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ビジネスの土俵が、私たちを“悪人”のようにする。ではどうすれば? ソーシャルビジネスの先駆者が語る「構造の変え方」

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現在の日本は“SDGs2.0時代”にあるーー。

SDGs実現に向けた環境整備が整い、「サステナブルアクションのPDCAを実際に回していく段階に入っている」と語るのは、Makaira Art&Design代表・大畑慎治さん。このフェーズで重要なのは、先駆者から学ぶ視点と、具体的アクションへと落とし込む実践の場だといいます。この2つを実現する場として、Makaira Art&Design主催の ザ・ソーシャルグッドアカデミア が開校しました。

第1回目のテーマは「SDGs2.0時代のソーシャルグッドクリエイション」。ソーシャルグッドを社会実装していく上で重要となる“マインドセット”を軸に、社会起業家のプラットフォームを運営する株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役副社長・鈴木雅剛さんと大畑慎治さんが語り合いました。

ザ・ソーシャルグッドアカデミア 第1回の様子ザ・ソーシャルグッドアカデミア 第1回の様子

ビジネスという土俵が、私たちを“悪人”のようにする

多くの人が、社会課題への関心・危機感を持っている昨今。しかし、その解決の手立てをビジネスとして確立させることに困難を感じる人は少なくありません。

鈴木さんは言います。

「日本のビジネスパーソンは、一人で食べて生きていく分には困っている人は少ないかもしれない。けれど、社会問題を取り扱うニュースを見て、社会への違和感を抱くようになった人は多いはずです」

しかし、抱いた“違和感”を解決に向けたアクションに繋げるのが非常に難しいと指摘します。

鈴木さんはこれまで何千人もの人に、ビジネスに関する次のようなクイズを出題してきました。

“もし、あなたが経営者だったとしたら、利益をあげるために何をする?”

この問いに多くの人が「仕入れ先に金額交渉をする(値切る)」「品揃えの良い大企業と契約をする」などと回答したそうです。

「シンプルに『売上をあげる』と答える人が5%くらいしかいないんです」と鈴木さん。

採用戦略なども同様です。経営が厳しい状況の時に誰を採用する?と尋ねれば、「イレギュラーが発生しやすいシングルマザーより若い男性を採用する」と答える人が大半。

「目の前の課題にしかトライできない人が非常に多い。なかなか未来を作るアクションができないんですね。でも、これらの選択をする人は“悪人”なのでしょうか?そうではありませんよね。ビジネスという土俵がそうさせている。そこに上がると、人が悪気なく効率を優先させるような構造になってしまっているんです」

ザ・ソーシャルグッドアカデミア 第1回の様子ザ・ソーシャルグッドアカデミア 第1回の様子

自分の仕事が社会問題の解決へと繋がっている状態が一番いい、としながらも、その実現が叶わないケースが多い理由を、「効率を最重要視するビジネスの構造が問題である」と鈴木さんは分析します。

だからこそ、時に意図して非効率を巻き込み、「自分の理想とする社会を実現する」ことを念頭に置いて事業を進める姿勢が重要だと説きました。 

“にわか層”と“ファーストペンギン”に着目せよ

大畑さんは鈴木さんの話に同意しながら、ソーシャルグッドが進んでいない現状の背景にある「政府、企業、生活者の“三律背反”な関係性」にも着目。それぞれがそれぞれに期待を寄せている状態から硬直し、具体的な課題解決のアクションの促進に発展していないと指摘します。

では、私たちは企業で働く者や生活者としてどう取り組めばいいのでしょうか?

ひとつの答えとして大畑さんは「ソーシャルグッドのFun化」を提言。「企業はマーケットがあれば事業を展開しやすい。そして、マーケットを作るためには“にわか層”の存在が重要」と、2019年のラグビー・ワールドカップやカープ女子を例に話します。

さらに、完璧さを求めすぎない「大らかさ」の重要性も指摘します。

「ソーシャルグッドであるために完璧なビジネスモデルを求められ、そうでないと批判される状態だと企業も失敗を恐れてしまいますよね。挑戦を受け入れる大らかな世論も同時に必要です」と、生活者側の受け取り方にも言及。

過去にソーシャルグッドな取り組みが炎上したケースを参照しながら、日本の完璧主義・同調圧力の傾向が企業に二の足を踏ませている事実を明らかにしました。

にわか層とおおらかな世論によって生まれるソーシャルグッドなビジネスに対しての“ゆるい姿勢”が、海外では好事例を生んでいます。大畑さんはオランダへ足を運んだ際に、「ビジネスを企てる人たちのマインドが日本と全然違う」と実感したそうです。

例えば、オランダ・ロッテンダムにあるシェアオフィス・Blue Cityの併設カフェ。フードマイレージ(食料の輸送距離)を意識し、燃料および排出されるCO2を削減するために50km圏内の食材のみを使用していますが、ワインだけは「美味しいものを飲みたい!」という気持ちを優先して、イタリアから輸入しているそうです。

「おおらかさ」の事例として紹介されたオランダでの取り組み「おおらかさ」の事例として紹介されたオランダでの取り組み

「日本であれば、『フードマイレージを意識しているって嘘じゃないか!』と批判されそうだが、これが受け入れられている。完璧さばかり求めれば進まないし、面白さも失われてしまう」

以上のようにFun化が進んでいけば、企業・生活者の両方のマインドが変化し、三律背反の関係に変化が生まれるのではないでしょうか。

複数の事業モデルを世に送り出しているボーダレス・ジャパンも、常識や先入観を排除したアイデアから成功例を生み出してきました。

鈴木さんは言います。「選択肢が日常にあれば、生活者の日常は当たり前のようにサステナブルになっていくでしょう。選択肢を提供する事業者の増加は、成功モデルの増加に比例します。成功した事業は、みんなが真似をしていく。まずは解決したいと思っている人が、ファーストペンギンになることが大事」

そして、次のように参加者を鼓舞しました。

「今の常識は、未来での非常識になっているはずです。新しい常識に向けてとにかく一歩、動き出しましょう」

ザ・ソーシャルグッドアカデミア 第1回の様子ザ・ソーシャルグッドアカデミア 第1回の様子

どうすれば「ファーストペンギン」になれるの?先達に学ぶ。

ファーストペンギンたちは、どのようにして果敢な挑戦を続けているのでしょうか。すでに走り出しているビジネスパーソンたちのマインドを探れば、モチベーションの源泉が見えてくるはずです。

ボーダレス・ジャパンが主宰する社会起業家養成所「ボーダレスアカデミー」の受講生たちを見てきた鈴木さんは、「最初から社会や皆を最優先に動ける人はなかなかいない」と指摘します。

しかし同時に、過去の受講生らが段々と着実に「“理想の社会を実現したい”という思いを抱き、理想を自分で語るように」なっていく姿に気づいたと言います。

鈴木さんは多くの社会起業家のモチベーションの源泉の変化を、4つのフェーズに分類し、解説しました。

①外発的に欲を満たし/欲が利己に向いている:“いいね”要求型
②外発的に欲を満たし/欲が利他に向いている:“ありがとう”要求型
③内発的に欲を満たし/欲が利己に向いている:“やりたい”追求型
④内発的に欲を満たし/欲が利他に向いている:“理想”追求型

①から④へと変わっていく自分を認識しながら、あり方を考えていく過程こそが大事だと鈴木さんは強調します。

「“いいね”要求型は依存している状態。皆ここからスタートするんです。自立自走が実現している“理想”追求型に変わるには、自己受容が欠かせません。自分に向き合い、あらゆる選択肢をある意味で“ポジティブに諦め”、私はこれをやるんだと決め込んだときに自立自走へと変わっていけます」

自立自走とは、理想の実現のために自ら哲学し、意思にもとづいて自己決定し行動する状態と定義されます。この状態が実現する背景には、さらに4つのステップがあると分析。

①自己決定・行動することにより②想像を超越する失敗体験によって自己の無力さを理解し、③仲間のサポートに心から感謝し、それを受けて成功することで④より本当の利他心と志が育まれる——この4サイクルを繰り返していくことで、“理想”追求型へと近づくと鈴木さんはいいます。

「鈴木さんはもう仙人の域に達していますね(笑)」という大畑さんの言葉に、会場からは賛意を示す笑い声があがりました。

ザ・ソーシャルグッドアカデミア 第1回の様子ザ・ソーシャルグッドアカデミア 第1回の様子

総力戦での取り組みがソーシャルビジネスを加速させる

ソーシャルグッドを実装するためのマインドセットを語り合った60分のセッション。

最後に、それぞれ一人のビジネスパーソンとして、ソーシャルグッドチャレンジで大切にしていることを語りました。大畑さんが1つ目に挙げたのは、個々人のウェルビーイング。

一般的に事業開発の土台にはプロダクトアウト、マーケットインの概念があります。対して、大畑さんはソーシャルグッド領域の事業では自己の熱い思いが起点となるセンスアウト、社会が必要とするものを提供しようとするソーシャルインこそ重要なのではないかと提起しました。

大畑さんがソーシャルグッドの事業に欠かせないと語るマインド大畑さんがソーシャルグッドの事業に欠かせないと語るマインド

「マーケットの開拓と、社会課題を解決する技術の開発、その両方をやり切るには、個人の思いは蔑ろにできません。ただ、そんな高尚な思いを掲げている人は、ごく一部。もっと『利己的な欲求がスタート地点でもいい』という意識を広めるべきではないでしょうか。鈴木さんが提示したモチベーションの推移に則って人が変わっていけるのであれば、ソーシャルグッドな事業の選択はよりマスなものへと変化していくでしょう」

鈴木さんも頷きながら付け加えます。「事業計画の最初の段階から、“理想の社会のあり方”を見据えて、それを目的に据える。これさえ守られれば、始めたときの欲求が利己的なものでも、利他的なものでも、どちらでもソーシャルグッドな取り組みの実装になると思います」

大畑さんが大切にしていることとして2つ目に挙げたのは、社会視座マーケティング。
「企業として社会課題にチャレンジしようとした時、一社で解決できない場合も多くあります。しかし、世の中にはいろんなリソースが溢れていますよね。“皆で社会課題を解決していく”という意識のもと、視座を1レイヤー上げてアイデアを模索することも大切だと考えています」

ボーダレスグループは、大畑さんが提言する社会視座マーケティングが実現している好例です。「良い社会にしよう」と志を持って取り組んでいる複数の事業のノウハウ・人材・資金を共有し、社会課題の解決に伴ってグループ全体を成長させています。

「ソーシャルグッドな事業を成功させるには、助け合いが大事です。近年、個の時代と言われ、あらゆる失敗の原因に自己責任論をぶつける状況になってしまっています。けれど、本当にそうなのでしょうか?よくよく見ると、社会のあり方・仕組みに課題がある場合も多い。社会に対してアプローチするには、助け合って、総力戦で取り組むべきです。その時、リソースや強みの切り口が多い母集団である方が早く理想の社会に近づけると考えているので、グループ全体で成長していくことを志しているのです」(鈴木さん)

トークセッションの締めに、大畑さんから「鈴木さんにとってのソーシャルビジネスとは?」と問いかけが…。

鈴木さんの答えは「お互い様」。

「お互い様の観点がないと、支援の関係になり、社会課題の当事者側が受け身になってしまったり、尊厳が失われたり……そうじゃなくて、お互いの良いところを出し合う姿勢を大事に、ソーシャルビジネスをやっていきたいですね」(鈴木さん)

さまざまな会社、事業、コミュニティを越境してソーシャルビジネスの実装に数多く携わってきた鈴木さんと大畑さん。それぞれの視点から、SDGs2.0時代のヒントが浮かび上がりました。

執筆=野里のどか
編集=黒木あや・前田朱莉亜(ハフポスト日本版)

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ビジネスの土俵が、私たちを“悪人”のようにする。ではどうすれば? ソーシャルビジネスの先駆者が語る「構造の変え方」

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