「女子サッカーをしている人は、“諦めてる”って感覚すらないくらい、男女不平等が“当たり前”になってしまっているんじゃないでしょうか」
女子サッカー選手で、あらゆる性の人のためのアンダーウェアブランド「OPT」を手がける株式会社「Rebolt(レボルト)」の共同代表の下山田志帆さんは、選手自身が声を上げられない現状に、そう警鐘を鳴らします。
下山田さん率いるOPTと一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」が共同で、サッカー界のジェンダー不平等を可視化するプロジェクトを始動。女子サッカー選手、女子サッカー経験者・女子サッカー関係者を対象に、アンケートを実施しました。
アンケートに寄せられた約300人の声から見えてきた、サッカー界のジェンダー不平等の現状とは?「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さんと下山田さんの対談を通してお伝えします。
ーーなぜ今回、OPTとNO YOUTH NO JAPANでジェンダー不平等を可視化するプロジェクトを実施しようと思ったんですか?
下山田さん:
私は小学校3年生でサッカーを始めてから約20年が経ちますが、小学校からプロとしてプレーするまで、それぞれの段階で男女不平等だなと感じる経験をしてきました。
プロの世界では、男女の賃金格差が大きな問題ですし、友達の間でも「サッカーは男子のもの」という感覚がすごく強くて、「なんで女子なのにサッカーやるの?」って言われることも多かった。「女性だから、思ったように好きにサッカーできないな」っていう感覚は、本当に始めた時から今に至るまで続いているなと思います。
能條さん:
私は2年前に、当時東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長だった森喜朗氏の女性蔑視発言の再発防止を求める署名活動を行いました。その時、やっぱりスポーツ選手の人たちからも声を上げてもらったほうがいいのではと思い、できる範囲で声をかけたのですが、「上によく思われないから、声を上げられない」という反応がほとんどでした。
選手自身が男女不平等に対して声を上げることのタブーさというか、選手は女子でも運営は男社会みたいな状況を垣間見たように感じました。きっとサッカー界でも同じようなことが起きているのではないかと。
下山田さん:
おっしゃる通り、クラブや協会の上層部には男性が多くて、私たち選手の声が届きにくい環境や、「慎みなさい」というような風潮があると感じています。
それが私たちの中に染み込んでしまっているからこそ、「何を言っても仕方がないという気持ち」というか…なんて言えばいいんだろう。そもそも言おうとすら思えないというか、諦めてるって感覚すらないぐらい、男女不平等な状況が“当たり前”になってしまっていて。
この感覚って、果たして私や私が知っている人たち以外も同じなんだろうか?と思ったんです。選手やサッカーに関わってきた人が、男女不平等についてどう捉えているのか、ちゃんとアンケートで可視化したいと思いました。
能條さん:
今年はFIFA女子ワールドカップが開催されます。2022年の男子W杯はだいぶ盛り上がったのに対して、女子W杯への盛り上がりの準備に向けて、社会としてメディアや企業や、他の資源が動いているかというと、そうでもないのかなと。
多分それって、女子サッカー選手たち個人の問題ではなく、それ以上に大きな構造の問題だなという課題意識があります。せっかくW杯のタイミングなので、多くの人がスポーツを入り口に男女平等について考えるきっかけになればと本プロジェクトを始めました。
ーーアンケートでは、現役・過去プロサッカー選手、現役・過去アマチュアサッカー選手から、中学、高校、大学の現役・過去学生プレイヤー、指導者、保護者まで、300件を超える回答が集まったそうですね。実際にアンケートを実施してみていかがでしたか?
下山田さん:
やっぱり一番印象的だったのは、「サッカーに関わる中で、男女不平等を感じた経験はありますか?」という質問に「ある」と回答した人が、全体で72%もいたことです。
具体的には、「女子がサッカーをすることに対してのネガティブな発言」が26.6%、「練習場所がないなど競技する機会がない・少ない」が22.5%、「給与や大会入賞時の賞金などの金額の差」が21.6%など、様々な場面で男女不平等を感じていたことが分かりました。
下山田さん:
自由記述で特に印象的だったのは、「現役中に“男女不平等”に気づかないまま引退しました。アンケートに答えて初めて『これって男女不平等だったんだ』と気づきました」というコメントです。
多分、それぞれサッカーをする中で経験した男女不平等を、こうやって言葉にした経験がなかった人が多かったんじゃないかと思いました。
能條さん:
きっと総論的に「男女平等の問題意識はありますか?」って聞かれたら、「いやそんなないです、楽しくやってました」って答える人も多いと思うんです。でも、今まで女子がサッカーをすることに対して言われてきたネガティブなこととか、女子はグラウンドを早朝しか使えないとか、個別に見たら思い当たる節があったんだろうなと。
下山田さん:
私自身アンケートをみて気付かされた男女不平等のエピソードの一つが、「握手してもらえない」ことです。
小学校、中学校で男女混合チームの時、試合前に選手同士が握手をするシーンで、女子だけは絶対に握手してもらえないんです。男子のチームメイトから「お前また握手してもらえなかったな」ってからかわれた記憶が蘇ってきました。思い返せば、周りの大人も誰も怒ってくれなかったな。
下山田さん:
アンケートでは「男女不平等を感じた際に、仕方がない・解決できないと感じた」と回答したのは63.2%という重い結果でした。
例えば男子サッカー部は芝のグラウンドが使えて、女子はでこぼこした土のグラウンドしか使えない。なぜならそれが“伝統”だから。歴史だから「仕方ない」と感じてしまったそうです。
その昔誰かが決めた“伝統”を、なぜ今の選手たちが「不平等」という形で受けなきゃいけないんだろうって思う一方で、「伝統」とか「歴史」とか言われると、「仕方がないのかな」と思ってしまう感覚もすごく分かるなって…
能條さん:
ちょうど同じようなことを、社会学者の上野千鶴子さんが東大の祝辞で「アスピレーションのクーリングダウン(意欲の冷却効果)」という言葉で説明していました。結局仕方ないと思わされてしまっている。
男子がサッカーやるってなったら、「プロサッカー選手目指して頑張れ!」って親や先生が応援してくれるかもしれないけれど、サッカーをやる女子に同じ熱量をかけてくれる大人ってどれくらいいるんだろうって、アンケートを見て感じました。
ーーアンケートの結果を受けて、今後必要だと思うことや考えていきたいところなどを教えてください。
下山田さん:
海外を見れば、スペインやイギリス、アメリカなどで、女子サッカーをプロとしてもっと興行化するための動きが、選手や審判など当事者起点でそれぞれで起きています。日本でも、当事者が声を上げられるようにしていきたい。
そのためにもまずは男女不平等を「仕方ない」と思っている人を、このプロジェクトを通じて少しでも減らしていきたいですね。「自分の身の回りで起きていることを、間違ってるって言っていいんだ」と気づくことや、何が不平等で、なぜそれが間違っているのかをちゃんと言葉にできるようになることが大事だなと思っています。
能條さん:
日本では、何か違いを作るためのアクションを、大多数がどう思っているか分からない中で声を上げるのには相当勇気がいるし、できる人もできない人もいる。
だからこそ仲間を作り、求めている考えを持っていくべきところに持っていき、届かなかったらまた仲間を増やしたり世論を味方につけていく。今回アンケートに答えてくれた人たちの言葉を、女子サッカーはもちろん、他のスポーツや部活動などどんどん横に繋げていって、大きな声にしていきたいですね。
そのためのワークショップやイベントなどきっかけづくりをまずはして行けたらと思います。
下山田さん:
能條さんのこれまでの社会運動の経験や知見は、スポーツ界にめっちゃ必要だと思います。
私自身、能條さんから「アスリート個人が悪いのではなく、そもそも構造の問題じゃないですか」って言われて、新たな視点を手に入れた感覚がありました。そもそもなんでみんなが声を上げられない現状があるんだろうということを、みんなで考える必要があるんだなと気づいたんです。
スポーツ界ってやっぱり、組織の中で厄介者になることや、何か反対意見を述べることってすごくハードルが高いんですよね。状況や制度や風潮を変えたいと思っても、みんなで力を合わせようという動きが生まれづらい。
選手たちもやりたくないわけじゃなくて、私と同じようにやり方がわからないんだと思うんです。これからのアクションで小さな成功体験を積み重ねていって、一つのロールモデルになれば嬉しいです。
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「“諦めてる”って感覚すらない」サッカー界の男女不平等、現役選手が募ったアンケートで如実に