性暴力被害を公表したジャーナリストの伊藤詩織さんが、自身を誹謗中傷するTwitter上の複数の投稿に「いいね」を押され名誉を傷つけられたとして、自民党の杉田水脈・衆院議員に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京高裁は杉田議員に55万円の支払いを命じた。
誹謗中傷ツイートに対する「いいね」が、名誉を傷つける行為として法的責任を問えるかどうかが争点となっていた今回の裁判。
伊藤さん側の請求を棄却した一審の東京地裁判決から、逆転勝訴となった。
高裁判決は、杉田議員の「いいね」が「控訴人(伊藤さん)の名誉感情を害する意図をもって行ったものと認められる」と判断した。
伊藤さんは判決後の記者会見で、「誹謗中傷ツイートに『いいね』を押すことが、今の法律でどう議論されるのか見るためにも起こした裁判だった」と振り返り、「名誉感情を害する意図を持っていたと認められた判決は、インターネット上での誹謗中傷に関する議論の前進にとって大きな一歩になったと思います」と述べた。
杉田議員は、伊藤さんに対するTwitter上の匿名アカウントによる「枕営業の失敗」「自分の望みが叶わないと相手をレイプ魔呼ばわりした卑怯者」「カネをつかまされた工作員」といった計25件の中傷の投稿に「いいね」を押していた。
伊藤さんは、誹謗中傷を受けて「崖っぷちに立たされているような気持ちになった」と明かし、「指先ひとつでハートマークを押すことが、どれだけ誰かを傷つけてしまうか、深く受け止めてほしい」と心境を吐露。
「これから『いいね』をする時は、その意図を考えてほしいです。もし誰かを傷つける意図があるのなら、思いとどまってほしい」と力を込めた。
「証拠に照らして判断」と評価
一審判決は、「いいね」はブックマークや備忘などの目的で使われることもある上、「いいね」を押すこと自体からは「感情の対象や程度を特定することができず、非常に抽象的、多義的な表現行為にとどまるもの」だとした。
一方で高裁判決は、「いいね」が名誉感情を侵害する行為かどうかは、対象ツイートの内容や「いいね」をした人とツイートで言及された人との関係、「いいね」が押された経緯を検討する必要があると指摘。
その上で、ツイートの内容や前後の文脈などを踏まえ、杉田議員の「いいね」が伊藤さんの名誉感情の侵害にあたる、と判断した。
伊藤さんの代理人の佃克彦弁護士は、高裁による判断の枠組みに対し「証拠や具体的な事実関係に照らしてきちんと判断してくれた点で、非常に素晴らしい判決だ」と述べた。
佃弁護士によると、「いいね」の不法行為が認められた判決は全国で初めてとみられる。
ただ、今回の高裁判決が社会に与える影響については、「本件は杉田氏と伊藤さんとの関係や従前の経緯などを踏まえた上で(「いいね」が)違法だと認定したというケースで、あくまで特定の事例における判断。『いいね』が不法行為となった、という先例として世の中に広まっていくのは本意ではない」と強調した。
高裁の判決理由は?
高裁判決では、対象ツイートの内容は、「さしたる根拠もなく控訴人(伊藤さん)が性被害を受けたとの事実を否定した上で、控訴人らを揶揄、中傷し、あるいは人格を貶めようとして侮辱するものであるから、控訴人らの名誉感情を侵害するものと認められる」と指摘。
「いいね」の回数が計25回に上ったことや、杉田議員が「いいね」以外にも伊藤さんに対して揶揄や批判などを繰り返していたことに触れ、「単なる故意にとどまらず、控訴人の名誉感情を害する意図をもって(「いいね」の)押下行為を行ったものと認められる」と判断した。
さらに、 杉田氏が当時11万人のフォロワーがいたことや、国会議員であることから、「その発言には一般人とは容易に比較し得ない影響力がある」として、「いいね」を押した行為が「名誉感情を違法に侵害するもの」だと認定。「控訴人の精神的苦痛は軽視し得ないものというべき」だと結論づけた。
杉田議員「対応を検討」
杉田議員の事務所は判決を受け、「原審と異なる判断をされたことから、判決内容をよく精査し、対応を検討します」とのコメントを出した。
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伊藤詩織さん「指先一つでどれだけ傷つけるか、深く受け止めて」杉田議員に逆転勝訴、ネット中傷への心情明かす