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2022年12月19日(現地時間)にカナダ・モントリオールで閉幕した、生物多様性条約について話し合う国連会議「COP15」。中国が議長を務め、2030年までの世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が採択されました。
COP15に現地参加していたWWFジャパン自然保護室 生物多様性グループ長の松田英美子さんは、「まずは世界目標が時間内に無事採択されたことは大きな成果です」としつつも、良い点も悪い点もある内容になったと指摘します。
世界経済フォーラムが発表したグローバルリスクレポート2023によると、生物多様性の損失は気候変動に並び「次の10年のリスク」TOP4にランクイン。世界で待ったなしの危機だと認識されています。
これからの10年の鍵を握る「生物多様性の損失」、押さえておきたいポイントとは?
<記事のポイント>
・生物多様性「世界の新目標」のポイントとは?
①「ネイチャーポジティブ」の表現が明記された
②生物多様性の減少が著しい「淡水域」も保全対象に
③絶滅危惧種への対策は「後退」
④目標や実施状況を報告する義務はなし
・ビジネス側の発言に拍手喝采の場面も
・2030年まであと8年、やるべきことは?
①生物多様性に取り組む「前提」を知る
②企業がやるべきことは?
③政府がやるべきことは?
生物多様性「世界の新目標」のポイントとは?
①「ネイチャーポジティブ」の表現が明記された
今回の新目標で注目したいポイントの一つは、2030年までに「生物多様性の損失を止め反転させ回復軌道に乗せるための緊急な行動をとる」という文言が明記されたことです。
「損失を食い止めるだけでなく、回復に向かわせることを意味する『ネイチャーポジティブ』を目指していくことを、世界188カ国が同意しました。大きな一歩だと思います」と松田さんは話します。
前身の2020年までの目標を定めた「愛知目標」では「生物多様性の損失を止める」だった表現が、今回の世界目標では「回復に向かわせる」と一歩踏み込んだ表現になりました。
②生物多様性の減少が著しい「陸水域」も保全対象に
ネイチャーポジティブの実現に向けて、具体的にどのような目標値を掲げるかは大きな焦点の一つでした。
ドラフトの段階では、世界全体の陸域と海域の30%を保護区とする「30 by 30」が提案されていましたが、一時は30%以下を主張する国々もおり、交渉は予断を許さない状況だったと松田さんは言います。
そんな議論の末、2030年までに世界全体の陸域と海域、そして陸水域30%を保全する「30 by 30」の目標が決定しました。特筆すべきは、湿地や河川などの陸水域が含まれたことだと松田さんは指摘します。
「WWFの調査によると、淡水域の生態系は、過去50年間で84%減少するほど危機的な状況にあります。WWFとして淡水域も目標に含めることを求めていたものの、難しい要求だと思っていました。しかし最終的に目標に含まれることになり、正直とても驚きました」
③絶滅危惧種への対策は「後退」
生態系は絶妙なバランスで成り立っており、一つの種の絶滅が全体のバランスに大きく影響することもあります。また、一度失われてしまうともう元に戻すことはできない「不可逆的」なものでもあります。
松田さんは、「絶滅危惧種をゼロにする」という明確な目標を立てることは非常に重要なポイントの一つだったと言います。
しかし、「2050年までに絶滅速度の絶滅リスクを10分の1にする(ゴールA)」「絶滅危惧種の回復と保全のために緊急の管理行動を確保する(目標4)」など、むしろ後退してしまったのではないかと松田さんは指摘します。
他にも、大量生産・大量消費による環境負荷(フットプリント)に関する具体的な削減目標は記載されていない(目標16)など、“甘い目標設定”になってしまったのは残念なポイントです。
④目標や実施状況を報告する義務はなし
高い目標を掲げたとしても、実際に行動しなければ意味がありません。完全に達成できた目標がゼロだった「愛知目標」の敗因は、国際目標と国家目標の整合性が取れていなかったことが指摘されています。
気候変動におけるパリ協定では、各国の気候変動対策と温室効果ガスの削減目標(NDC)を5年ごとに提出・更新することが「義務」になっています。このプロセスがあることで、世界の目標と各国の目標の整合性を取ることを求められ、また進捗を確認しあいプレッシャーを掛け合うことができます。
WWFは同じようなプロセスや、各国の目標や進捗報告の「義務化」をCOP15でも求めていたと松田さん。残念ながら進捗をモニタリングし評価する仕組みについて記載はあるものの強制力はなく、自主的な参加を求めるにとどまりました。
ビジネス側の発言に拍手喝采の場面も
生物多様性条約のCOPの特徴は、各国の代表だけでなく、先住民やユース、女性、NGO、ビジネスなど様々な立場の人々が議論に入っていくことができる点です。
特に印象的だったシーンは、企業や金融機関の情報開示に関する目標15の議論の時だったと松田さんは言います。
「ビジネスセクターの情報開示の義務化について、各国の意見が真っ二つに割れてしまった時、議長が企業側の意見を聞いてみましょうと、一人の女性にマイクを渡しました」
その女性は、Business for Natureという経済界を中心としたイニシアチブのエグゼクティブディレクター、Eva Zabeyさん。Zabeyさんは、「前向きな企業は、野心的であることを求め、より強力な規制を求めています」と情報開示の義務化を後押ししました。
ビジネスサイドからより厳しい情報開示の「義務化」を求める声に、会場は拍手に包まれたと松田さんは言います。
「ビジネスサイドから政府により積極的な取り組みを求めてきたBusiness for Natureや、今年の9月には最終提言をまとめる予定の自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)など、ビジネスサイドの動きが各国政府の動きに先行している面もあります。
結局、その後議論は紆余曲折あり『義務化』には至りませんでしたが、企業に情報開示を求めることは明記されました。これもCOP15の大きな成果の一つでした」
2030年まであと8年、やるべきことは?
①生物多様性に取り組む「前提」を知る
2年遅れで世界の新しい目標が決まり、ネイチャーボジティブの実現に向けて動き出す2023年。あと8年しかない中、まずやるべきことはなんでしょうか?
松田さんは、「政府にも企業にも個人にも、まずは生物多様性は一度失われると元に戻らない不可逆的なものだという前提を持ってほしい」と話します。
「虫が一種類くらいいなくなっても大丈夫じゃない?なんて人もまだまだ多いのですが、種が一ついなくなるだけで、生態系のバランスに大きな影響があるということを心に留めておいてほしいです」
②企業がやるべきことは?
ビジネスセクターには「どんなに小さなことでも、事務所の一つからでも自然情報の開示に取り組んでもらえたら嬉しい」と松田さんは話します。
「世界の潮流を見れば、いずれ情報開示が『義務化』になることは明らかです。生物多様性への影響を把握することは複雑で不確実性も高いことを前提に、まずはやってみて改善を繰り返すしかありません。WWFも具体的にどのようなツールや基準が使えそうかなど、できる限りのサポートしていく予定です」
③政府がやるべきことは?
日本政府は2023年、COP15の結果を受けて次期生物多様性国家戦略を検討する見込みです。COP15で具体的な数値目標がない項目もある中、各国の政策でどこまで数値目標を詰められるかが勝負になると松田さんは指摘します。
「日本政府には陸域、海域に加え陸水域の30%を保護すること、さらに『面積』だけを求めるのではなく、『質』も求めてほしいです」
今の次期生物多様性国家戦略の議論を見ていると、生態系の保全と経済が結びついているように見えません。日本は良くも悪くも“経済中心”の国です。本来生態系の保全は経済効果が高い側面もありますので、ネイチャーポジティブを見据えて次期戦略を策定していただきたいと思っています」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
生物多様性、わかりやすく解説。COP15で決まった「世界目標」4つのポイントは? 2023年は何をするべき?