだとされています。

「不眠の症状があること」=「不眠症」ではない 

━━それでは、不眠症状にはどのように対処することができますか?

大切なのは、「不眠の症状があること」=「不眠症」ではない、ということです。なぜなら、不眠症状はほとんどの睡眠・覚醒障害、さらに睡眠習慣の問題でも見られるからです。

そのため、まずは診断が重要で、基礎疾患がある場合にはかかりつけの医療機関に相談した方がいいと思います。例えば高血圧や糖尿病のような生活習慣病がある場合には、不眠自体が血圧や血糖のコントロールにとても悪いからです。

不眠症の重症度や治療の要否は外来で何か検査をしてすぐにわかるものでもなく、自覚症状を元に判断します。寝つきの悪さや中途覚醒など不眠症状のタイプや、不眠による日中の体調不良について主治医にしっかり伝えるべきだと思います。

また、睡眠薬などを使った薬物療法の前に、自分で対処できることがあります。2週間程度、自身の睡眠の記録を取ってみてください。インターネットで「睡眠表」「睡眠日誌」と検索すればいろんな記録シートが出てきます。

そこに、自分の感覚で構わないので「消灯した時刻」「寝つきまでにかかった時間」「目覚めた回数」「目覚めたとしたらその合計時間」「そして最後に目が覚めた時刻」を書きます。朝起きて、それらを記録するのには、1分もかかりません。

日中の体調については、眠気を5段階で記録していきます。オフの日も含めて2週間ぐらい記録を取ってみると、不眠と体調の関連、勤務シフトによる状態の違い、平日と週末との違いが見えてきます。要するに、睡眠はリトマス試験紙のように明確に「その不調の原因は睡眠です」とは言えないのです。本人のそれまでのライフスタイルや、日々の観察から判断するしかないんですね。

それでも専門医に聞いてみたいときには、日本睡眠学会のホームページに、睡眠医療の専門医や専門医療機関のリストがあるので、受診してみてください。ただ、大都市圏が多いので、お近くにない場合には精神科、心療内科、神経内科に相談してみてください。

━━近年では、スマートウォッチなどで睡眠の状況を計測することもできます。これはどのように活かせますか?

スマートウォッチなどのデバイスは、信頼性の評価をしなければならないので一概には言えません。また、一番の問題は睡眠をどういうアルゴリズムで評価しているのかオープンにしていない点です。突然アルゴリズムを変える会社もあります。

ただ、少なくともベッドの上に置いて使うタイプではなく、体に装着して、心拍、呼吸など体のいくつかの機能を同時測定しながら睡眠を評価するデバイスが望ましいです。デバイスを使うときのポイントは、点数を気にしないことです。点数や睡眠スコアではなく、睡眠の変化と毎日の体調との関連が大切です。 

よい眠りのために大切なこと

━━最後に、睡眠において大切なことを教えてください。

近年の研究で、不眠症で悩んでいる方は不思議なことにベッドタイム(入眠のため布団に入っている時間)が長くなっていくことが知られています。ベッドタイムを長くすることで、中途覚醒が増えて、不眠恐怖が強くなり、不眠症状が悪化します。つまり、効率の悪い寝方になってしまうんですね。

不眠治療には3つの原則があります。「早寝しない」「長寝しない」「昼寝しない」です。

まず不眠のある人が絶対やってはいけないのは、早い時間帯に寝落ちしてしまうことです。疲労感があって、たとえば22時に1回寝落ちするんだけど、朝6時まで8時間あると、中途覚醒してしまい、絶対それ以上よく眠れることはないんですね。また、40分〜1時間ぐらい昼寝をすると深い睡眠になってしまい、その分夜中の2、3時間分の良い睡眠が吹っ飛んでしまいます。

ギュッと効率よく、ずっと寝続けようと思ったら、ベッドタイムを7時間かそれ以下ぐらいに圧縮する必要があるんですね。60歳代以降にもなると、実質的な睡眠時間はせいぜい6時間半程度です。

日中の活動が問題なくできているかどうかをポイントにして確認し、睡眠に問題があれば、医療機関にかかってください。 

(取材・文:遠藤光太  編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)

プロフィール

三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授。医学博士。秋田大学医学部を卒業後、同大学医学部精神科学講座助教授、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。専門は精神医学、睡眠医学、時間生物学。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事。

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